大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
37 / 89
第二章

第三十四話 すり替えられた二つ名

しおりを挟む
 暖かなというより、やや汗ばむような強い日差しが降り注いでいる。

 しかし本格的な夏とは違い、吹き抜ける風は涼しい。

 街の中心部の裏手にて馬車を降りると、露店の方へキースと共に歩き出す。

 キースは勝手知ったるというように、サクサク道を進んで行った。

 広場には何かを焼く香ばしい匂いや、その場で食べられる軽食を取り扱う店が立ち並んでいた。


「アイリスは嫌いなものはある?」

「いいえ、特にはないです」


 食べたことも見たこともないそれらが並ぶさまは、まるでお祭りのよう。

 なんだか見ているだけで楽しいし、わくわくする。


「じゃ、適当に買ってくるから待っていてくれ」

 そう言うと、串焼きにサンドイッチのようなものをテキパキとキースは買いに行く。

 両手いっぱいに荷物を持つ姿に、私は慌てて駆け寄った。

 するとキースに瓶に入ったサイダーのようなものを持たされる。


「こんなにいっぱい買って、さすがに食べきれなくないですか」

「いや、俺はこれでも足りないと思うんだが」

「えええ」


 すでに食べ物だけで、三種類を二個ずつ、飲み物も二本ある状態だ。

 これ以上はさすがに無理があるでしょう。

 さっきプリンだって一個食べたばっかりだし。


「絶対に足ります。もし足りなかったら、あとで追加すればいいじゃないですか」

「んー。ま、そうだな。とにかくあっちで座って食べよう」


 子どものような無邪気な笑顔に、私もつられて笑う。

 この方といると、自然に笑顔が作れている気がする。


「さあ、お姫さまこちらへどうぞ」

「もう。そんな調子のいいことを」

「あははは。さ、座って」


 荷物をベンチに置いたキースは自分のハンカチを取り出し、ベンチの上に敷いた。

 私は言われるまま座ると、手に持っていたジュースをキースが一本受け取る。

 そしてその代わりとして、トレーに乗せられた串焼きを一本差し出した。

 これって、さすがにこのままかぶりつくのは令嬢としてだめじゃないかしら。

 でも、それならどうやって食べるっていうのか。

 ん-。いきなり難易度が高すぎるわね。

 隣を見れば、キースはそんなことなど気にせずに食べ始める。

 王族が気にしないのだから、まあいいか。

 私はこれ以上考えるのを諦め、普通に食べ始めた。

 何の肉かは分からないソレは、塩がよく効いていた。


「おいしい」

「だろう?」

  
 私が気にすることなく食べている様がよほどうれしいのか、今まで以上に上機嫌だ。


「グレンたちが行くような店じゃなくてすまない。俺はこういう方が本当は好きなんだ。だから一度、アイリスにも食べてもらいたかった」

「私もかしこまった店より、こういう方のが手軽ですし、何も考えなくてもいいので好きですよ」


 そうこれは本音。

 マナーとかなんとか。

 確かに令嬢としての知識もあり、きちんと優雅に食べることは出来る。

 しかしどうしても形式ばった食べ方は、疲れてしまうのよね。


「氷の美姫の意外な一面を俺だけが知っているというのは、悪くないもんだな」

「氷の美姫? 氷の姫君とは言われたことがありますけど。美姫だなんて、そんな」


 氷の姫君という私が笑わないことを揶揄されたものだ。 

 ある意味、つけた人のネーミングセンスはすごいわよね。

 確かに愛想もないし、全然笑わないし。

 前までは、本当にひどかったって自分でも自覚あるもの。

 でもそれにしても、いつの間にそんな美姫になんてすり替わっているなんて。

 自分で言い出したとか思われたら、それこそ恥ずかしいからやめて欲しいわ。


「んんん? 前からいろんな貴族が噂していた君の二つ名だよ。氷のように冷たく見えて、その実優しく、孤高で美しいという。あれ、違ったのかい?」

「いえいえ、私が知っているのはただの氷の姫君でしたよ。笑わないし、誰に対しても冷たいっていう」


 なんとなく似ているようで、少し違う二つ名。

 捉える人によって印象が違うとか、そんな感じのものなのかな。

 でも、なんかそれにしてはちょっと違う気もする。


「アイリスの捉え方だと、ずいぶん卑屈というか、悪意を感じるな。そんなこと、誰が言ってたんだ」


 そう。キースが言うように、確かに悪意を感じる。

 真逆というか、なんというか。

 確かに愛想がなかったから、そんなもんなのだろうと今までは気にしたことはなかったけど。

 あの頃はそんな風に罵られるほど、貴族の中で目立った存在でもなかったのに。


「誰が……」


 確か言われるようになったのは、私が夜会へ参加するようになってすぐだ。

 元々、ああいう場では苦手だった。

 しかも自分のすべてにコンプレックスを持っていたし。

 女の人が扇子越しにヒソヒソ話す姿も、まるで値踏みをするかのような男の人からの視線も、私には耐えられなかった。

 だからいつも簡単な挨拶だけ済まし、そそくさと帰ってしまってたっけ。

 確かその頃、後から帰ってきたチェリーに言われたのよね。


『姉ぇさまの愛想が悪いから、他の方たちから氷の姫君なんて呼ばれていましたよ。もっと、愛想よくしないと』


 そうだ。

 私はチェリーが言ったことを、そのまま鵜呑みにしてたんだ。

 そう思うと、腑に落ちる部分と同時に怒りが私の中に影を落とした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟
ファンタジー
父が作った借金返済の代わりに、女好き辺境伯ヒューバートの後妻として差し出された子爵令嬢エメリーン・オルクス。 父と義母と義姉とに満面の笑顔で見送られたエメリーンだったが、ヒューバートは初夜ですら花嫁の元を訪れることはなく、その翌日エメリーンだけを辺境伯領へ向かう馬車に乗せた。 ーー過去に囚われている眉目秀麗な女好き辺境伯と、義賊の記憶持ちで口やかましい元子爵令嬢の、少し変わった子育てとぐずぐずな恋物語。 「私の言っていること聞こえていますか。耳はまだ腐っていませんか。とにかく何が言いたいかって言うと、今すぐ屋敷に戻ってきやがれ、ってことです。分かりましたか、このクズ旦那様」

処理中です...