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「……わかった」
「ミサキ……」
「岬さん……」

 漸くいつもの岬に戻ったことに、心の底から安堵する。
 見れば、篠山に至っては目に涙まで浮かべている。
 そんな二人を交互に見比べて、岬が静かに口を開いた。

「……それで。二人とも、こんなところで何を話してたの?」

 口調こそは静かなものの、その視線は岬にしては鋭く、冷たい。
 射貫くようなその瞳に、思わずラインハルトは狼狽えてしまった。

「そ、それは……」
「私に、言えないようなことなの?」
「そういうわけでは……」

 篠山に、ラインハルトが異世界人だとバレて詰め寄られていたわけなのだが、今ここでその話題を出せば、篠山は必ず岬にも同じ質問を繰り返すだろう。
 そして、ラインハルトの世界になど行くなと岬を説得するだろうことを考えて、ラインハルトは躊躇ってしまった。

 何故なら今ではラインハルトも、こちらの世界の方がラインハルトの世界に比べて、遥かに安全で住み良いことを知っているからだ。
 ラインハルト自身は向こうの世界で暮らすことに何の問題もないが、この世界で暮らしてきた岬がこれから苦労するであろうことを考えると、ラインハルトは申し訳ない思いで一杯になるのだった。
 こちらの世界のこの美しい景色を見た後ならば、それはなおさらだ。

 しかし、ラインハルトが逡巡している間に、篠山が躊躇いがちにおずおずと口を開いた。

「……岬さん」
「……」
「……この人、こっちの世界の人じゃないって、本当ですか……?」

 チラっと敵意を感じさせる視線をラインハルトに送って、岬に聞く。
 どうやら、猫を被るのはやめたようだ。

 固唾を飲んで岬の反応を窺っていると、ふうっと岬が再びため息を吐いた。

「……そうよ」
「……」
「もしかして、それで……?」

 聞かれて、ラインハルトと篠山、二人同時に頷く。
 そんな二人を見比べた後、岬が特に何でもないといった様子で篠山に顔を向けた。

「そうよ? ライは、こっちの世界の人じゃないの。まあ、隠してたのは悪かったけど、でも“異世界人です~”なんて言ったら、頭がおかしくなったって思われるでしょ?」
「そ、そうですけど……」
「そういうこと。……もしかしてライは、それで篠山に問い詰められてたってわけ?」

 隣りに立つラインハルトを見上げる岬の顔は、いつもと変わりないように見える。
 しかし、どこかが何か違う。
 疑っているわけではなさそうだが、違和感みたいなものがある。
 それが何なのかわからないまま、首を傾げて聞いてくる岬に、ラインハルトは無言で頷きを返した。

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