素直になれないツンデレ王女はこわもて護衛騎士に恋をする。年の差20歳はダメですか?

美杉日和。(旧美杉。)

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 脱水と心労からだろうと言われたが、ぼんやりとした頭は考えることを拒否した。体はどこが痛いというわけでもないのに数日経っても、起き上がるのが精一杯だった。

 入れ替わり、いろんな人がお見舞いに来てくれた。いつしか部屋中が花で溢れかえる。その中にはシリルからの花もあったようだ。

 しかしあの時の黄色い花のような感動はなく、何にも感じなくなっていた。


「ルチア様、どこか痛いところはございませんか?」


 メイが私を起き上がらせ、背中の後ろに枕を入れる。こうでもしないと、自分でもうまく座っていられないのだ。自分の体が自分のものではない感覚。

 心と体のバランスが崩れたせいだって。でもそんなことを医師から言われても、『そう』としか思わなかった。そんなことなど、私にはもうどうでも良かったから。


「……心が……痛いわ、メイ」


 やっとのことで言葉を絞り出す。

 メイは私が数日ぶりに言葉を発したことに驚くと共に、大粒の涙を瞳に溜めていた。おそらくシリルの話はメイの耳にも入っているのだろう。


「メイが、このメイがずっと側におります。メイがずっとルチア様のことをお守りしますから。早くよくなってくださいませ」


 メイの言葉に、涙がまた溢れた。悲しいのか、嬉しいのか……。今の私には分からなかった。ただぼんやりした頭が、ほんの少し動き出した気がした。




 それでも、体が十分に動くことは叶わなかった。心がただ痛くて重いというだけで、何も食べる気が起きないのだ。メイや医者に勧められるままに、何とか好きなものを一口だけ食べるという日々が過ぎていった。

 ドレスのサイズが合わなくなる頃には、シリルが発つ日まで数日となっていた。もちろん、あれから一度もシリルとは顔を合わせてはいない。

 そんな日の昼下がり、父が部屋へ様子を見に来た。その手には見慣れない黒い薄い本のようなものを手にしている。


「お父様……」

「かわいそうな、わたしのルチア。すっかり痩せてしまって……」


 ベッドの横に腰かけると、父は私の頬に触れた。大きくて温かい、私の大好きな手だ。


「ルチアはまだ、わたしのようなたくましく大きな手の人が好きかい?」


 胸の痛みがズキズキと強くなる。

 だけど、どうしてもそれだけは変わらなかった。その思いだけは。私は父の言葉に、ただこくりと頷いた。


「……」

「そうかい。これはね、お前の兄が持ってきてくれた縁談だよ」


 父は持っていた物を私に手渡す。どうやら先ほどの本のような物は、お見合いの釣り書きだったようだ。


「歳はちょうど今年60だという伯爵でね、後妻を探していた方なんだ。とてもお優しい方でね、死ぬまでただ側にいてくれればいいと。そして自分の死んだあとは、屋敷で静かに暮らしてくれればいいとおっしゃってるんだ。ルチアの療養も兼ねててと思ってね」

「……お受け……いたします」


 父は私の手を強く握る。その手から父の思いも伝わるような気がした。父の言うように後妻ならば、ただ静かに暮らせるだろう。

 その方にただ寄り添って生きていけば、この胸の痛みもいつか消えるかもしれない。兄が持ってきた縁談だ。中を見る必要もなく、私はただ二つ返事をした。

 そうこれでいい。むしろ良かった方だと言えるだろう。あの人への想いが捨てられないのならば、どこかの若い貴族の元へと嫁ぐよりずっと幸せなだ。

 想いを捨てなくてもいいと、言ってもらえているのだから。

 父は抱きしめ、頬へキスをしてくれた。父が部屋を後にすると、メイをはじめとした侍女たちが大急ぎで仕度を始めた。ただ一つのわがままとして、シリルより先に城を出たいと願ったからだ。

 ココで彼を見送るのは、どうしても嫌だったから。

 幸い後妻ということもあって、結婚式はない。そのため花嫁衣装の必要もなく、領地療養も兼ねているので最低限の荷物さえあればいいのだ。それでも、おそらく馬車一台分くらいの荷物になるだろう。

 メイたちには申し訳なく思いながらも、私はお世話になった方たちへの手紙を書くことにした。


 ただ最後に書こうと思ったシリルへの手紙だけは、どうしても筆が進まなかった。
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