74 / 185
57「あの闇の中って」
しおりを挟むランド神父と共に、ドサドサと落ちてきた村人達に駆け寄ります。
「……む、虫が、……虫が……」
「ひぃぃっ! む、虫が……口に! や、やめ! おぅえっおえぇぇ」
「いひぃぃぃぃ!」
嘔吐する者、絶叫する者、数十人の村人が全て、目も虚ろな異常な事態です。
あの闇の中ってもしかして……、ダメ! これ以上想像してはいけません! 僕の精神が保ちません!
「ヴァンさん! 無事っすか!?」
タロウ達もやって来ました。
「ヴァン殿! 申し訳ないが村人を一箇所に集めるのを手伝ってくれ!」
ランド神父に何か考えがある様ですね。言われた通り手分けして村人を一箇所に集めました。
錯乱した村人を運ぶのはなかなか骨が折れました。タロウなんて髪色が黒いという理由で、恰幅の良い中年女性にぶん殴られました。
「痛えっす。酷えっすよ」
頬をさするタロウ。正直言って同情しますが、そう言われるとタロウの髪色であの黒い虫を思い出してしまいます。
「どうするんですか?」
「ええ、とにかく落ち着かせる為に子守唄の魔法を使おうと思う」
子守唄の魔法……。
太陽の魔法の一つですね。しかしあれは、本当に子守唄程度の気休め魔法ですが……。
早速ランド神父が魔法を使いますが、やはり効き目はあまりないようですね。
「ダメだ! 長時間の結界で魔力も足りない!」
村人の錯乱ぶりに変化はありません。
こういう精神作用的な魔法はあの人の出番ですね。
「プックル! こちらへお願いします!」
村人の錯乱ぶりを直視するのが精神衛生上よろしくないとの判断で、ランド神父が守っていた数人の子供達を連れて離れていたプックルを呼びます。
『呼ンダカ、ヴァン』
「はい。久しぶりに眠クナル魔法をお願いしたいんです』
『任セロ』
ランド神父と子供達には離れていて貰います。
『♪メェェエェェェェエエェェェ♪』
相変わらず良い声ですねぇ。
錯乱していた村人達が順番にバタバタと倒れ伏していきます。
「おい、ヴァン殿、聴き惚れている場合じゃないぞ」
「どうかしましたか?」
「タロウが寝た」
……なぜ?
貴方、プックルが眠クナル魔法を使うの知っていたでしょう?
「もちろん私とロボは魔力でガードしている」
『もちろんでござる』
「ヴァン殿のように聴き惚れていたタロウがな、「あ、しまっ――」と呟いたと思ったら、バタン、だ」
……頼もしくなっても、タロウはタロウのままでしたか。
大の字で眠るタロウから、バフゥゥと音を立てて魔力が霧散しました。
あぁ、何日もかけて蓄えた僕の魔力が……。こんな事なら回収しておけば良かったですね。
全ての村人が眠りに落ちました。
「プックル、ご苦労様でした」
『イツデモ、プックルヲ呼ベ』
「ありがとうございます」
ランド神父も子供達も戻って来ました。子供達はみんは、眠る村人の中から自分たちの家族を見つけて、泣きながら抱きついています。
心細かったでしょうね。
「さすがはヴァン殿のお仲間です。あれだけの数の村人をあっという間に眠らせるとは……」
『神父、褒メルト、照レル』
「さあランド神父、皆さんを村まで運びましょう」
村人をひとまず教会へ運び込みました。一部屋で全ての村人を、と考えるとこの教会しかありませんでした。もちろんタロウも眠る村人に紛れて床で寝ています。
「矢を受けた村人はどこです?」
「そうでした! この教会の地下蔵です! 早く手当てしないとまずい!」
ランド神父と共に、地下蔵へ駆け込みます。
「みな! 生きているか!?」
「なんとかな。そっちは何とかなったか?」
咳込む声や、うぅ、と呻き声で数人の返事が聞こえます。
僕の魔力残量も多くはありません。重傷の人から癒していきます。こうなると霧散したタロウの魔力が悔やまれますね。
「ふぅ。これでとりあえずは大丈夫でしょう。失った腕や指はどうしようもありませんが」
なんとか魔力ももちました。
「贅沢は言えん。旅の方とお見受けする、ありがとう。感謝する」
左腕を根本から失った男性からお礼を言われました。まだまだ痛みは相当あるはずですが、大した胆力ですね。
「この村を訪れるのは二十年ぶりです」
「二十年前……、父と話す旅人の記憶がある。確か……、ヴァン……、ヴァン殿ではないか?」
ああ、思い出しました。
泊めて頂いた村長の家に、十歳ほどの息子さんがいらっしゃいましたね。
「村長の息子さんでしたか。村長はどうなさいました? 上にもこちらにも居られない様ですが」
「親父は死んで、今は俺が村長をやっています」
「あ、そうでしたか。先代村長には良くして頂きました。良い人でしたね」
「ところでヴァン殿、あなた見た目が全然変わりませんな」
「魔族と人族のハーフなんですよ。これでも八十二歳です」
立派な後継ぎがいて先代も安心ですね。
「ランド神父、あの翼の男達は去ったのか?」
「ええ。このヴァン殿が倒してくれた」
「やはりそうか。ヴァン殿、大変世話になった。ありがとう」
若き村長を含めた怪我人と共に地下蔵から出ました。
教会ではロップス殿と子供達が、眠る村人に怪我人がいないかの確認を終えた所でした。
「タロウはまだ寝ていますか?」
「ああ、ぐっすりだ」
「怪我人は?」
「反応がないから分かりにくいが、重大な怪我はないだろう」
「分かりました。ありがとうこざいます」
早く起きてくれないと、タロウにお礼が言えないじゃないですか。
タイミングを逃すと言いにくくなるんですよね、こういうのって。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる
長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。
ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。
そこは魔法がすべての世界。
スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。
でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて──
「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」
そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに……
家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば──
「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」
えぇ……なんでそうなるの!?
電気と生活の知恵で異世界を変える、
元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる