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しょっぱい。
しおりを挟むフワーっとしてシャワーっとしたと思ったら気を失って、気がつくと殺風景な部屋に見たことのない爺さんと二人っきりだった。
あー、俺これ知ってる。
山伏ってやつでしょこれ。
胸んとこにポンポンついてて天狗っぽいもんね。
「さぁ! お主の力を見せてみよ!」
なんか言ってる……。
力って……力こぶでも見せれば良いの?
ねぇ、ちょっと、もうちょっと説明してくんない?
……いや、まぁ、見るからにやばそうな山伏コスプレ爺さんが言うところの「力」って、やっぱりアレの事かなぁ。嫌だなぁ。
俺の超能力、しょっぱいんだよなぁ。
◇◇◇◇◇
俺が俺の超能力に気がついたのは二十年ちょい前、小五の夏だった。
体育でプールに入った次の授業中、ちゃんと頭を拭かなかったらしい前の席のケンジ君の耳の後ろらへんの髪からぽたぽた垂れる水滴をずっと見てた。
ケンジ君のTシャツの肩がだいぶ濡れてきた頃もまだずっと見てた。
毛先に水滴が溜まって、垂れる。溜まって、垂れる。溜まって、垂れる。
ずっとそう。
溜まって、垂れる。溜まって、垂れる。溜まって、垂れ――ない。
ケンジ君の髪の水分が全部出た、出切ったんだ、と思ったらまた溜まって、垂れた。
その時はなんだかよく分からなかったけど、十回に一回くらいは溜まっても垂れなかった。
垂れなかったっていうか、溜まった水がスンッて無くなってる感じだった。
そのままその時間はずっと見続けてたら、ケンジ君の耳の後ろの髪の毛がちょっと短くなった気がした。
当時十歳の俺はさ、なんだかよく分からないけど胸ワクの不思議な事が起こってると思ったし、しかもそれが俺の『力』だってなんとなく感覚で分かってた。
次の時間はケンジ君の髪も乾いたみたいだから自分の下敷きをじっと見つめてた。緑色の透明のやつ。
でもなんにもなんなくて気のせいだったか、水滴にしか効かないのかのどっちかと思ったんだけど、今度はこのまえ下敷きにペン先が当たって書いてしまった油性ペンの黒い線をじっと見つめてみた。
そしたらパチッとかチッとかいう小さな音が聞こえてよく見てみたら油性ペンの線がちょっと消えてた。2㎜くらい。
ぬぉっ、とか、うぉっ、とかの驚きの声が出たけどゲフンゲフン言って誤魔化した。誤魔化せたかどうか確認する余裕もないほど驚いた。
で、よくよく見てみたらマッキーの線が消えたんじゃなくて、下敷きに真四角の穴が空いてた。
さらによく見たら机にも浅~い真四角の窪みができてたわけよ。
あの授業がなんの授業だったのか今でもさっぱり覚えてない。
パッチパチパチパチパチ空けまくったから。先生ごめん。下敷きもごめん。
穴だらけの下敷きと窪みだらけの机が出来上がって、担任にド突かれるまであけまくった。最近は先生にド突かれないらしいけどあの頃は普通にど突かれたもんだよね。
ま、下敷きはともかく机はまずかったよね。
興奮冷めやらずのまま給食食べて、午後の授業はうずうずしながら辛抱して、一目散に家帰って自分の部屋に飛び込んで。
穴だらけの下敷きを取り出して、空いた穴をきっちりと定規で測ってみるとやっぱりほとんど2㎜四方の正方形。
試しに下敷きの厚みを測ってみたら1㎜ないみたい。普通の定規だからよく分かんなかったけど、たぶん0.5㎜ちょっとくらい。
たしか机にできた窪みは1㎜ちょいだったと思う。
なんかよく分からんけど2㎜×2㎜×2㎜の四角い穴を空ける超能力らしい。
この時点で間違いなく超能力でしょうと確信してたんだけど、誰かに見せるにしても今のままじゃあまりにもしょっぱい。
という訳で特訓!
で、その日から五年くらい特訓したんだよ。毎日欠かさず最低一時間。懐かしい。
下敷きだと厚みが足りないから的を消しゴムに変えて、一個四十円の消しゴムを毎日毎日二、三個削りまくる日々。
特訓に加えて色々と検証もしてさ。削ったものは何処へ行くのかとか、立方体以外の形でも削れるのかとか、射程距離はどんなだとか。
中学生の頭でも思いつくものは全部やった。
そいでその結果。細かいことは全く分からんままに器用さと出力だけがレベルアップした。
2㎜四方だった穴が小六の夏頃には2.2㎜くらい、中一の夏頃には2.5㎜弱、クリスマスにデジタルノギスもらった中二で2.66㎜、中三で2.92㎜……
そりゃ止めるっつうの。
一年で1.1倍だぞ?
五年間毎日毎日やって出力アップしたのが2.92㎜なんだもんよ。
特訓止めてから十七年。たま~に超能力使う事もあったけど、変わってないんだろうね。2.92㎜から。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さぁ! お主の力を見せてみよ!」
嫌だなぁ。絶対に『しょっぱ』って言われるんだろうなぁ。
まぁ見せるけどさ。怒ったら嫌ぁよ。
怪しげな山伏おじいちゃんは輪切りの丸太を指し示し、どうやら俺の超能力をここに使えと、そう言っているらしいんだけどいらんよそんな大きな的。
でもやらなきゃ済みそうにないんでやったりました。パチッと。
「うぉっ!」
当時見慣れた2.92㎜よりめっちゃ大きい!
1㎝以上はある穴が丸太のてっぺん真ん中にパチ。おいおいおい。ぱっと見で多分1.5㎝くらいあるんじゃねぇ?。遂に大台じゃんか。
特訓してた頃は年に1.1倍だったから、あのまま特訓を続けてたら確か……、いま三十二歳だから31回成長の14.8㎜になってる筈。おいおいおい。練習してなくても成長するんじゃねえか俺の消しゴム代かえしてくれよ。
と言っても1㎝ちょい。俺には大きな成長だけど、成長してたって山伏おじいちゃんは納得しないだろうね。しょっぱいもんね。ごめんね。
「んむ。まぁこんなもんじゃろ」
思ってたんと違って怒られも残念そうにもされなかった。良かった。
で、山伏おじいちゃんが言うには、今は明治7年なんだって。
何言ってんだおじいちゃん。ボケてる?
「お主の力はまだ小さい。あまりにも小さい。よってこれからこの力を大きくすべく、百五十年後のお主がいた時代まで生き抜かねばならん」
はいはいはい。2024年からちょうど百五十年遡ったのが今ってことね。
「今からちょうど百五十年後、我ら一族が封印した鬼が目覚める。それをお主はその力を使って殺さねばならんのだ」
あー、やっぱり見た目通りにヤバいコスプレ爺ぃだった。そんな事言ったって俺、息子をお風呂入れるところだったから肌着とトランクスだけなんすよ。
こないだ二歳になったばっかりの可愛い盛りが脱衣所ですっぽんぽんだから悪いんだけど帰って良い? もうすっかり冬だし風邪ひいちゃうじゃん?
だめだってさ。
というか今すぐには帰れないんだって。
さすがの俺も怒ったんだけど話を聞く限りとにかく百五十年頑張って生きてけば元には戻れるらしい。
頑張って生きたって百五十年は無理だけど。(笑)って感じっすよ。
「安心するが良い。お主は死なんし老いもしない。百五十年限定の不老不死だ」
へー、そうなんすか。不老不死(笑)。
けど、百五十年前ってのも、俺が不老不死になったってのも、全くもって信じられない話なんだけどこの殺風景な部屋の扉を開けたら片っぽは信じられちゃった。
これ少なくとも元いた時代じゃない。
割りと田舎みたいだけど、明らかに星の量がえげつない。
ちょっともう気持ち悪いくらい、逆にロマンチックじゃないくらいに満点の星空……
うん、ちょっともう信じたよ俺。百五十年前だわきっと。
2024-150=?
……そう! 1874年!
何が悲しいってさ。それが明治7年なのかどうかとかなんもピンと来ないって事だよね。分かんねーよ和暦。
375年ゲルマン民族大移動。
794年ウグイス平――へい……安京。
1192年作ろう鎌倉幕府。
1492年燃えるコロンブス。
1837年大塩平八郎。
1919年ベルサイユ条約…………
来た。平八郎とベルサイユの間か。
いや西暦だろうとなんだろうとちっとも分かんねえわ。
歴史あんまり詳しくないし、うん、考えたって分かんねえ。
まぁ良いや。そんなに歴史に興味もないし、坂本龍馬に会えるかも! とか別にいらないし俺。
いや明治になってるからもう居ないんだっけ? どうだっけ?
息子と嫁さんに会えるのはどうやったって百五十年先。
じゃあもうしょうがないから百五十年生きてこっかな。
山伏コスプレ爺さんがしばらくは世話してくれるって言うからとりあえず山伏爺いについていったらやっぱ凄い山奥。めっちゃ虫出そう。やだなぁ。
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