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しおりを挟む「いらしてたのですか、王女殿下」
「ええ。今日は陽気が暖かいから、部屋ばかりに引きこもっていてもね。私が来ては訓練の邪魔だったかしら」
シリルが訓練の手を休め、こちらに近づいてきた。私に気づいた他の騎士たちもこちらを見ている。にこやかに微笑めば、それだけで感嘆がおこった。
まったくこのシリルとの対応の違いはなんのかしら。シリルももう少し、微笑んでくれたり、嬉しがってくれてもいいのに。
みんなと違いすぎて、ちょっとショックなんだけれど?
これでも王女だし、お世辞かもしれないけどお姉さまたちと並んで美人三姉妹って言われてるんだからね。まぁ、お姉さまたちより背は低いし、胸もまだまだ発展途上だけど……。
でもそこをおいても、そんなに見劣りするようなほどじゃないと思うのよね。絶世の美女まではいかなくても、絶対に美人の部類だと思うんだけど。
「邪魔だということなど、あるわけがありません。ただ、いくら陽気がいいといえど、まだ風が冷たいですからね。風邪でも引いてしまっては大変です。わたしが部屋までお送りしましょう」
「もぅ。シリルは過保護なんだから」
本音としては、こうしてシリルに部屋まで送ってもらう間に会話をすることが一番の楽しみなんだけどね。でもそんなこと言ったら、もう送ってもらえないかもしれないし。
普通は王女様と会話出来て光栄ですって感じなのに、本当に一ミリもそういうのがないんだからシリルは。
護衛騎士とはいえ、もう幼くない私の護衛はどこかに出かける時や寝ている時など、シリルに会える時間はぐっと減ってしまったし。
ずっとひっついて離れないってわけにもいかないのよね。でもそんなこと、私の口からは絶対に言ってあげないんだから。
「王女殿下は、今年18になられるのですよね」
「ええ、そうよ。私も成人となるのですよ」
姉たちが他国へ嫁いだこともあり、私は国内の貴族と婚姻をというのが、父の希望だ。シリルは爵位こそ、まだ継承していないものの、国境をまもる辺境伯の長男である。ゆくゆくはその爵位を継ぐのだから、貴族という点では何ら問題はない。
なんて、少し急ぎすぎかしらと思わないこともない。でも、それこそが私の一番の願いだ。そうすればもう離れることも、こんなに自分の思いに胸を締め付けられることもなくなるから。
私だけを見て、私だけの傍にいて欲しい。でもそれはちゃんと、シリルに選んでもらいたいのよね。
シリルには私がいいって。私とどうしても結婚したいって、言わせたい。それには本当にどうしたらいいのかしら。シリルは奥手っていうか、職務を全うしてるっていうか……。
はぁ。先は長そうよね。
「わたしも歳を取るはずですね」
「私と、そんなには変わらないでしょ」
「いえいえ。わたしと王女殿下では、娘と父ほどの差がありますよ」
そう言って笑うシリルの顔が、どこか悲しげに思える。きっとそう思えるのは、その返答を聞いた私が悲しかったからかもしれない。
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