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4章:本と個展とオリンピック

第9話

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「もっと、してください」

彼の左手の動きに合わせて、ゆっくりと腰を揺らす。

「んっ、ふ……」

後ろの快感に引っ張られるように、前からも先走りが溢れ出していた。

「ヤバいなミズキ……。俺は、お前のその顔見てるだけでイキそう」

相楽さんが頬を緩め、ため息をついた。

「見てるだけじゃ、嫌です」
「うん……」

後ろから指を引き抜き、こめかみにキスをされる。

「もう、いけそうか?」

相楽さんの指の間に、スキンの袋が挟まれていた。

「多分……」

震える声で話しながら、現実感が伴わない。

「……分かった」

相楽さんは僕の両膝を持ち上げると、正面から体を合わせてきた。
硬い先端が当たり、ローションで濡れた入り口がこすれる。
指で慣らしていたおかげか、僕のそこは素直に、彼の猛りを受け入れた。

「あ、は――…」

けれども押し入ってくる大きさに、息が止まってしまう。
引き裂かれるような痛みで我に返り、不安に襲われた。

(こんなの、入るのか……?)

恐怖と鳥肌とが全身を襲う。
ところが興奮と不安を宿した彼の瞳を見た途端、もうどうなってもいいと思ってしまった。
相楽さんもきっと、初めてのことに怯えている。
この人の弱いところ駄目なところ、そしてそれを覆い隠す強がりと、痛々しいほどの芯の強さを、僕は愛している。

「相楽さん」
「ミズキっ……!」

背中を抱きしめられ、深い部分で体が交わる。
体の奥に張り詰めた痛みと、好きな人の息づかいを感じた。

相楽さんの額を汗が伝って、星のようにきらめいて落ちる。

「あ――…」

繋がれたことにホッとして、涙があふれた。

「……っ、痛いか?」
「嬉しいです」
「ミズキ」
「あなたが好き……」

相楽さんはゆっくりと確かめるように腰を揺すり、また奥へ進んでくる。

「あ、ん……」
「俺も、ミズキが好き」

腰を優しく揺らしながら、目尻にキスをされた。

(嬉しい、好き、幸せ……)

内側を熱くこすられるたびに、甘い想いが体中に積み重なっていく。
そして、だんだんと怖くなる。
こんな幸せが、永遠に続くはずがない……。

「ミズキが、女だったら……今すぐ孕ませてやるのにな」

痛みが伴うほど深く貫いて、相楽さんがつぶやいた。

「それ……どういう意味で言ってます?」
「……意味なんてない」

返ってくる声が、暗く陰って聞こえる。
不安が重くのしかかる。
その夜相楽さんは内側に名残を刻むように、僕を何度も抱いた――。
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