異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
174 / 185

130「ヴァンの策、イギーの狙い」

しおりを挟む

 アギーさんに対して大剣と魔法に加え、さらに霧の僕からの魔法で攻撃し続けていますが、ロクにダメージを与えられた手応えはないです。

 アギーさんに言われた通り決め手に欠けますが、これは想定内なので問題ありません。

 イギーさんが痺れを切らして動いた件の方が問題でしたが、何故か人化したロボの活躍で事なきを得ています。


「邪魔なんだぞ小娘!」
「小娘ではござらん! それがしは人妻でござるぞ! 精霊の細工ぅ!」

 プックルに乗ったロボが唱えると共に、プックルのすぐ足元から立ち昇った向こうが透けて見えるほどに薄い、薄桃色の大きな壁。

 その壁がイギーさん目掛けて倒れかかります。

「クソっ!」

 悪し様に罵って後ろへ跳んで躱したイギーさん、その側面に素早く移動するプックル。

「さらに精霊の細工でござる!」

 ロボの右手の周囲に現れた無数の針が、腕を振るのに合わせてイギーさん目掛けて飛んでいきます。

いったぁ!」

 飛ばした針の大半は躱されましたが、左足にいくつか刺さったようです。嫌がったイギーさんが距離を取りました。

「クソっ! 右手が塞がってるから対応し辛いんだぞ。ここはアギーを待つ方が得策か……」

 ウギーさんと違って体術よりも魔術ベースのイギーさんですが、あの魔術陣を抱えたままでは新たな魔術は繰り出せないようですね。

『ロボ、良イ感ジ、強イ』
「いやいや、プックルのお陰でござる。今のそれがしはプックルほど速く動けんでござるからな」


 生憎とタロウが走り抜けられる程の隙はないようですね。イギーさんは常に屋敷に背を向けタロウを牽制していますから。
  流石ですね。


 僕の方は……、

 ……よし、これで準備万端です。

『準備が整いました。アギーさんを捕らえると同時にイギーさんを』
『心得たでござる!』
『任セロ』

「どうしたヴァン? 攻撃のペースが落ちてるぞ」

 そりゃ落ちもしますよ。
 もう大きめの魔術一回分の魔力を残してカツカツですからね。

「そうでしょう? 実はもういっぱいいっぱいなんですよ」

 霧となっていた僕の右腕を呼び戻します。
 右腕の指先があるべき空間に現れた二本の指、その二本で作った丸を潜り抜けた霧が、肩から順に元通りの右腕に戻っていきます。

「その鬱陶しい霧は限界か。ならもうこの戦いも終わりにしよう。覚悟しろヴァン」

 アギーさんを見詰め、フン、と鼻で笑って突撃します。

「さっきまでもまともに当たってないのに、そんな単純な攻撃じゃ当たるものも当たらない」

 左手の大剣を振り下ろしますが、先程までと同様に右腕で弾かれます。
 さらに間髪入れず眉間から光の矢を放ちましたが、これは左手で弾かれました。

 当然、元に戻った僕の右腕を警戒するアギーさんですが、アギーさんの後方から飛来する僕が放った・・・・・炎弾がドォンと背中に直撃しました。

「な、何――!」

 アギーさんがチラリと背後に目を向けたその先には、霧から戻さなかった・・・・・・、位置情報用に残した僕の右手の小指。

 四本指の拳を握り、甲に刻んだ魔術陣に魔力を籠めます。
 キィィィンと鳴り響く右の拳でアギーさんの頬を殴りつけ、精魔術結界・・・・・を発動させました。

「こ、これは――そうか、ウギーを捕らえたという結界……、霧の体に魔術陣を刻ませていたのか!」


 ウギーさんの時とは違って、その場に留める結界に改変しています。ですから右手の甲の魔術陣は既に消え、アギーさんの足下で白く輝いています。
 連れて行くタイプの結界は魔力消費が馬鹿になりませんし、連れて行く必要もありませんから。

 これでしばらくはイギーさんに集中できます。

「ロボ! プックル! 行きますよ!」
『承知でござる!』
『デカシタ、ヴァン』

 ロボとプックルに僕が加われば、今のイギーさんなら仕留められます!

「クソォっ! アギーが捕らえられるとは思わなかったんだぞ!」

 右手に魔術陣を抱えたままのイギーさんが、左手に魔力を籠めて備えました。

「今ならば強力な魔術は使えないでしょう。今が好機――」
「あぁ! ヴァン殿!」

 僕としたことが、好機なのに足をもつれさせて転びました。

 小競り合いとは言え相手はあのアギーさんです。魔力消費に加え、何度かの反撃によるダメージが相当溜まっていたようです。ちょっとすぐには立ち上がれそうにありませんね。

「すぐ魔力返すっす!」
「それがしも精霊の慰撫を!」

 タロウがこちらへ駆け寄り、ロボが僕に意識を割いたその一瞬。
 みんながイギーさんから意識を切ったその一瞬。

 その一瞬を突かれました。


「バカが! アギーを捕らえたところで結局はボクの勝ちなんだぞ!」

 素早く走り寄ったイギーさんが、魔力を籠めた左手でプックルの口・・・・・・を強引に掴んで開かせ、右手に抱えた魔術陣を腕ごと飲み込ませました。

「……な、なんでプックルに? 俺じゃないんすか!?」

 プックルの口から腕を引き抜いたイギーさんが哄笑と共に言います。

「あーはははは! ハナからボクの狙いはこの山羊なんだぞ! あーはははははバーカ!」

『メ……、メェェェェェエェエエエエ!』
「プックル! 落ち着くでござる! う、うわわわ!」

 プックルの体から猛烈に噴き出す真紅の魔力が、背に乗るロボを弾き飛ばしました。

 ロボが空中で体勢を立て直し着地しましたが、やはり人族の体にまだ不慣れなようで、地に足を取られて後ろへ倒れ込みました。


「おいおい、少し目を離した隙にどうなっておるのだ?」
「ロップス殿! 尻餅つかんで済んだでござる! 向こうはやっつけたんでござるな!」
「あぁ。最初に寝た奴は放ってきたがな」

 ロボの背を支えたのはロップス殿。
 そしてそのすぐ後ろを駆けていたパンチョ兄ちゃんが青い顔で叫びます。

「プックル! どうしたと言うのだ! 何故、何故黒い魔力・・・・を放っておるのだ!」

 
 真紅の、真っ赤だったプックルの魔力は、今ではすっかり漆黒の魔力へと豹変していました。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...