4 / 12
004
しおりを挟む「いらしてたのですか、王女殿下」
「ええ。今日は陽気が暖かいから、部屋ばかりに引きこもっていてもね。私が来ては訓練の邪魔だったかしら」
シリルが訓練の手を休め、こちらに近づいてきた。私に気づいた他の騎士たちもこちらを見ている。にこやかに微笑めば、それだけで感嘆がおこった。
まったくこのシリルとの対応の違いはなんのかしら。シリルももう少し、微笑んでくれたり、嬉しがってくれてもいいのに。
みんなと違いすぎて、ちょっとショックなんだけれど?
これでも王女だし、お世辞かもしれないけどお姉さまたちと並んで美人三姉妹って言われてるんだからね。まぁ、お姉さまたちより背は低いし、胸もまだまだ発展途上だけど……。
でもそこをおいても、そんなに見劣りするようなほどじゃないと思うのよね。絶世の美女まではいかなくても、絶対に美人の部類だと思うんだけど。
「邪魔だということなど、あるわけがありません。ただ、いくら陽気がいいといえど、まだ風が冷たいですからね。風邪でも引いてしまっては大変です。わたしが部屋までお送りしましょう」
「もぅ。シリルは過保護なんだから」
本音としては、こうしてシリルに部屋まで送ってもらう間に会話をすることが一番の楽しみなんだけどね。でもそんなこと言ったら、もう送ってもらえないかもしれないし。
普通は王女様と会話出来て光栄ですって感じなのに、本当に一ミリもそういうのがないんだからシリルは。
護衛騎士とはいえ、もう幼くない私の護衛はどこかに出かける時や寝ている時など、シリルに会える時間はぐっと減ってしまったし。
ずっとひっついて離れないってわけにもいかないのよね。でもそんなこと、私の口からは絶対に言ってあげないんだから。
「王女殿下は、今年18になられるのですよね」
「ええ、そうよ。私も成人となるのですよ」
姉たちが他国へ嫁いだこともあり、私は国内の貴族と婚姻をというのが、父の希望だ。シリルは爵位こそ、まだ継承していないものの、国境をまもる辺境伯の長男である。ゆくゆくはその爵位を継ぐのだから、貴族という点では何ら問題はない。
なんて、少し急ぎすぎかしらと思わないこともない。でも、それこそが私の一番の願いだ。そうすればもう離れることも、こんなに自分の思いに胸を締め付けられることもなくなるから。
私だけを見て、私だけの傍にいて欲しい。でもそれはちゃんと、シリルに選んでもらいたいのよね。
シリルには私がいいって。私とどうしても結婚したいって、言わせたい。それには本当にどうしたらいいのかしら。シリルは奥手っていうか、職務を全うしてるっていうか……。
はぁ。先は長そうよね。
「わたしも歳を取るはずですね」
「私と、そんなには変わらないでしょ」
「いえいえ。わたしと王女殿下では、娘と父ほどの差がありますよ」
そう言って笑うシリルの顔が、どこか悲しげに思える。きっとそう思えるのは、その返答を聞いた私が悲しかったからかもしれない。
5
あなたにおすすめの小説
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き
待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」
「嫌ですぅ!」
惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。
薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!?
※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。
お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す
湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。
それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。
そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。
彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。
だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。
兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。
特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった……
恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
今、女嫌いとウワサのイケオジ騎士団長に求婚されている・・・のだが
めっちゃ犬
恋愛
パン屋で働く平凡な町娘のマリー。ある日、女嫌いとウワサの騎士団長に突然プロポーズされます。そのイケオジっぷりに恥じらったりトキめいたりのマリーですが、話をするうちに団長の○○な一面が明らかになって・・・。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる