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55「二人の有翼人」
しおりを挟むロッコ村を出てからおよそ三十日、ようやくシュタイナー村が見えて来ました。
この三十日と数日、襲ってきた有翼人はナギーさんとワギーさんの二人だけです。もしかすると、有翼人の総数はそれほどでもないのかも知れませんね。
「シュタイナー村もロッコ村みたいな感じっすか?」
「規模で言えばそうですね。シュタイナー村の特色としては、明き神の象徴たる御山が遠望できる事もあって、村民のほぼ全てが敬虔な信者ですね」
「はぁなるほどっす。こんな辺鄙な所に住むんすもんね」
朝晩のお祈りも、決まった時間に村民一同が一斉にしますからね。初めて訪れた時は驚いたものです。
「なぁ、ヴァン殿。あれは狼煙か何かか?」
ロップス殿が指し示す方に注視します。
確かに煙、ですが狼煙などでは無さそうですね。
「様子がおかしいですね。少し急ぎましょう」
村の中へと入りました。
「みんな、最大級の警戒をお願いします」
「おう! 明らかに異常だな!」
ロップス殿と二人で前方に注意します。
「タロウ、プックル、ロボ、左右と後方を警戒して下さい」
『分かったでござる!』
『任セロ』
「おす!」
家々は所々破壊され、村のあちこちから煙が上がっています。
何かに襲われたようですね。
「とにかく人を探しましょう」
シュタイナー村は山の傾斜に合わせた、少しずつ登っていく縦長の形状をしています。
家々を覗きながら中央の道を登っていきますが、誰もいません。怪我人なども見当たりません。
「誰もおらんな」
「総出でお出かけっすかね?」
「それにしては破壊痕が気になりますね」
村の一番端まで来ましたが、誰も見つけられませんでした。
どうしましょうね。
『ヴァン、声聞コエタ』
「本当ですか? どちらです?」
『コッチダ』
プックルに案内され、更に登る方向へ進み、頂上の祭壇が見えてきました。
『アソコダ』
「ええ、今度は僕にも聞こえました」
大きな声ではありませんが、数人の話し声が聞こえます。
「ほれ、まだ飛ばんのかい」
「さぁ、早く飛び降りんさい」
「待ってくれ! この子たちだけでも助けてくれ!」
なんだか不味い雰囲気ですね。
「有翼人だな。どうする? 突っ込むか?」
「僕とプックルでいきましょう。死んだナギーさん以外にはまだタロウ達の存在はバレていないかも知れません」
『任セロ』
まだお昼過ぎですから、魔力もまだ平気でしょう。
「タロウは吹き矢の用意を」
「おす!」
「頼む! この子達は小さい、まだ信仰心も芽生えていない!」
「うるさい。早く飛ばんかい」
「うるさい。早く飛ぶのさ」
頂上に築かれた祭壇へ近づきます。
祭壇上で結界を張り続ける一人の男性に、二人の青年有翼人が詰め寄っています。男性の後ろには数人の子供達。さらにその後ろの柵を越えれば断崖絶壁。
「この悪魔どもが! 我らが何をしたと言うのだ!」
「明き神は嫌いなんだい」
「明き神は目障りなのさ」
やはり有翼人とは昏き世界の者どもなんでしょうか。
「ほれ、早く飛ばんかい」
「さあ、早く飛ぶのさ」
「お待ちなさい!」
高く跳び上がり、有翼人を飛び越し祭壇中央、結界のすぐ外に着地しました。
「たとえ明き神が許しても! このヴァン先生が許しませんよ!」
「あなたは! 確か、ペリエ村のヴァン殿!」
「ご無沙汰しております。二十年ぶりでしょうか」
この男性はシュタイナー村の神父、ランド神父です。以前に訪れた時はまだタロウとそう変わらない二十代後半でした。
あの頃は頼りなかったですが、良い結界を張る様になりましたね。
「ヴァンだと! 黒い山羊を連れた男かい!」
「黒い山羊を連れた男なのさ!」
やはりこの有翼人たちにも狙われていましたか。
「プックル! 今です!」
有翼人たちの後ろに大声で声を掛けます。
慌てて後ろを振り向く有翼人たち。
『呼ンダ?』
そこにはモグモグと草を食むプックル。
「食事かい?」
「食事なのさ」
「喰らえ!」
隙だらけの背中を二つとも蹴り飛ばしました。
祭壇から落ちて、プックルの両サイドを滑っていく二人の有翼人。
「ランド神父、さぁこちらへ、子供達も」
「ええ、助かりました」
結界を貼り続け疲弊したランド神父と子供達をプックルの元へ連れて行き、立ち上がる有翼人達に対峙します。
「騙されましたね!」
「汚いじゃないかい!」
「汚いじゃないのさ!」
「騙される方が悪いんですよ」
なんとなくワギーさんタイプの有翼人の様で癒されますね。
「貴方たち! ランド神父や子供達をどうなさるおつもりですか!?」
「崖から落として殺すに決まってるじゃないかい!」
「殺すに決まってるのさ!」
癒されてる場合じゃありませんでした。物騒なこと言っています。
「認めません。どうしてもそうなさりたいのでしたら、僕を倒してからにしなさい」
大剣を抜き、構えます。
「プックル、子供達とランド神父を連れて下がって下さい」
『任セロ』
「ブラムの子、ヴァンよ。我らがどうしてもそうなさりたいと思うかい?」
「さあ、知りません」
「我らは、どうしても、オマエを殺したいのさ!」
「そうですか。ならば掛かって来なさい」
右手で持った大剣を肩に担ぎ、左の掌を二人に向けます。
魔法を出すゾ、というポーズです。
「ところでナギーには会ったのかい?」
「お会いしました」
「ナギーはどうしたのかい?」
「ナギーさんですか? 死にましたよ」
「……あのナギーを。……オマエが殺したのかい?」
「さあ、どうでしょうね」
「…………ちょっと待つのさ!」
二人が何か相談し始めました。
背中がまた隙だらけなんですが、さすがに攻撃したら酷いでしょうか。
まだかかりそうですね。
プックル達に近付いて、ランド神父から話を聞きます。
「ランド神父、一体何があったんです?」
「あの二人組が今朝いきなり現れて暴れ出しまして、我々も魔法で取り抑えようとしたんですが、奴らの魔法の矢が全く防げませんで……」
恐らく魔法の矢でなく、ナギーさん達と同様の魔術の矢でしょうね。アレは魔法では防げません。剣などの物理か、魔力で直接防ぐかしかありません。
「では村の人々は……」
「いや、実際に矢で射られた者は僅かです。大半の者は奴らが作り出す闇に飲み込まれてしまいました」
「闇に……」
「ヴァンよ! 待たせたかい!」
「待たせたのさ!」
あ、済んだようですね。
そそくさと二人の元へ戻ります。
ランド神父が言っていた闇、飲み込まれた村人が気掛かりですね。
助けられるなら助けたいです。
タロウ達に精神感応を飛ばしておきましょうか。
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