30 / 185
23「俺って二十五歳なんすよ」
しおりを挟むそろそろマガクが焼けました。
もう一度顔を洗ってきたタロウが、とらんくす一丁で焚き火の側に腰を下ろします。
「では頂きましょう」
「おす! いただきま、
「マガクか。私も頂こう」
少し沈黙。
ここでロップス殿が登場です。焼けるの待ってましたか?
「風車の弥七はそんなじゃないっす! 黙って仕事だけするカッコいいキャラなのに!」
「カザグルマノヤシチ? 私はそんな者の事は知らぬ」
二人してこっちを見ないで下さいよ。僕も知りませんよ。
「知らないんすか? 水戸黄門」
知りませんってば。
「さぁ、食べましょう。マガクの肉はもっと焼きますので」
二人とも昨夜もあんなに食べたのに、そんなに良く食べられますね。
でも今日はいっぱいありますので僕も少しは頂きましょうか。
「美味い! ワニってこんな味なんすね!」
「うむ。マトンの方が脂が多く甘いが、マガクはさっぱり、しかし肉の味自体は強くしっかりしている。久しぶりに食ったがやはり美味い」
二人は目を合わせ頷き合います。そしてまた黙々ともぐもぐと一心不乱に貪ります。
なんなんですかあなた達。仲良いじゃないですか。
「ところでタロウ。あなた先ほど渡した魔力、まだ残ってますよね?」
ビクっとしたタロウから一気に魔力が霧散しました。
「あぁ~ヴァンさんがいらんこと言うからー」
ちょっとちょっと、人のせいにしないで下さいよ。
「水の槍一発で倒せたんで。残った魔力は循環させといたらまた使えるかなって」
「何? 貴様、自らの魔力はまだ使えんのだろう?」
「思い通りには使えないっす」
「マガクを仕留めてからかなり経つのでは?」
ロップス殿がこちらを見ます。
「えぇ。タロウが体を洗って、服を洗って、プックルに顔を舐められてもう一度顔を洗って、マガク肉を貪り食べる。くらいには経ってますね」
「……本当に自分の魔力分からんのか?」
「さっぱりっす」
うーむ、と唸るロップス殿。
「そんな奴、聞いたことあるか?」
「そうですね。僕も八十年の間、聞いた事ありません」
「私も物心ついて十年、見た事がない」
え? 十年?
「ロップスさんていくつなんすか?」
「今年成人の十二歳だが?」
少し長めの沈黙。
「ロップスさん子供すぎー!」
ちょっと僕も驚きました。
あの門を守っていた竜人族の彼よりも歳下じゃないですか。本当に竜人族は歳が分かりにくいです。三十くらいかと思っていました。
「ロップスさん? 俺って二十五歳なんすよ」
「知っている。それがどうかしたか?」
「ロップスさん十二歳っしょ?」
「そうだ。それがどうかしたか」
またしても少し沈黙。
あ、タロウが拗ねました。ぶつぶつと、敬語がどうしたこうしたと呟いています。気持ちは分かりまけど。
まぁ、僕は別に気になりません。僕から見れば十二歳も二十五歳も似たようなものです。
「自分の魔力を使えん者が、他人の魔力で魔法を使い、さらに残った魔力を維持したままで過ごす。驚きだな」
こちらでは魔法が使える人は基本的に自分の魔力を使いますから、他人の魔力で魔法を使うという発想自体がまずあり得ませんね。
「ところでヴァン殿、今後の進路についてだが」
タロウの魔力についての話題は終わりですね。まぁ、議論したところで結論は出ませんし。
「ペリエ村で二、三日は休憩しようと思っています。それからペリエ村からアンゼル山脈を越えてガゼル様の下へ、ですね」
「私はアンセム領を出た事がないのだ」
でしょうね。十二歳ですものね。
「アンセム領を出れば、はっきり言って道が分からんのだ」
それでなぜ別行動を言い出したんでしょう。先が思いやられます。
「ペリエ村から東へ向かって三日、さらに北へ一日ほどの所にそう大きくない町がある。ヴァン殿は知っているか?」
「ヴィッテルですね。ガゼル様を訪ねる際に何度か立ち寄った事があります」
そう言えばヴィッテルには人口の割に竜人族が多いそうですね。確か二割程が竜人族だったでしょうか。
ちなみにペリエ村には竜人族は住んではいません。アンセムの街はどうでしょうか。それでもそう大した数ではないでしょう。
「ヴィッテルには私の母がいる。旅に出る事を伝えておきたいので寄ろうと思う」
「母ってロップスさんのお母さんすか?」
「母という存在が他にあるのか?」
なるほど。十二歳ですし伝えておくべきでしょうね。
「分かりました。ではヴィッテルで一度合流するとして、十日後程でよろしいですか?」
「分かった。母の名はヤンテ、町の者に聞けばすぐ分かるだろう」
マガクもすっかり食べ尽くし、ロップス殿は先に立たれました。僕は結局、一串しか食べられませんでした。良いですけどね。
「竜のお嫁さんになる人ってどんな人っすかねー」
アンセム様に嫁ぎたいと思う方は割りと多いと思います。結界を維持できる範囲から出られないとは言え、この世界でトップの実力者。人化さえできますから夫婦生活に支障もないでしょうし。
十五年前に訪れた際には、そんな素振りは全くありませんでしたが。
「どんな方でしょうね。お会いするのが楽しみです」
さぁ、ここからは急ぎましょう。あんまり遅いとアンセムの街の門が閉まってしまいます。
「タロウ、プックル、少し急ぎますが、それでも走りながらのモフモフ禁止ですよ」
「分かったっす」
『走リナガラハダメ。分カッタ』
モフモフ禁止でも、日暮れ前にはなんとかアンセムの街に辿り着きました。プックルが居なければ、やはり厳しかったですね。
街長の下を訪れ、帰還の報告をします。
「お戻りになられましたか! では凱旋パレードの準備を! 何ですと、お時間がない? では食事会を! それも難しいですか……ではブラム様のお話だけでも……」
全て御辞退致しました。ブラム推しでさえなければ人の良さそうな街長なんですが……。
「良かったんすか?」
「だって面倒でしょう?」
「まぁ面倒くさいっすね、あの人」
今夜はパンチョ兄ちゃんの家でお節介になりましょう。
パンチョ兄ちゃんはいらっしゃらないでしょうが、サバスさんなら泊めていただけるでしょう。
10
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる
長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。
ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。
そこは魔法がすべての世界。
スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。
でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて──
「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」
そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに……
家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば──
「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」
えぇ……なんでそうなるの!?
電気と生活の知恵で異世界を変える、
元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる