白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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033 手紙の意味よりも

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 彼女は静かに私の話に耳を傾けながらも、侍女たちに指示をし、テーブルにはどこまでも良い香の紅茶や見たコトもないお菓子たちが並ぶ。

 話しながらも目の前で始まった豪華なお茶会に、私は一人別のことを考えていた。

「公爵家の人間に喧嘩売るなんて、さすがね」

 呆れたように眉をひそめたマリアンヌが、ため息交じりに声を上げた。
 私は出されたクッキーを一つ頬張り、ただ幸せをかみしめる。

「聞いてるの?」
「はい、聞いてますよ。すごく美味しいです、マリアンヌ様」
「……そう、よかったわね」

 完璧になにか別の生き物を見ているような目だったが、だって美味しいんだもの。
 人生でこんなに美味しいお菓子なんて食べたのは初めてだ。

 紅茶だってしっかりと味も香りもある。
 いつものお湯に少し色がついたようなものとは大違いだった。

「この手紙は好意っぽいっですか?」
「まぁ、裏はなさそうだったから普通にお返事書いておいたわよ。でも知ってるの? ブレイズ様は基本的に夜会やお茶会には絶対に顔を出さないことで有名なのよ」
「何でですか?」
「公爵家の三男ってのもあるけど、あまり女性が好きではないらしくそういう場には出てこないのよ」

 三男っていうと、爵位は継承できないってことよね。
 だから騎士団にいるのかな。

 高い身分があっても、長男じゃなきゃ結局は実力社会なのかもしれないわね。
 
 でも外に顔を出さないか。
 あの感じならなんとなく分かるわ。

 貴族っぽくないし、がさつっぽいし。
 正直、あんまり得意なタイプじゃないのよね。

「なんとなく分かる気がしますわ」
「そうなの? だからすごく人気なのよ?」
「人気? え、あれで?」

 そう言って私は思わず自分の口を手でふさいだ。
 ああ、不敬罪すぎるわ。
 向こうのがずっと身分が高いのに。

「そんな人だったの? アタシも顔くらいしか見たことないけど」
「すごいですよ。がさつというか、ぶっきらぼうというか。だから貴族だと思わなくて」
「へぇ、意外ね。そんな方とお茶か……」

 元平民と騎士団長って、組み合わせも変だし。
 自分でもどんな感じなのか想像もつかないわ。

「あ!」
「な、なに、急に大声なんて上げて」
「その……お茶会行くのにドレスなくて。何か着ないものでいいので、貸してもらえないかと思って」
「それはいいけど、アタシの入る?」

 マリアンヌは私の胸を見た後、自分の胸を見た。
 確かに彼女の方がスレンダーかつグラマーであり、ドレスはその胸を強調するようになっている。

 ぺたんこの私には確かに違う意味で無理かもしれないわね。

 ジッと胸を見る私に、マリアンヌはまた吹き出した。

「なにか貴女が着れるようなものを見つけておくわ。当日化粧もしてあげる」
「いいんですか⁉」
「その代わり、どうなったかちゃんと教えてよね」
「もちろんです!」

 楽しい時間ほどあっという間に過ぎ、嫌な時間ほど長く感じるというのは、いつもその時にならないと忘れてしまっているのが問題だと、私はあとから気づくのだった。
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