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007 それは同情か
強く掴まれた手首が痛い。
振りほどこうにも、コンラッドの力は思っていたよりも強かった。
「離して下さい。こんなことをして何になるというのですか」
「お前が婚約を戻すというまで、離さないぞ」
「何度も言いますが、婚約は家と家とのモノ。私だけではどうにもならないことなど分かっているでしょう」
「それでもだ!」
どこまでも自分勝手な人。
本当にムカムカしてくる。
「お前のせいで俺の人生は台無しだ。貴族籍からも外されて、今どれだけ惨めな生活を送っているか」
「自分が蒔いた種でしょう」
「うるさい!」
コンラッドはそう言いながら、大きく手を振り上げた。
殴られる。
そう感じた私は、思わず目を瞑る。
しかしその瞬間は訪れることなく、むしろ何かが倒れ込む大きな音で目を開けた。
目の前にいたのは、コンラッドではなく、なぜかルドウィックだった。
状況が理解できない私は、音がした方を見る。
そこには蹴倒されたように倒れ込むコンラッドが、地面に転がっていた。
「ルドウィック様?」
「大丈夫か?」
彼は倒れ込むコンラッドなど知らぬというふうに、掴まれていた私の手首を擦ってくれる。
一体、何がどうなってしまったというの。
どうしてルドウィックがうちに?
いくつもの疑問だけが浮かんでいく。
私とコンラッドの騒ぎを聞きつけた誰かが人を呼びにいったとしても、この人がここにいるという意味が分からない。
「あの……どうして?」
「いってぇぇぇ、なんだお前は! なんでおれの婚約者の手を握っているんだ!」
砂にまみれながら、頭を押さえコンラッドがのそりと起き上がる。
「もう婚約者ではないだろう。しかもお前はこの公爵家から出入り禁止にされているはずでは?」
見たこともないような冷たい視線で、ルドウィックがコンラッドを見下していた。
しかし怯むことのないコンラッドは、ルドウィックに食ってかかる。
「おれはわざわざアリスティーネの婚約者として戻ってやっただけだ。部外者に何を言われる筋合いもない」
コンラッドの言葉を、ルドウィックは鼻でただ笑った。
「戻って、ね……。悪いが、今はもう彼女は俺の婚約者なんだ」
「は⁉」
今までで一番間の抜けた顔を、コンラッドはしていた。
いやそれよりも、彼の言ったことはどういう意味なの。
今、婚約者だと言ったわよね。
しかも彼女というのは、私のことという意味でしょう。
「ルドウィック様、あの」
「先ほど公爵にお願いして、あなたとの婚約を申し込んできたところなんだ。本当はちゃんと言うつもりだったのだが、こんな馬鹿がいるとは思わず、こんな形になってしまってすまない」
ややシュンとした表情をしながらも、どこまでもルドウィックの顔は優しかった。
まさか彼が私に婚約を申し込むだなんて。
誰がこんな展開を予想できただろう。
ああでも、あの日……中庭でうちに雇用してもらいたいなんて冗談を言っていたっけ。
もしかしたら王女殿下に何か言われたのかしら。
殿下は私のことをとても大切に思ってくれていたし、同情したのかもしれない。
そして殿下のことが好きなルドウィックは、殿下の願いを聞き届けようとしたとか?
なんだかそう考えると、どこかしっくりくるものがあった。
だけどそれ以上に、また胸が重苦しい。
前以上に嫌な感情が、自分の中を支配していくのが分かった。
「とにかく今すぐここから立ち去り、二度と顔を見せるな。さもなくば、貴族への傷害事件として突き出すぞ」
「おれは、おれはただアリスティーネのために」
「そういう考えは結構です。どうぞお引き取りを」
きっぱりと言い放てば、コンラッドは下唇を噛みしめながら元来た道を走り出して行った。
振りほどこうにも、コンラッドの力は思っていたよりも強かった。
「離して下さい。こんなことをして何になるというのですか」
「お前が婚約を戻すというまで、離さないぞ」
「何度も言いますが、婚約は家と家とのモノ。私だけではどうにもならないことなど分かっているでしょう」
「それでもだ!」
どこまでも自分勝手な人。
本当にムカムカしてくる。
「お前のせいで俺の人生は台無しだ。貴族籍からも外されて、今どれだけ惨めな生活を送っているか」
「自分が蒔いた種でしょう」
「うるさい!」
コンラッドはそう言いながら、大きく手を振り上げた。
殴られる。
そう感じた私は、思わず目を瞑る。
しかしその瞬間は訪れることなく、むしろ何かが倒れ込む大きな音で目を開けた。
目の前にいたのは、コンラッドではなく、なぜかルドウィックだった。
状況が理解できない私は、音がした方を見る。
そこには蹴倒されたように倒れ込むコンラッドが、地面に転がっていた。
「ルドウィック様?」
「大丈夫か?」
彼は倒れ込むコンラッドなど知らぬというふうに、掴まれていた私の手首を擦ってくれる。
一体、何がどうなってしまったというの。
どうしてルドウィックがうちに?
いくつもの疑問だけが浮かんでいく。
私とコンラッドの騒ぎを聞きつけた誰かが人を呼びにいったとしても、この人がここにいるという意味が分からない。
「あの……どうして?」
「いってぇぇぇ、なんだお前は! なんでおれの婚約者の手を握っているんだ!」
砂にまみれながら、頭を押さえコンラッドがのそりと起き上がる。
「もう婚約者ではないだろう。しかもお前はこの公爵家から出入り禁止にされているはずでは?」
見たこともないような冷たい視線で、ルドウィックがコンラッドを見下していた。
しかし怯むことのないコンラッドは、ルドウィックに食ってかかる。
「おれはわざわざアリスティーネの婚約者として戻ってやっただけだ。部外者に何を言われる筋合いもない」
コンラッドの言葉を、ルドウィックは鼻でただ笑った。
「戻って、ね……。悪いが、今はもう彼女は俺の婚約者なんだ」
「は⁉」
今までで一番間の抜けた顔を、コンラッドはしていた。
いやそれよりも、彼の言ったことはどういう意味なの。
今、婚約者だと言ったわよね。
しかも彼女というのは、私のことという意味でしょう。
「ルドウィック様、あの」
「先ほど公爵にお願いして、あなたとの婚約を申し込んできたところなんだ。本当はちゃんと言うつもりだったのだが、こんな馬鹿がいるとは思わず、こんな形になってしまってすまない」
ややシュンとした表情をしながらも、どこまでもルドウィックの顔は優しかった。
まさか彼が私に婚約を申し込むだなんて。
誰がこんな展開を予想できただろう。
ああでも、あの日……中庭でうちに雇用してもらいたいなんて冗談を言っていたっけ。
もしかしたら王女殿下に何か言われたのかしら。
殿下は私のことをとても大切に思ってくれていたし、同情したのかもしれない。
そして殿下のことが好きなルドウィックは、殿下の願いを聞き届けようとしたとか?
なんだかそう考えると、どこかしっくりくるものがあった。
だけどそれ以上に、また胸が重苦しい。
前以上に嫌な感情が、自分の中を支配していくのが分かった。
「とにかく今すぐここから立ち去り、二度と顔を見せるな。さもなくば、貴族への傷害事件として突き出すぞ」
「おれは、おれはただアリスティーネのために」
「そういう考えは結構です。どうぞお引き取りを」
きっぱりと言い放てば、コンラッドは下唇を噛みしめながら元来た道を走り出して行った。
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