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005 あれほどクギを刺したのに
「なぜ、今会ったばかりのあなたに婚約破棄を迫られなければならないのです?」
半ば私も、どうにでもなれという感じで彼女に聞き返す。
もうこうなってしまった以上、噂が広がるのは一瞬だ。
どうせ隠せないのなら、今聞かずにどうするというの。
だいたいもう、私のせいでもないのだから。
「わたしのお腹にコンラッドの子がいるのです‼」
きっぱりと彼女は言い放ち、そして確かにややふくよかになっているお腹を擦って見せた。
頭が痛いというのを越えるわね。
あれだけ彼にはクギを刺してきたというのに。
他の女に手を出すだけでは飽き足らず、子まで成していただなんて。
呆れてため息も出ないわ。
「コンラッドはわたしを心から愛しているんです。これは真実の愛なのです! だからどうか、婚約破棄をして下さい。アリスティーネ様はコンラッドを愛してなどいないんですよね?」
「ええそうね」
「だったら!」
「あなたはこの婚約が何の契約を以てなされていたか知っているの?」
確かに愛はいいものなのだろう。
私にはコンラッドへの愛などないし、婚約を破棄するのは簡単だ。
そう私だけの問題ならば。
だけど婚約と言うものはそんな簡単なものではない。
少なくともうちの場合はそうだ。
コンラッドはうちの跡取りとなるべく、父から領地経営やいろんなことを学んできた。
いわば先行投資として、彼にはたくさんのお金を父がかけてきたのだ。
それがこんな形で婚約が破棄になったらどうだろう。
事業で言えば、契約不履行とでもいうべきか。
つまりはコンラッドたちは、それほどのことをしたということだ。
「契約って、そんな難しいことわたしには分からないですし」
「でしょうね」
「馬鹿になさるんですか⁉」
「馬鹿にではなく、呆れているのよ」
コンラッドにもこの子にもね。
自分たちが仕出かしたことの重大性が分からないだなんて。
愛があればなんでも許されると思っているのかしら。
「婚約は家と家との結びつき。破棄すれば、うちがコンラッドの家にしている支援だけではなく、今までコンラッドにかけてきたお金も回収することになるのだけど?」
「そんな卑劣な言葉で脅すのですか⁉」
どこをどうしたら、卑劣だなんて言葉が出て来るのかしら。
自分たちのしたことが間違っていないと思い込んでいるからだろうけれど、ここまでくるとおめでたすぎてビックリね。
「コンラッドの言っていた通りだわ。どこまでも冷徹な氷の令嬢だって」
「!」
さすがにここまで言われた私が言い返そうとすると、ルドウィックが手で制止した。
私は意味が分からず、彼を見上げる。
その顔が傍から見ても分かるほど、怒りを帯びていた。
「自分たちの愚行を棚に上げ、よく言えたものだ」
「な、愚行ですって⁉ わたしたちは真実の愛を」
「真実だというのなら、初めから破棄した上で愛し合えば良かっただけではないか。こんな風に押し掛けてきた上に、被害者であるアリスティーネ様を非難するなど言語道断」
「で、でも」
きっぱりとルドウィックに言い返されたミレットは押し黙り、下を向く。
「いいわ。父には私からことの経緯を説明し、婚約破棄をしてもらいましょう」
「本当ですか?」
どこまでも彼女は嬉しそうに微笑む。
自分の夢が叶ったと思ったのだろう。
この先に地獄が待っているとも知らず、ある意味若いということはいいことなのかもしれない。
「コンラッドにはあなたから私との婚約破棄になったと伝えなさい」
「もちろんです」
「追って、うちから破棄の証明を送りましょう」
「ありがとうございます。あの、でも破棄の代償などは」
「それは私の与り知らぬところ。そのうち公爵家から話が行くと思いますわ」
その時に後悔しても、もう遅い。
口約束とはいえ、この瞬間から破棄はもう確定してしまったのだから。
あれほどクギを刺しておいたというのに。
だけど子どもが出来たからといって、それを祝福してあげるほど私は寛大ではない。
でも真実の愛だというのならば、彼らがこの先はどうにかすべきことなのだろう。
「ルドウィック様、馬車まで送っていただけますか?」
今はもう、すぐにでも帰ってベッドに横になりたい気分だった。
もしかしたら父から叱責されるかもしれない。
でもそんなことすら、私にはどうでも良いことだった。
「心配ですので、屋敷までお送りいたします」
「ですが」
「このまま王女殿下の元へ戻る方が、怒られてしまうでしょう」
やや沈痛な彼の顔は、私に同情してくれているのだろうか。
一人になりたいと思うと同時に、誰かに優しくされたいと願うやや相反する私は彼の好意に甘える。
馬車に乗りぐったりと疲れた私に気遣った彼が、屋敷に着くと、家令に父への伝言を頼んでいた。
申し訳ないことをしたとは思いつつも、最後まで彼に甘えたまま私は一人部屋に戻りベッドに横になった。
半ば私も、どうにでもなれという感じで彼女に聞き返す。
もうこうなってしまった以上、噂が広がるのは一瞬だ。
どうせ隠せないのなら、今聞かずにどうするというの。
だいたいもう、私のせいでもないのだから。
「わたしのお腹にコンラッドの子がいるのです‼」
きっぱりと彼女は言い放ち、そして確かにややふくよかになっているお腹を擦って見せた。
頭が痛いというのを越えるわね。
あれだけ彼にはクギを刺してきたというのに。
他の女に手を出すだけでは飽き足らず、子まで成していただなんて。
呆れてため息も出ないわ。
「コンラッドはわたしを心から愛しているんです。これは真実の愛なのです! だからどうか、婚約破棄をして下さい。アリスティーネ様はコンラッドを愛してなどいないんですよね?」
「ええそうね」
「だったら!」
「あなたはこの婚約が何の契約を以てなされていたか知っているの?」
確かに愛はいいものなのだろう。
私にはコンラッドへの愛などないし、婚約を破棄するのは簡単だ。
そう私だけの問題ならば。
だけど婚約と言うものはそんな簡単なものではない。
少なくともうちの場合はそうだ。
コンラッドはうちの跡取りとなるべく、父から領地経営やいろんなことを学んできた。
いわば先行投資として、彼にはたくさんのお金を父がかけてきたのだ。
それがこんな形で婚約が破棄になったらどうだろう。
事業で言えば、契約不履行とでもいうべきか。
つまりはコンラッドたちは、それほどのことをしたということだ。
「契約って、そんな難しいことわたしには分からないですし」
「でしょうね」
「馬鹿になさるんですか⁉」
「馬鹿にではなく、呆れているのよ」
コンラッドにもこの子にもね。
自分たちが仕出かしたことの重大性が分からないだなんて。
愛があればなんでも許されると思っているのかしら。
「婚約は家と家との結びつき。破棄すれば、うちがコンラッドの家にしている支援だけではなく、今までコンラッドにかけてきたお金も回収することになるのだけど?」
「そんな卑劣な言葉で脅すのですか⁉」
どこをどうしたら、卑劣だなんて言葉が出て来るのかしら。
自分たちのしたことが間違っていないと思い込んでいるからだろうけれど、ここまでくるとおめでたすぎてビックリね。
「コンラッドの言っていた通りだわ。どこまでも冷徹な氷の令嬢だって」
「!」
さすがにここまで言われた私が言い返そうとすると、ルドウィックが手で制止した。
私は意味が分からず、彼を見上げる。
その顔が傍から見ても分かるほど、怒りを帯びていた。
「自分たちの愚行を棚に上げ、よく言えたものだ」
「な、愚行ですって⁉ わたしたちは真実の愛を」
「真実だというのなら、初めから破棄した上で愛し合えば良かっただけではないか。こんな風に押し掛けてきた上に、被害者であるアリスティーネ様を非難するなど言語道断」
「で、でも」
きっぱりとルドウィックに言い返されたミレットは押し黙り、下を向く。
「いいわ。父には私からことの経緯を説明し、婚約破棄をしてもらいましょう」
「本当ですか?」
どこまでも彼女は嬉しそうに微笑む。
自分の夢が叶ったと思ったのだろう。
この先に地獄が待っているとも知らず、ある意味若いということはいいことなのかもしれない。
「コンラッドにはあなたから私との婚約破棄になったと伝えなさい」
「もちろんです」
「追って、うちから破棄の証明を送りましょう」
「ありがとうございます。あの、でも破棄の代償などは」
「それは私の与り知らぬところ。そのうち公爵家から話が行くと思いますわ」
その時に後悔しても、もう遅い。
口約束とはいえ、この瞬間から破棄はもう確定してしまったのだから。
あれほどクギを刺しておいたというのに。
だけど子どもが出来たからといって、それを祝福してあげるほど私は寛大ではない。
でも真実の愛だというのならば、彼らがこの先はどうにかすべきことなのだろう。
「ルドウィック様、馬車まで送っていただけますか?」
今はもう、すぐにでも帰ってベッドに横になりたい気分だった。
もしかしたら父から叱責されるかもしれない。
でもそんなことすら、私にはどうでも良いことだった。
「心配ですので、屋敷までお送りいたします」
「ですが」
「このまま王女殿下の元へ戻る方が、怒られてしまうでしょう」
やや沈痛な彼の顔は、私に同情してくれているのだろうか。
一人になりたいと思うと同時に、誰かに優しくされたいと願うやや相反する私は彼の好意に甘える。
馬車に乗りぐったりと疲れた私に気遣った彼が、屋敷に着くと、家令に父への伝言を頼んでいた。
申し訳ないことをしたとは思いつつも、最後まで彼に甘えたまま私は一人部屋に戻りベッドに横になった。
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