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夜に舞う
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「しかし、法的には建造物への不法侵入にすぎませんが」
「クロウの侵入した建造物はどこだ?」
「国立特殊遺伝疾病研究センターです」
「そうだ。しかも画像をよく見ろ、奴が侵入したのはDr. ケンジ・コマツのラボだ!」
司令官が、立体投影されている衛星からの映像を、ジェスチャーで引き延ばした。司令官の手の動きを認識した投影装置が、即座にDr.コマツのラボの窓を映し出した。そこには、クロウがラボに侵入した際に開けた丸い穴が開いていた。
「なんでクロウがDr.コマツのラボに? それにDr.コマツはついこの間……」
困惑するナオミが理解するのを待っていられないという様子で、コノエ司令官はその大声に加えて、ジャスチャーで命令を下した。
“絶対に、クロウを、逃がすな”
ナオミは我に返り、即座に中央管理センターに待機している全てのヴァイス・アーミーを呼び出した。食事をしている者、ジムで汗を流している者、就寝している者も一人残らずだ。
“総員、出動せよ。繰り返す。総員、出動せよ”
明らかな異常事態を感じていたのは、ナオミやアーミー達だけではない。
“なんだこりゃ!? ヴァイス・アーミーがこんなに大勢出動したぞ!! メトロポリスでなんかあったのか!?”
アーミー・ストーカーたちが発信した、出動する無数のホバーバイクの写真付きのツイートは、瞬く間に拡散された。
“やべええええ!!”
“戦争キタコレ!”
“また底辺サイボーグの一揆?”
“にしても大げさすぎるだろ。宇宙人の襲来とか?”
“↑割とありうる”
アカウントと個人情報の紐づけが義務付けられている表層ウェブでも、この盛り上がりようだ。非合法の完全秘匿通信を使用したダークウェブでは、言わずもがなだった。
“アーミーが向かってる方向は、医療法人集積エリアらしいな”
“はいは~い、理由が分かりましたよ皆さん”
1つのアカウントが、ダークウェブ上の公開チャットに、衛星をハッキングして入手した映像をアップロードした。そこには、国立特殊遺伝疾病研究センターのビルの屋上に佇む、黒いアーマーを装着したトシロウが映し出されていた。
“クロウじゃん”
“クロウキターーーー!!”
“クロウ何やらかしたんだよ?”
“さすがに今回はヤバくない? クロウ早く逃げてーーー!”
現実世界においてもウェブにおいても、クロウとトシロウを結びつけている人間はいない。それはWB2385も知らなかったことだ。トシロウはゴシップサイトを運営するただのカメラ小僧、フリーのパパラッチだと思われているが、クロウは一種のヒーローだった。殆どの市民にとって、強権と抑圧の象徴であるヴァイス・アーミーを手玉にとり、いつもその追跡から余裕で逃げ切る謎のアーマー。正体も目的も一切不明。“殆ど”完全管理社会に生きる人々にとって、そんなクロウは自由の象徴でもあった。実際は、トシロウがシャドウ・クロウラーにアップするためのネタ探しを行っているに過ぎないが、たまに光学迷彩を脱いで、市民にヴァイス・アーミーとの“追いかけっこ”を観戦するという娯楽を与えていたのだった。
クロウ・アーマーをまとったトシロウは、表層ウェブとダークウェブのトレンドチャートを横並びに立体表示させている。今や表層ウェブの住民たちも、アーミーの狙いがクロウであることに気付き始めていた。
「分かりやすく食いつくんだなぁ」
やはり、WB2385は何かとんでもない闇に光を当てようとしたらしい。ロウアータウンの、子供の連続失踪事件……?
トシロウの胸に、突然針が指したような痛みが走った。それは、遠く封印したはずの記憶、棺桶に無理やり押し込めて釘を念入りに打ち込み、地中の奥深くに埋めたはずの苦い体験が、眠りから覚め、蓋を内側からこじ開けようとしている痛みだった。
「俺が……アーミーにいた頃……」
ふと、強い光がトシロウに向けられた。アーミーの乗る飛行ポッドが群れをなしてトシロウのいるビルに迫っている。地上では、一般道に降りたホバーバイクの大軍が四方八方からやって来ていた。
「空と陸を囲まれたか……。面白ぇ」
クロウ・アーマーの各部に取り付けられたスラスターの開口部が、最大まで開いた。電磁モーターの音が空間を切り裂く。空冷の為に取り込まれる空気が、辺りの空間を震わせる。
「捕まえてみな!」
地上100メートル超のビルの屋上から飛び降りながら、クロウは光学迷彩装置を再びアクティベートした。
「クロウの侵入した建造物はどこだ?」
「国立特殊遺伝疾病研究センターです」
「そうだ。しかも画像をよく見ろ、奴が侵入したのはDr. ケンジ・コマツのラボだ!」
司令官が、立体投影されている衛星からの映像を、ジェスチャーで引き延ばした。司令官の手の動きを認識した投影装置が、即座にDr.コマツのラボの窓を映し出した。そこには、クロウがラボに侵入した際に開けた丸い穴が開いていた。
「なんでクロウがDr.コマツのラボに? それにDr.コマツはついこの間……」
困惑するナオミが理解するのを待っていられないという様子で、コノエ司令官はその大声に加えて、ジャスチャーで命令を下した。
“絶対に、クロウを、逃がすな”
ナオミは我に返り、即座に中央管理センターに待機している全てのヴァイス・アーミーを呼び出した。食事をしている者、ジムで汗を流している者、就寝している者も一人残らずだ。
“総員、出動せよ。繰り返す。総員、出動せよ”
明らかな異常事態を感じていたのは、ナオミやアーミー達だけではない。
“なんだこりゃ!? ヴァイス・アーミーがこんなに大勢出動したぞ!! メトロポリスでなんかあったのか!?”
アーミー・ストーカーたちが発信した、出動する無数のホバーバイクの写真付きのツイートは、瞬く間に拡散された。
“やべええええ!!”
“戦争キタコレ!”
“また底辺サイボーグの一揆?”
“にしても大げさすぎるだろ。宇宙人の襲来とか?”
“↑割とありうる”
アカウントと個人情報の紐づけが義務付けられている表層ウェブでも、この盛り上がりようだ。非合法の完全秘匿通信を使用したダークウェブでは、言わずもがなだった。
“アーミーが向かってる方向は、医療法人集積エリアらしいな”
“はいは~い、理由が分かりましたよ皆さん”
1つのアカウントが、ダークウェブ上の公開チャットに、衛星をハッキングして入手した映像をアップロードした。そこには、国立特殊遺伝疾病研究センターのビルの屋上に佇む、黒いアーマーを装着したトシロウが映し出されていた。
“クロウじゃん”
“クロウキターーーー!!”
“クロウ何やらかしたんだよ?”
“さすがに今回はヤバくない? クロウ早く逃げてーーー!”
現実世界においてもウェブにおいても、クロウとトシロウを結びつけている人間はいない。それはWB2385も知らなかったことだ。トシロウはゴシップサイトを運営するただのカメラ小僧、フリーのパパラッチだと思われているが、クロウは一種のヒーローだった。殆どの市民にとって、強権と抑圧の象徴であるヴァイス・アーミーを手玉にとり、いつもその追跡から余裕で逃げ切る謎のアーマー。正体も目的も一切不明。“殆ど”完全管理社会に生きる人々にとって、そんなクロウは自由の象徴でもあった。実際は、トシロウがシャドウ・クロウラーにアップするためのネタ探しを行っているに過ぎないが、たまに光学迷彩を脱いで、市民にヴァイス・アーミーとの“追いかけっこ”を観戦するという娯楽を与えていたのだった。
クロウ・アーマーをまとったトシロウは、表層ウェブとダークウェブのトレンドチャートを横並びに立体表示させている。今や表層ウェブの住民たちも、アーミーの狙いがクロウであることに気付き始めていた。
「分かりやすく食いつくんだなぁ」
やはり、WB2385は何かとんでもない闇に光を当てようとしたらしい。ロウアータウンの、子供の連続失踪事件……?
トシロウの胸に、突然針が指したような痛みが走った。それは、遠く封印したはずの記憶、棺桶に無理やり押し込めて釘を念入りに打ち込み、地中の奥深くに埋めたはずの苦い体験が、眠りから覚め、蓋を内側からこじ開けようとしている痛みだった。
「俺が……アーミーにいた頃……」
ふと、強い光がトシロウに向けられた。アーミーの乗る飛行ポッドが群れをなしてトシロウのいるビルに迫っている。地上では、一般道に降りたホバーバイクの大軍が四方八方からやって来ていた。
「空と陸を囲まれたか……。面白ぇ」
クロウ・アーマーの各部に取り付けられたスラスターの開口部が、最大まで開いた。電磁モーターの音が空間を切り裂く。空冷の為に取り込まれる空気が、辺りの空間を震わせる。
「捕まえてみな!」
地上100メートル超のビルの屋上から飛び降りながら、クロウは光学迷彩装置を再びアクティベートした。
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