素直になれないツンデレ王女はこわもて護衛騎士に恋をする。年の差20歳はダメですか?

美杉日和。(旧美杉。)

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 城を出て小一時間ほど馬車を走らせると、道は市街地から山道へと入って行った。木々が生い茂り、思い出したくもない記憶が甦ってくる。私は外を見ないように、馬車の窓のカーテンを引いた。

 小刻みに震える手を自分で擦りながら、深呼吸をする。

 まだほんの少ししか走っていなのに、本当にダメね。このままあと半日は馬車なのに大丈夫かしら。落ち着かないというか、心細い……。

 私一人のこの空間が、こんなにも寂しいものだったなんて思いもしなかったわ。でもそれも、慣れていかないといけないのよね。もう私は嫁ぐ身。王女でもなんでもなくなるし、護衛騎士だって……。

 不意に、誰かの大きな声が辺りに響いた。何を言ってるのか聞き取れないままに、馬車がガタガタと止まる。予定では、次の街に着くまでは休憩の予定はないはずなのに。


「なにが……おきたの……」


 怖くて、カーテンを開ける勇気はない。私は咄嗟に、馬車のドアに手をかけた。押さえたところで、力のない私の力ではどうにもならないことは分かっている。しかしそうでもしなければ、居ても立っても居られなかった。

 怖い。怖い。どうしたらいいの。シリル……シリル……。


「ああ」


 力強くドアが開き、そこに手をかけていた私はそのまま馬車から落ちそうになる。


「きゃぁぁぁ」


 ぎゅっと目を瞑ると、私は誰かに抱き止められた。それは大きな温かい手だった。ゆっくりと目を開けると、そこには私が一番会いたくて、でも求めてはいけない人の顔があった。

 どこか焦ったようなシリルの顔。


「私は都合の良い夢でも見ているのかしら」

「いいえ。むしろ、逆です。攫いに来ました、ルチア様。もう約束でもなく、ただあなたを渡したくない」

「やっぱり都合の良い夢だわ。私の知っているシリルは、いつだって私を子ども扱いして相手にはしてくれないのよ?」

「違います」


 シリルが大きく首を横に振る。


「あなたを助けて、あなたが側にいて欲しいと言われ、その約束さえあれば、永遠にルチア様の側にいれると思っていた。しかし、あなたはどんどん美しく成長していく。そして第一王女様たちが輿入れしていく姿にルチア様を重ねた。このまま今度は、ルチア様を自分が見送るのかと」

「……馬鹿ね。ホントに大嫌いよ」


 そう、大好きよ。誰よりも。


「これは恋心ではなく一時のもので、あなたもいつか夢から覚めてしまうと。そう思うことで、自分が傷付かぬように予防線を張っていました。だからルチア様から離れれば、きっとこんな醜い気持ちを捨てれると思った。ルチア様のことをずっと愛していたから」


 ポロポロと音もなく涙が溢れる。もうずっと、ずっと前から私とシリルの思いは一緒だったのだ。


「あの手紙を見た時、あなたが輿入れすると聞いた時、誰にも渡したくないと思ってしまった。今更なのは分かっています。わたしの意気地がないせいであなたを傷つけてきたことも。それでも……」


 シリルが言葉を言い終える前に、シリルの胸に顔を埋める。どれだけ遠回りをしたとしても、ここにいられるのならばそんなに幸せなことはない。

 私がずっと欲しかったもの。欲しかった言葉。


「では、約束して? もう一度、あの時のように」


 あの日の約束は、一度違えてしまったから。もう一度二人でここから……。


「いついかなる時も、わたしはあなたの側にあり、魂朽ちる時まであなたを護ります、ルチア様」

「ええ、約束よ。ずっと、ずっと側にいて。私はシリスでないとダメなの。あなただけずっと傍にいて欲しいのよ」


 こんなにも嬉しい涙を流したコトは初めてではないだろうか。ぽかぽかと温かな胸の中が、シリスへの想いで埋まっていく。

 シリルが私の手を取り、口づけをする。あれほどまでに私を支配していた胸の痛みが、嘘のように消えていった。


「攫ってもよろしいですか?」

「敬語と様付けをを辞めるなら、考えてあげてもいいわ」

「……ルチア、こちらへ」


 シリルに抱き抱えられながら、馬に乗せられる。


「とりあえず、俺の家へ向かいます。国王と王太子には、そこから許しを乞う予定です」


 そう言いながら、シリルがゆっくりと馬を走り出させた。


「お兄様にお別れをした時に、馬車に乗る前にどうしても欲しいものがある時は、外堀から埋めないとダメだよと、こっそり言われたのよ」


 兄はもしかしたら、こうなることも分かっていたのかもしれない。


「外堀ですか?」

「ええ」

「よく分からないのですが、そう言えば輿入れ先はどこだったんですか? 相手にも話を付けに行かないと」

「それは大丈夫じゃないかしら。今から行くわけだし」

「え。どういうことですか?」


 全く状況の読み込めないシリルが、声をあげた。こんな素っとん狂な顔をするシリルは初めて見たかもしれない。
それがなんだかとても楽しい。


「私もさっき馬車の中で、お相手の名前を確認したのよ。私のお相手は、ガルシア辺境伯」

「なっ! まさか、後妻っていうのは」

「シリルが攫いに来てくれなかったら、私はあなたの継母だったということね」

「それは外堀というのか、嫌がらせの域に近い気が……」

「うふふふふ」


 あの日見た恐ろしい森の面影はもうない。

 シリルの胸に寄り添いながらも、私はちゃんと前を見ることが出来たから。
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みんなの感想(1件)

テン
2023.03.10 テン

少し切なくでも幸せな気持ちに慣れてすごく面白かったです!最終話、途中でシリルがシリスになってる誤字だけ少し気になりました!素敵なお話ありがとうございました♪

解除

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