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しおりを挟む「あら、どうしたのリリス?」
「お母様…少しお話ししたいことが」
広い執務室の中で帳簿と睨めっこをしていた母に声をかける
私と同じ銀髪に黒い瞳を持つ母は侯爵夫人として美しく着飾っており実年齢よりも若く見える美魔女であった
「貴女が用があるなんて珍しいわね」
「確認したいことがありましたから」
母が使っている大きな机の前に並べられたソファに腰を下ろし母に視線を向ける
少し休憩しましょう。と母付きの侍女に声をかけ私の目の前のソファへと母が座り直す
「成婚式のこと?」
「いいえ。ロベリアのことです」
「…あの子がまた何かしたの?」
ニコニコとしていた母だったがロベリアの名前を出した途端、眉間に皺が寄る
ロベリアの話は母にとってタブーでもあった為、今までは避けてきた内容だったがあの光景を見てしまった私としてはそんなことはどうでもよくなっていた
「お母様がロベリアとエルムが別邸に移ることを許可したと聞きました」
「あぁ。そのこと。もう1年も前の話よ」
今更それがどうしたの?と首を傾げる母の姿に私はどうしようも無い憤りを感じた
「では、あの2人が婚姻前に男女の仲になっていることは?」
「それも確認済みよ。エルム本人から聞いたわ。」
その言葉を聞いた私は言葉に詰まった
なぜ、母はそれを知りながらも平然としているのか、と
「私も聞いた時は驚いたわ。でも、2人は婚約者だし、それにエルムが言ったのよ「男女の仲になったことに目を瞑ってくだされば、ロベリアを完璧な淑女にします」とね」
「エルムがそんなことを…?」
「ええ。最初は半信半疑だったけれど…実際にロベリアは社交の場に出しても問題ないレベルにまできているわ」
母の言う通り今のロベリアは次期小侯爵夫人として紹介しても差し支えないほどおとなしくなっていた
だが、どこか腑に落ちない私は母に問いかける
「お母様はその内容をしっているのですか?あんなに我儘…いえ、我が強かったロベリアがまるで借りてきた猫のように大人しいなんておかしいですもの」
「貴女が心配する理由もわかるわ。でも私としては大人しく問題を起こさねば良いと思うほどにはロベリアに関しては許してきてるつもりよ」
ロベリアに対して全く関心を持っていなかった母が彼女を認めてきているという事実に私は言葉を失った
心のどこかで母はきっと一生父とロベリアのことを許さないのではないかと思っていたからだった
「あの2人に、直接何があったか聞いてみたらどう?」
「そ、そうですわね。お時間をいただいてありがとうございます」
これ以上私からは言うことはない、と言外に伝える母の執務室を退室した
モヤモヤとした心の中はまるで梅雨時期に入った空模様のように重く、ねっとりと染み付いてきた
とぼとぼと廊下を歩く
(「私は、無意識にロベリアのことを見下していたのかもしれないわ」)
父の私生児。我儘で自己中なマナーのなっていない義妹
それが私の中でのロベリアだった
「井の中の蛙、ね」
人はそう簡単には変わらない
人間心理学の教師が言っていた言葉だ
だが、本人自体に変わりたいと言う動機があれば?
そしてそれを手助けする人物がいたのであれば、簡単に人は変われるのかもしれない
(「それでも、婚前交渉はよくないわ。そこだけは義姉として教えなければ」)
「シスル。ロベリアのところに行くわ」
自室に向かって歩いていたが、踵を返し、別邸に向かって歩き出した
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