婚約継続中なのに逃亡?元悪役令嬢、勘違いで癒しカフェ開店中

しずく葉

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19. ささやかれた悪役令嬢

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──昼休み。授業を終えた学園の廊下に、涼やかな空気が流れていた。

談話室へと向かうクラリッサとアレクシスの前に、ふわふわとした髪を揺らして現れたのは、男爵令嬢セシリアだった。

「まあ、クラリッサ様にアレクシス様! どちらへ行かれるんですの?」

唐突に現れたセシリアに、クラリッサは一瞬だけ足を止める。

「……談話室へ。少しお茶をいただきに」

「まぁっ、談話室って一度も入ったことがありませんの! わたくしもご一緒しても?」

クラリッサは、口元に微笑を浮かべたまま、少しだけ言葉を選んだ。

「申し訳ありませんけれど……少し、大切な話もございますの。今回はご遠慮いただけると……」

だがその瞬間、セシリアは表情を曇らせ、声を張り上げた。

「わたくしが庶民出身だから……そんな意地悪をなさるのですか?」

周囲にいた生徒たちが一斉に振り返る。

クラリッサは一瞬まばたきをしてから、静かに応じた。

「セシリア様、落ち着いてくださいまし。そんなつもりではございませんわ」

「迷惑だなんて、ひとことも申し上げておりません。ですが、今日は……」

「……仕方ないな。セシリア嬢も、ご一緒にどうぞ」

アレクシスが静かに口を挟むと、セシリアは途端に笑顔になり、クラリッサの隣へと並んだ。

──談話室。

白いティーテーブルに並べられた銀のティーセットと、繊細な焼き菓子。
クラリッサとアレクシスは対面に座り、その間にセシリアがふわりと腰を下ろす。

一口サイズのパイを手にしたセシリアは、さっそくもぐもぐと頬張りながら、無邪気に笑った。

「クラリッサ様って、いつもこんな場所でお茶してるんですの? お姫様みたいで素敵ですわ~っ」

──くしゃ。

咀嚼音とともに、サクサクとしたパイの香りが辺りに広がる。

クラリッサは、静かに紅茶のカップを置いた。

「セシリア様。申し訳ありませんが、お菓子を口に入れたままの会話は、お控えくださいませ。」

その声音は柔らかかった。けれど、その場の空気は、ほんの少しだけ張りつめた。

セシリアの手がぴたりと止まる。

「……わたくし、本当にダメですわね。何度も注意していただいているのに……」

「学びに遅いも早いもございませんわ。次回からお気をつけになればよろしいのです」

そう言って、クラリッサは再び穏やかにカップを口元へと運んだ。

けれど、セシリアはそのまま黙り込み、やがてそっと席を立って部屋を後にした。

──その日の午後。

中庭のベンチに座っていたのは、セシリアと、同じく上級貴族の令嬢・リリィナだった。

「……セシリア嬢、どうなさったの? 目が赤いわ」

セシリアは、控えめに唇を噛みしめた後、ぽつりとつぶやいた。

「さっき……クラリッサ様にまたマナーのことで叱られてしまって……。わたくし、庶民出身だからって、やっぱり馴染めないのかしら……」

リリィナの眉がわずかに寄る。

「まあ……クラリッサ様も、もう少し言葉を選ばれればよかったのに。人前でそんなふうにおっしゃるなんて、少し酷いですわね」

「い、いえっ! クラリッサ様は悪くないんですの。わたくしが未熟だから……っ」

「でも、それで貴女が泣く羽目になったのなら、それはきっと……」

リリィナの口調は同情を含みながらも、どこか遠くの生徒たちに聞こえるような大きさだった。

それは、確かに“噂”としての種になった。


* * *


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