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100「純愛に生きる」
しおりを挟むボルビックで大変厚くもてなして頂いています。
誰が言ったか「マユウ撃退記念祭り」と称して、ずいぶん夜も更けましたがまだまだ賑わっています。
プックルに至っては、前回と打って変わって下にも置かない歓待ぶりで、プックルも食べられると聞けばマユウの肉を焼き、プックルが魔獣の内臓も好んで食べる事を聞けば苦労してマユウを捌いていました。
生でガツガツとマユウの内臓を食らう様子にはみんなちょっと引いてましたけどね。
ロップス殿も珍しく、おっと失言でした、若い女性と楽しそうにしています。
ここのところ鬱屈した思いを溜め込んでいましたから、良い気分転換になったことでしょう。
タロウは町の子供たちの人気者です。
タロウの周りからは子供たちの笑い声が絶えません。
僕とロボは町長とチノ婆とゆっくりと食事しています。
なんと言っても僕ら二人はマユウの襲撃に間に合いもしませんでしたから。
今夜の主役はプックル達ですね。
「ええ、明日の朝にはこちらを出て父の所へ向かい、その後はファネル様の下へ向かいます」
「そうですか、それは残念。何泊でもしていって欲しいところですが」
「ところで七十年前の戦いの事をお聞きしても良いでしょうか?」
「もちろん構いません。わしらの分かることでしたら」
「『神の影』についてなんですが」
タイタニア様に伺うつもりだったんですが、すっかり忘れて出発してしまいました。
「何か普通の魔獣と異なる特徴などあったんでしょうか?」
「わしはまだ赤子だったから見ておらんのです。チノ婆はどうだ?」
「わたしは当時七つ、でもしっかりと覚えておる。見た目は変わらんかったな。ただ」
「ただ?」
「纏う魔力が黒かった。暗闇よりもさらに黒い、真っ黒な魔力じゃった」
真っ黒い魔力色……。
父の魔力色も黒に近い灰色ですが、これは魔族によくある色味です。僕は魔族とは言えハーフですから、人族の魔力色の白が強いんです。
強いて言えば、ウギーさんとニギーさんが使った魔装が真っ黒でした。
「じゃからな、プックル殿の赤い魔力を見て安心したんじゃ。彼は『神の影』ではない、とな」
個性もありますが、魔獣は主に赤系統の魔力色ですからね。
「ファネル様の下へも向かうと仰っておられたな」
「ええ。あまり時間のない急ぐ旅なんです」
「昼間のマユウもそうだが、北のファネル領が物騒な感じだ。お気をつけ下され」
北はアギーさんたちが向かった地です。
北からやって来たマユウ達と無関係かどうか、判断が難しいところですね。
「ブラム領とファネル領の境界付近のミウ村、そのさらに北のイロファスの町、どちらも月に一度ほどはこちらにやって来る行商がいるんだが、ここのところ顔を見せんので心配しとるのです」
ミウ村とイロファスの町、どちらも何度か立ち寄った事があります。
エビアン村の件もありますし心配ですね。
夜もすっかり更けて、今夜は泊めて頂きました。
「昨夜はご馳走さまでした」
「いやいや。いつでも来て下され。ヴァン殿たちならいつでも大歓迎ですよ」
みんなそれぞれ別れの挨拶です。
おや?
ロップス殿が照れた様子で頻りに頭を掻いています。
十五、六歳でしょうか、昨夜も一緒にいた人族の少女がロップス殿の手を握って離さないようですね。
「分かった。この街に戻ると約束しよう、この旅が無事に終わったらな」
「……絶対ですよ? 知らない間にアンセム領に帰っちゃったら……押し掛けちゃうんだからね!」
ロップス殿が空を指差し、逆の手で地面を指差しました。
例のヤツですかね?
「この天と地に誓おう!」
「……ロップス様!」
「ヒューヒュー!」
「なんだタロウ。風の真似か?」
「何言ってんすか。さっきの娘、良い感じだったじゃないっすか」
「……エイミか。こんな私の戦う姿を気に入ってくれた。ああ、良い娘だった」
「この前のアレ、もう要らないっすか?」
「アレ?」
「俺が礎になった時に女の子紹介して貰う話っすよ」
「……ソレか。う、うーん…………」
ちょっと悩むそぶりのロップス殿。
「私も男だ! 要らぬ! 私は純愛に生きる!」
『ロップス殿カッコ良いでござるよ!』
「よっ! 男ロップスここにあり!」
「とにかく生きて戻らねばな、エイミに再会する為にも」
「あ、それってフラグってやつじゃないすか……」
タロウは何を言ってるんでしょうね?
ロップス殿の純愛の為にも、とっとと行って済ませましょう。
「さあ、ここから歩いて二日の距離です。走って今日中に着きましょう」
ボルビックを出てからは、ロップス殿もモフモフの危険について認識しましたし、特に事件も起こりませんでした。
少し回り道しましたが、なんとか八日目の夜、父の城に到着しました。
門番や召使いのいない、完全に一人暮らしなんで気楽に入り口を潜り、ぞろぞろとみんなで父の居室へと向かいます。
「よぉヴァン。久しぶりだな」
「ご無沙汰しています、父さん」
ちゃんと起きていました。
父は棺の縁に腰掛けてこちらへ片手を上げ、いつもの台詞を僕に投げました。
実はまた寝てたらどうしようかと少し不安でした。
「それにしても、オマエを見ると悲しくなる。なぜ俺にそっくりなんだ。カノンの面影、全然ないじゃないか」
そんなこと言われたって知りませんよ。
僕のせいじゃないと思います。
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