婚約継続中なのに逃亡?元悪役令嬢、勘違いで癒しカフェ開店中

しずく葉

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28. パンとリボンと、いたずらなしっぽ

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カフェの玄関先、春の陽射しがやさしく降り注ぐ朝。
クラリッサとレイナは、そろって鏡の前に立っていた。

「ふふっ、お嬢様。おそろいなんて、ちょっと照れくさいですね」
「でも、なんだか嬉しいですわ。こういうの……昔みたい」

ふたりが身につけているのは、淡いミントと桜色を基調にした春らしいワンピース。
襟には同じデザインの小さなレースが、そして帽子にもおそろいのリボンが揺れている。

「わたくし……昨日からずっと、楽しみだったんですのよ」
「え? 昨日から?」

「いえ、正確には……その、嬉しすぎて……ほとんど眠れませんでしたの」
「まぁ、レイナったら……ふふっ」

ふたりで顔を見合わせて笑い合う。
そのとき──

「にゃ~ん……」

クラリッサのスカートの裾がふわりと揺れたかと思えば、
ルアがひょいっと飛びついて、帽子のリボンに前足をちょん。

「ちょっ……ルア、それはダメですっ!お出かけ用なんですから~~!」

「にゃにゃ~~~ん❤︎」

レイナが慌てて帽子を持ち上げると、ルアはしっぽをふわんと立てて、
「にゃにゃっ、にゃっ」と鳴きながら、今度はクラリッサのリボンを狙ってぴょい。

「もう……ルアったら!いたずらしないでくださいましっ」

「くぅ~ん……」

おや?というように振り向いたクラリッサの足元には、
すでに出発スタンバイ済みのフィロが、ぴたりと寄り添っておすわりしていた。

「……あなたたちも、一緒に行きたいのですの?」

「わふっ!」
「にゃにゃっ!」

レイナが手にしていたカゴに、ルアがちょこんと飛び乗る。
クラリッサの袖をちょんと前足でつついて、得意げな表情。

「なんだか……もはや、四人でのお出かけが定番になりそうですわね」

「それもまた、楽しゅうございますわ」

ふたりで笑いながら、春色の帽子をかぶり、そっと出発した。
今日の街は、きっとにぎやかになる。



街に出ると、春祭りの準備が進んでいたのか、どこも華やかな装いだった。
リボンのついた旗が風に揺れ、通りには花かごを並べた露店が並んでいる。

「まぁ……あちらの雑貨屋さん、春らしくて素敵ですわ!」

「見てください、このカップ……!お嬢様、このお色、お好きでしょう?」

「うふふ、バレました?」

クラリッサとレイナは、雑貨屋の軒先で並んでしゃがみ込み、
ティーカップの色合いや花模様を見比べては、あれこれ言い合っていた。

「お嬢様には、このカップが合いそうですね」
「じゃあこっちは、レイナにぴったりかしら。ちょっと大人っぽくて」

「やだ、もう……ふふっ」

ふたりは久しぶりに“女の子同士”に戻ったように、笑い合う。

そんな彼女たちのすぐそばで──

「にゃ~ん……」

ルアは雑貨屋の軒先で、吊るされた風鈴をじっと見上げていた。
風が吹くたび、ちりん、ちりん……と揺れるガラス細工。

「にゃっ……!」

前足がぴょいと伸びた。
ちょん、と触れた瞬間──

「ちりちりちりちりちりりり~~~ん!!」

「にゃにゃっ!?」

風鈴が一斉に鳴り出して、ルアはびっくりして飛びのいた。
風鈴たちはガラスのダンスを始めたように、ちりんちりんと高らかに響き渡る。

「あっ……ルアっ!! 」

クラリッサが駆け寄ると、風鈴のそばでしっぽを逆立てたルアが、ぷいっと横を向いた。

「にゃにゃっ!!」



そのころフィロはというと、
少し先のスイーツ店の前で、ぺたんとおすわりしていた。

「……わふ」

店の前に飾られているのは、小瓶に入ったカラフルな砂糖菓子。
日差しにきらきら反射して、宝石みたいに光っている。

「くぅ~ん……」
「くぅ~ん……」

ついにはお店の子に「あげてもいいですか?」と声をかけられ、
「わふっ!!」と即答でひと粒もらうフィロ。

「……も、もう……あなたたちってば」

レイナがため息をつきながらも、笑いをこらえてクラリッサと顔を見合わせた。

「騒がしいけれど……」

「楽しいですね」

春の街に、もふもふと笑い声がよく似合う。



扉の前で「わふっ!」「にゃにゃっ!」と盛り上がっていたもふもふ二匹は、
パンの香りに導かれるように、するりと店内へ入り込んだ。

「お、おい……!?」

中にいた店主のおじさんが、あわてて顔を上げる。

「な、なんだ!? 猫と……犬!? 」

店主はバタバタとカウンターの後ろから出てきて、
ルアとフィロを指さしながら目をぱちぱち。

「お、お嬢さんたち、ペット……で、よろしいんですかね……!? 」

「す、すみませんっ!いま、すぐに──!」

レイナが赤くなりながらルアを抱え、クラリッサもフィロを抱っこしようとしたが、
フィロは「わふっ!」と元気よく逃げ出して、棚の前でおすわり。

「くぅ~ん……」

じっと見つめる先には──焼きたてのハニーパン。

「こら……フィロ……!」

「にゃにゃ~っ」

ルアもレジ横の棚を物色するように、しっぽをくるくる回しながらうろうろ。

店主はしばし無言でその様子を見て──
ふいに、豪快に笑った。

「……はっはっはっ!!いや~、びっくりしたが、ずいぶんと愛嬌のある子たちだな!」

「ほっ……よかった、怒られなくて……」

クラリッサが胸をなで下ろしながら、そっと微笑む。

「どれでも好きに見てってくれな、お嬢さん。焼き立てだぜ。甘いのも、しょっぱいのも、ぜ~んぶある」

「ふふ……せっかくですし、たくさん買って帰りましょうか。お屋敷のみんなにも、お裾分けしませんとね」

「そうですわね。奥様もパン、お好きでしたものね」

「にゃ~ん♪」



ようやくすべての買い物が終わり、お店を出た一行。
袋を抱えてクラリッサとレイナが笑い合う後ろで、

「わふっ!」

フィロが、ひときわ小ぶりな紙袋をくわえた。

「……持つの?その袋」

「わふっ!」

袋の中には、ルアのお気に入りのフルーツパンと、フィロ用のハニーパン。

「にゃ~……」

そのすぐ横を歩いていたルアが、ちらちらと視線を向ける。

袋、ちらっ。フィロ、ちらっ。
耳ぴくぴく、しっぽくるん。

「にゃにゃ……にゃ……」

ルアは袋を咥えて歩くフィロの後ろを、
どこか落ち着かない様子で、しっぽを小さく揺らしながらついていく。
ちらり、またちらりと視線を向けては──
「落とさないでしょうね」とでも言いたげに、ひと鳴き。

「わふっ!」

フィロは振り返りもせず、袋をくわえたまま胸を張って一声。
しっぽをふんっと跳ね上げるその姿は、
「まっかせて!」と自信満々に宣言しているようだった。

時々、少し足元がふらつくと、

「にゃっ!」

「わふっ……っ!」

バランスを取り直しながら、なんとか袋を守るフィロ。
その横でルアがソワソワ、心配そうにぴょんぴょん足取りを合わせる。

「……ふふっ」

クラリッサがそっと笑いながら、その背中を見つめた。

「なんだか、頼もしいような、心配なような……」

「……かわいいですわね」

春の陽射しの中、もふもふと紙袋が揺れながら、
にぎやかな帰り道が続いていた。



《cafe fuu》の木の門が、ぎぃっと音を立てて開いた。
クラリッサとレイナが笑い合いながら戻ってくると、
そのすぐ後ろから、もふもふふたりが誇らしげに足音を鳴らして続いた。

「お疲れさまでした、ルア、フィロ」

クラリッサがそう声をかけると、
「にゃ~ん……」とルアは疲れたように鳴きながら、すとんと玄関先に腰を下ろす。

フィロはというと──

「わふっ!」

くわえていた小さな紙袋をそっとクラリッサの足元に置くと、
得意げに胸を張ってしっぽをぴん!と立てた。

「くぅ~~んっ♪」

「まぁ……ちゃんと最後まで運べましたのね。えらい、えらい」

クラリッサがふわりと笑いながら頭をなでると、フィロは目を細めてぺたんと座り込んだ。
その様子を見ていたルアが、紙袋をじっと見つめ、
「にゃにゃっ」と一鳴きしてから、さりげなくフィロの隣にごろん。

(途中で落とすと思ってたけど、やればできるじゃない)

……とでも言いたげな、ちょっと素直じゃない寝そべり方だった。



カフェのテラス席には、ほんのりあたたかい紅茶と、
少しつぶれてしまったけれど、香ばしいパンが並んでいた。

クラリッサが湯気の立つミルクを手に、ほっと息を吐く。

「騒がしかったけれど……楽しかったですわね」

「はい。……お嬢様と、こうして街を歩ける日が来るなんて……」

レイナがやさしく微笑むと、クラリッサも静かにうなずいた。

足元では、もふもふふたりが膝の上とクッションの上でぬくぬくとお昼寝。
パンの匂いと春の風に包まれ、心地よさそうな寝息を立てている。

──ぽかぽかとした午後。
何も起きない、けれど心に残る、そんな一日が終わろうとしていた。

「また行きましょうね。……今度は、もっと静かに」

「……にゃにゃ~~ん……」

「……わふぅ……」

返事のような寝言に、ふたりは顔を見合わせて、そっと笑った。




* * *



本日も《cafe fuu》にお立ち寄りいただき、ありがとうございました☕
お気に入りやご感想、とても励みになります。
次のお話も、あたたかな気持ちでお迎えできますように。
またのご来店、お待ちしております🌿
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