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051 気づきと選択
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「分かってはいたけど、ダミアンがしていることがどれだけ酷い事なのかって、やっと理解できたの。たとえ政略結婚であったとしても、貴女は妻なのよ。それをアタシの気を引くためだけに貶めようだなんて」
マリアンヌのために、というよりあれは性格の問題よね。
前からあんな感じの人だったし。
この相手がマリアンヌではなかったとしても、結局あの人は同じことをするだろう。
自分にとって気に入った相手の気を引くためなら、私なんてどうでもいいのだもの。
うん。性格は十分に悪いわよね。
もっとも恋は盲目ですから?
普通ならそんなことにすら気づかないんだろうけど。
でもマリアンヌはそれに気づいてしまった。
気づいたからこそ、それに加担する自分が許せないでいる。
あれだけ好きだった人を……あれだけ好きだった自分の気持ちを疑うくらいに。
「私は恋なんてしたことないのでわかりませんけど。でもそんなにも苦しいのなら、幸せになれないなら本当に辞めて欲しい。始めたからこそ、引き返せない気持ちは分かります。だけど、マリアンヌ様には幸せになって欲しいから」
「アタシだって幸せになりたかったのよ。ダミアンと何はなくても幸せになりたかったの。だけど人の上に成り立つ幸せがこんなにも醜いものだなんて……」
始めた恋は、幸せになるまで終われないって私も思っていたけど。
失恋でもないのに、こんな風にダメになることもあるのかな。
だけどこの先を選ぶのは私ではない。
いくらマリアンヌのために助言をしたところで、自分が納得できなければきっと同じなのだろう。
「ダミアンのこと、本当に好きなのに。幸せになれないって思ってしまうの」
「うーん」
私もそう思う。
だってクズすぎるんだもの。
「夜会はいつなんですか?」
「……来週なの」
「その日までゆっくり考えてみたらどうですか?」
「でも」
「長かった恋ですし、そんなにすぐに答えを出さなくてもいいでしょう」
悩む時間は本当は少ない方がいいかもしれないけど。
今は憔悴しきっていて、正常な答えが出せない気がするから。
この恋を終わらせるにしても、終わらせないにしても。
後悔だけはしないように。
後悔しかない死を迎えた私だからこそ、ただそう願う。
「今は無理せずゆっくり休んで、ちゃんと考えましょう? 私はどんな答えを出しても、マリアンヌ様のことを大切に思ってますから」
「アンリエッタ……ごめんね、ごめんね。ありがとう」
泣き崩れるマリアンヌをベッドに寝かしつける。
ただでさえか細いその体は、やはり限界のように思えた。
そして彼女が寝息を立てる頃、私は部屋をあとにする。
部屋の前には、中庭で前に会った妙齢の侍女が待機していた。
深々と頭を下げる彼女に、私は声をかける。
「泣き疲れて今眠ったところよ」
「ありがとうございます、奥様」
「いえ、それはいいんだけど。ずいぶん憔悴しきっているけど、マリアンヌ様は食事などちゃんと摂られている?」
「最近はあまり……。前まではダミアン様がお越しになった際はよく食べられていたのですが、それも減ってしまって」
「そう……」
元から食べる方ではなさそうだけど、好きな人がそばにいても食べれないっていうのは困ったわね。
私が外に連れ出せたらいいのかもしれないけど、さすがにダミアンの目がある。
二人が手を組んでいるなんて知られたら。
困るのは私ではなくマリアンヌだわ。
んー。困ったわね。
こういう時、どうしたらいいのかしら。
あー、でもそうね。
私が外に連れ出すと考えるから難しいんだ。
誰か知り合いの貴族にでもって……、二人くらいしか思いつかないわ。
だけど最終手段としては、そこに頼み込むしかないわね。
あの二人のどちらかに頼んでお茶会でも開催してもらって、そこでマリアンヌと合流すればいいか。
「今後も食事量が増えないようなら、少し私の方でも考えます」
「ありがとうございます」
「でも、もし状況が著しく悪化するようならすぐに医者を呼んだ方がいいわ。私も詳しくはないけど、あの感じではいつ倒れてしまってもおかしくないもの」
「はい。そうさせていただきます」
どこまでも低姿勢で所作の綺麗な彼女を見ていて、ふと最近気づいたことがある。
それはここに配置されている侍女たちのことだ。
始めは本邸の侍女がこちらに配置されているのかと思ったのだけど、彼女たちの主はダミアンではなくマリアンヌのように感じる。
私はその疑問をふと、侍女に投げかけた。
「あなたはこの男爵家の侍女ではなく、マリアンヌ様の侍女なの?」
私の問いに驚いたように瞳を大きくさせたあと、彼女はふわりとその表情を優しくさせる。
「はい。ここにいる侍女たちは皆、元いた屋敷よりマリアンヌ様についてきた者たちだけです」
「そうなの。でもそれなら良かったわ。みんなが味方なら、彼女も心強いでしょう」
「……そう願いたいです」
「大丈夫よ。マリアンヌ様は芯が強い人だもの。今は苦しくても、きっと自分の答えを見つけて、また前に進みだせるわ」
「……はい。わたくしどもも、そう思っております」
やることだらけだけど、仕方ないわ。
ミーアが道具屋には話をつけてくれていることだし。
とりあえずブレイズに手紙書くかな。
借りばっかりで嫌だけど、仕方ない。
マリアンヌのためだものね。
「では、また何かあったら知らせてちょうだい」
そう言って自室へ戻ろうとした私を、侍女が引きとめる。
「あの」
「ん? どうかした?」
「いつぞやは、不躾な質問を投げかけてしまい申し訳ございませんでした」
どこまでも深く頭を下げる彼女に、私はふっと微笑む。
あんなこと、まだ気にしていたんだ。
こっちはすぐに忘れてしまったというのに。
「いいのよ。マリアンヌ様のために言いたかったことでしょう。私も気にしてません」
「ですが……貴族の、しかも奥様に言うべき言葉では」
「元平民だし、気にしないわ。それに間違ったことを言ったわけでも、侮辱したわけでもない。だから大丈夫よ」
「……はい。本当に申しわけごさいませんでした」
頭を下げる彼女の肩をぽんぽんと叩くと、私は部屋に戻った。
マリアンヌのために、というよりあれは性格の問題よね。
前からあんな感じの人だったし。
この相手がマリアンヌではなかったとしても、結局あの人は同じことをするだろう。
自分にとって気に入った相手の気を引くためなら、私なんてどうでもいいのだもの。
うん。性格は十分に悪いわよね。
もっとも恋は盲目ですから?
普通ならそんなことにすら気づかないんだろうけど。
でもマリアンヌはそれに気づいてしまった。
気づいたからこそ、それに加担する自分が許せないでいる。
あれだけ好きだった人を……あれだけ好きだった自分の気持ちを疑うくらいに。
「私は恋なんてしたことないのでわかりませんけど。でもそんなにも苦しいのなら、幸せになれないなら本当に辞めて欲しい。始めたからこそ、引き返せない気持ちは分かります。だけど、マリアンヌ様には幸せになって欲しいから」
「アタシだって幸せになりたかったのよ。ダミアンと何はなくても幸せになりたかったの。だけど人の上に成り立つ幸せがこんなにも醜いものだなんて……」
始めた恋は、幸せになるまで終われないって私も思っていたけど。
失恋でもないのに、こんな風にダメになることもあるのかな。
だけどこの先を選ぶのは私ではない。
いくらマリアンヌのために助言をしたところで、自分が納得できなければきっと同じなのだろう。
「ダミアンのこと、本当に好きなのに。幸せになれないって思ってしまうの」
「うーん」
私もそう思う。
だってクズすぎるんだもの。
「夜会はいつなんですか?」
「……来週なの」
「その日までゆっくり考えてみたらどうですか?」
「でも」
「長かった恋ですし、そんなにすぐに答えを出さなくてもいいでしょう」
悩む時間は本当は少ない方がいいかもしれないけど。
今は憔悴しきっていて、正常な答えが出せない気がするから。
この恋を終わらせるにしても、終わらせないにしても。
後悔だけはしないように。
後悔しかない死を迎えた私だからこそ、ただそう願う。
「今は無理せずゆっくり休んで、ちゃんと考えましょう? 私はどんな答えを出しても、マリアンヌ様のことを大切に思ってますから」
「アンリエッタ……ごめんね、ごめんね。ありがとう」
泣き崩れるマリアンヌをベッドに寝かしつける。
ただでさえか細いその体は、やはり限界のように思えた。
そして彼女が寝息を立てる頃、私は部屋をあとにする。
部屋の前には、中庭で前に会った妙齢の侍女が待機していた。
深々と頭を下げる彼女に、私は声をかける。
「泣き疲れて今眠ったところよ」
「ありがとうございます、奥様」
「いえ、それはいいんだけど。ずいぶん憔悴しきっているけど、マリアンヌ様は食事などちゃんと摂られている?」
「最近はあまり……。前まではダミアン様がお越しになった際はよく食べられていたのですが、それも減ってしまって」
「そう……」
元から食べる方ではなさそうだけど、好きな人がそばにいても食べれないっていうのは困ったわね。
私が外に連れ出せたらいいのかもしれないけど、さすがにダミアンの目がある。
二人が手を組んでいるなんて知られたら。
困るのは私ではなくマリアンヌだわ。
んー。困ったわね。
こういう時、どうしたらいいのかしら。
あー、でもそうね。
私が外に連れ出すと考えるから難しいんだ。
誰か知り合いの貴族にでもって……、二人くらいしか思いつかないわ。
だけど最終手段としては、そこに頼み込むしかないわね。
あの二人のどちらかに頼んでお茶会でも開催してもらって、そこでマリアンヌと合流すればいいか。
「今後も食事量が増えないようなら、少し私の方でも考えます」
「ありがとうございます」
「でも、もし状況が著しく悪化するようならすぐに医者を呼んだ方がいいわ。私も詳しくはないけど、あの感じではいつ倒れてしまってもおかしくないもの」
「はい。そうさせていただきます」
どこまでも低姿勢で所作の綺麗な彼女を見ていて、ふと最近気づいたことがある。
それはここに配置されている侍女たちのことだ。
始めは本邸の侍女がこちらに配置されているのかと思ったのだけど、彼女たちの主はダミアンではなくマリアンヌのように感じる。
私はその疑問をふと、侍女に投げかけた。
「あなたはこの男爵家の侍女ではなく、マリアンヌ様の侍女なの?」
私の問いに驚いたように瞳を大きくさせたあと、彼女はふわりとその表情を優しくさせる。
「はい。ここにいる侍女たちは皆、元いた屋敷よりマリアンヌ様についてきた者たちだけです」
「そうなの。でもそれなら良かったわ。みんなが味方なら、彼女も心強いでしょう」
「……そう願いたいです」
「大丈夫よ。マリアンヌ様は芯が強い人だもの。今は苦しくても、きっと自分の答えを見つけて、また前に進みだせるわ」
「……はい。わたくしどもも、そう思っております」
やることだらけだけど、仕方ないわ。
ミーアが道具屋には話をつけてくれていることだし。
とりあえずブレイズに手紙書くかな。
借りばっかりで嫌だけど、仕方ない。
マリアンヌのためだものね。
「では、また何かあったら知らせてちょうだい」
そう言って自室へ戻ろうとした私を、侍女が引きとめる。
「あの」
「ん? どうかした?」
「いつぞやは、不躾な質問を投げかけてしまい申し訳ございませんでした」
どこまでも深く頭を下げる彼女に、私はふっと微笑む。
あんなこと、まだ気にしていたんだ。
こっちはすぐに忘れてしまったというのに。
「いいのよ。マリアンヌ様のために言いたかったことでしょう。私も気にしてません」
「ですが……貴族の、しかも奥様に言うべき言葉では」
「元平民だし、気にしないわ。それに間違ったことを言ったわけでも、侮辱したわけでもない。だから大丈夫よ」
「……はい。本当に申しわけごさいませんでした」
頭を下げる彼女の肩をぽんぽんと叩くと、私は部屋に戻った。
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