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8「マトンが現れた」
しおりを挟むアンセムの街へ向かう二日目。今日もお天気は悪くありません。テントや焚き火を片付けて早速出発です。
「今日も元気に歩きましょう」
「おす!」
街道に戻って歩き始めます。
それにしても昨夜のタロウには驚きました。いくらなんでも他人の魔力で火の魔法を使ってみせるとは、非常識にも程があります。
それなりに長く生きていますが、自分の魔力も感じられない初心者がそんな事をやれるものでしょうか。
「タロウ、昨夜の火の魔法が使えたのは凄かったですね。使えた事自体よりも発想が素晴らしいです」
「そうすか? 日本で読んでた漫画ではよくあるんすよ。オラの元気を分けるから使ってくれ的な」
マンガ? あちらの世界の物語のような物でしょうか。
「そちらの世界には魔法はなかったんじゃないですか?」
「マンガとか作り話の中だけっすね」
実際には魔法はないのに、物語の中には魔法があるんですか。想像力の豊かな世界なんですね。
「そういうものですか」
延々とまた歩きます。タロウは今日も魔力を感じようとウンウン唸りながら歩いているようですね。
大きい河に掛かった橋まで来ました。これでちょうど道のりの半分と少しです。順調ですね。
「おぉデカい河っすね」
「そうですね。アンセム領では1番大きな河です」
「このまま川沿いに行けば海に出るんすか?」
「はい、このまま南西に向かえば海ですね。この残された世界では1番大きな海です」
橋を渡りながらタロウは何か考えているようです。
「結界の一番端っこってどうなってるんすか?」
「どうもなっていませんよ。そこでこの世界は終わりです」
「海も陸も?」
「はい」
「結界の向こう側はどうなってるんすか?」
「向こうもどうもなっていません。昏き世界が広がっているだけです」
河を越えてまた延々と歩きます。このまま街道を行けば村もありますが、今回は急ぐ旅ですので、村へ向かう街道を逸れて森を突っ切ります。
森の手前で少し休憩し食事を済ませ、日暮れまでになんとか森を抜けて、明日の朝の内に街道に戻りたいところです。
森での野営は物騒ですからね。
「タロウ、森では周囲の警戒を怠らずに、素早く抜けたいと思います」
「熊っすか?」
「いえ、この森にはマトンが出ますので」
「……はぁ、マトンすか?」
「はい。一頭二頭ならどうという事もないですが、群れて出られると少しやっかいです」
首を傾げながらどこか納得行かない様子ですね。ヒツジがどうのこうのとぶつぶつ言っていますが何の事でしょうか。
この森は中心に向かってやや小高い丘になっています。丘の一番上まで真っ直ぐ行って、少し降った所でやはり出会いました。
マトンです。
タロウがまたぎゃぁぎゃぁ騒いでいますが、今はマトンを追っ払うか倒すかしなければなりません。向こうもこちらを敵と見做しているようです。
「タロウ、僕の後ろから出ないで下さいね」
後ろなのではっきりとは分かりませんが、コクコクと頷いているようです。
マトンはその巨体に似合わない速さでこちらに突っ込んできました。このまま躱すとタロウにぶち当たってしまいます。
では、こうです。
「風の大壁!」
僕の前方に、下から上に吹き上げる風の壁を作ります。ちょうどマトンの前脚が通り過ぎた辺りを狙いました。
マトンの胸の辺りを風が打ち付け、僕の頭より少し高いところまでマトンの体が浮き上がりました。今の衝撃で胸の骨は砕けたでしょうが、地に落ちる前にとどめを刺します。
「風の刃!」
両手から円盤状に薄く圧縮した竜巻を飛ばし、マトンの首を両断しました。
ドサドサっと地に落ちたマトンは動く事もなく絶命したようです。上手くいきましたね。
「タロウ、終わりましたよ」
振り向いた先では尻もちをついたタロウ。
「大丈夫ですか?」
「……ちょ、まっ、えっ、マトンて、え?」
初めてマトンを見たので驚いていますね。思っていたより大きかったでしょうか。
「大きいでしょう?」
「牛くらいデカいっす。いや大きさも確かに大きいっすけど、これ、豚じゃないっすか?」
何を言ってるんでしょうか。
「豚ですよ」
「豚っすよね」
当たり前の事を繰り返しています。
「だってマトンってヒツジじゃないんすか?」
「さっきもぶつぶつそんな事言ってましたね。魔獣の豚なのでマトンです。羊の魔獣はマヨウですね」
「魔獣ってなんなん!?」
あれ? 説明しませんでしたか?
「魔力を持った獣の事を魔獣と呼んでいます。説明したつもりでいました。すみません」
「……そうすか。こいつも魔力あるんすね」
「えぇ。魔獣は魔力のせいで大体は体が大きく、年経た魔獣は魔法も使います。このマトンは使う前に絶命したので、使えなかったのか使わなかったのか分かりませんが」
「豚のクセに俺より魔法うまいんすか……」
呆然とするタロウを放っておいて、マトンの死体を処理しましょう。大きすぎるので少しだけお肉を頂いて、残りは埋めておきましょうか。少しと言ってもなかなかの大きさです。
切り分けた肉は腐蝕対策として氷の魔法で凍らせ、火と風の魔法を併せて地面に穴を開け、その中に持ち切れないマトンを横たわらせ土を掛けました。
「埋葬したんすか?」
「あ、いえ、そういう訳ではないんです。放置すると他の獣が食べて魔獣に進化するかも知れませんので。マナーみたいなものです」
「なるほどっす」
この先は特にマトンに出くわすこともなく、順調に森を抜けられました。
道々タロウはマトンとの戦闘についての興奮を語ってくれました。マトンデカいっす、魔法スゴいっす、ヴァンさんかっちょいかったっす、とたまに良く分からない言葉で褒めてくれました。
しかし相変わらず魔力は感じられないようですね。
「今夜はこの辺りで野営ですね。夕食はマトンの肉を使いましょう」
「マトンて旨いんすか?」
「魔力があるせいだと言われていますが、普通の豚より美味しいです。タロウがこの世界に来た日の芋と豚肉のスープはマトンの干し肉でした」
「あ、あれマトンだったんすか。確かにあの肉が一番美味かったっす!」
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