34 / 75
033 手紙の意味よりも
しおりを挟む
彼女は静かに私の話に耳を傾けながらも、侍女たちに指示をし、テーブルにはどこまでも良い香の紅茶や見たコトもないお菓子たちが並ぶ。
話しながらも目の前で始まった豪華なお茶会に、私は一人別のことを考えていた。
「公爵家の人間に喧嘩売るなんて、さすがね」
呆れたように眉をひそめたマリアンヌが、ため息交じりに声を上げた。
私は出されたクッキーを一つ頬張り、ただ幸せをかみしめる。
「聞いてるの?」
「はい、聞いてますよ。すごく美味しいです、マリアンヌ様」
「……そう、よかったわね」
完璧になにか別の生き物を見ているような目だったが、だって美味しいんだもの。
人生でこんなに美味しいお菓子なんて食べたのは初めてだ。
紅茶だってしっかりと味も香りもある。
いつものお湯に少し色がついたようなものとは大違いだった。
「この手紙は好意っぽいっですか?」
「まぁ、裏はなさそうだったから普通にお返事書いておいたわよ。でも知ってるの? ブレイズ様は基本的に夜会やお茶会には絶対に顔を出さないことで有名なのよ」
「何でですか?」
「公爵家の三男ってのもあるけど、あまり女性が好きではないらしくそういう場には出てこないのよ」
三男っていうと、爵位は継承できないってことよね。
だから騎士団にいるのかな。
高い身分があっても、長男じゃなきゃ結局は実力社会なのかもしれないわね。
でも外に顔を出さないか。
あの感じならなんとなく分かるわ。
貴族っぽくないし、がさつっぽいし。
正直、あんまり得意なタイプじゃないのよね。
「なんとなく分かる気がしますわ」
「そうなの? だからすごく人気なのよ?」
「人気? え、あれで?」
そう言って私は思わず自分の口を手でふさいだ。
ああ、不敬罪すぎるわ。
向こうのがずっと身分が高いのに。
「そんな人だったの? アタシも顔くらいしか見たことないけど」
「すごいですよ。がさつというか、ぶっきらぼうというか。だから貴族だと思わなくて」
「へぇ、意外ね。そんな方とお茶か……」
元平民と騎士団長って、組み合わせも変だし。
自分でもどんな感じなのか想像もつかないわ。
「あ!」
「な、なに、急に大声なんて上げて」
「その……お茶会行くのにドレスなくて。何か着ないものでいいので、貸してもらえないかと思って」
「それはいいけど、アタシの入る?」
マリアンヌは私の胸を見た後、自分の胸を見た。
確かに彼女の方がスレンダーかつグラマーであり、ドレスはその胸を強調するようになっている。
ぺたんこの私には確かに違う意味で無理かもしれないわね。
ジッと胸を見る私に、マリアンヌはまた吹き出した。
「なにか貴女が着れるようなものを見つけておくわ。当日化粧もしてあげる」
「いいんですか⁉」
「その代わり、どうなったかちゃんと教えてよね」
「もちろんです!」
楽しい時間ほどあっという間に過ぎ、嫌な時間ほど長く感じるというのは、いつもその時にならないと忘れてしまっているのが問題だと、私はあとから気づくのだった。
話しながらも目の前で始まった豪華なお茶会に、私は一人別のことを考えていた。
「公爵家の人間に喧嘩売るなんて、さすがね」
呆れたように眉をひそめたマリアンヌが、ため息交じりに声を上げた。
私は出されたクッキーを一つ頬張り、ただ幸せをかみしめる。
「聞いてるの?」
「はい、聞いてますよ。すごく美味しいです、マリアンヌ様」
「……そう、よかったわね」
完璧になにか別の生き物を見ているような目だったが、だって美味しいんだもの。
人生でこんなに美味しいお菓子なんて食べたのは初めてだ。
紅茶だってしっかりと味も香りもある。
いつものお湯に少し色がついたようなものとは大違いだった。
「この手紙は好意っぽいっですか?」
「まぁ、裏はなさそうだったから普通にお返事書いておいたわよ。でも知ってるの? ブレイズ様は基本的に夜会やお茶会には絶対に顔を出さないことで有名なのよ」
「何でですか?」
「公爵家の三男ってのもあるけど、あまり女性が好きではないらしくそういう場には出てこないのよ」
三男っていうと、爵位は継承できないってことよね。
だから騎士団にいるのかな。
高い身分があっても、長男じゃなきゃ結局は実力社会なのかもしれないわね。
でも外に顔を出さないか。
あの感じならなんとなく分かるわ。
貴族っぽくないし、がさつっぽいし。
正直、あんまり得意なタイプじゃないのよね。
「なんとなく分かる気がしますわ」
「そうなの? だからすごく人気なのよ?」
「人気? え、あれで?」
そう言って私は思わず自分の口を手でふさいだ。
ああ、不敬罪すぎるわ。
向こうのがずっと身分が高いのに。
「そんな人だったの? アタシも顔くらいしか見たことないけど」
「すごいですよ。がさつというか、ぶっきらぼうというか。だから貴族だと思わなくて」
「へぇ、意外ね。そんな方とお茶か……」
元平民と騎士団長って、組み合わせも変だし。
自分でもどんな感じなのか想像もつかないわ。
「あ!」
「な、なに、急に大声なんて上げて」
「その……お茶会行くのにドレスなくて。何か着ないものでいいので、貸してもらえないかと思って」
「それはいいけど、アタシの入る?」
マリアンヌは私の胸を見た後、自分の胸を見た。
確かに彼女の方がスレンダーかつグラマーであり、ドレスはその胸を強調するようになっている。
ぺたんこの私には確かに違う意味で無理かもしれないわね。
ジッと胸を見る私に、マリアンヌはまた吹き出した。
「なにか貴女が着れるようなものを見つけておくわ。当日化粧もしてあげる」
「いいんですか⁉」
「その代わり、どうなったかちゃんと教えてよね」
「もちろんです!」
楽しい時間ほどあっという間に過ぎ、嫌な時間ほど長く感じるというのは、いつもその時にならないと忘れてしまっているのが問題だと、私はあとから気づくのだった。
156
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜
水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」
効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。
彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。
だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。
彼に残した書き置きは一通のみ。
クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。
これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる