新撰組~救いの剣~

クロウ

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加恵の救い3

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「ご用改め、結構おすなあ。」




 蔵山が声をかけてきた。




「しかし、うちの店を探しても埃しか出てきまへんえ。
そうどっしゃろ。」




 まるで「所詮お前らには見つけられるものか」と
暗に言われた。




「うちのとこと、他所を間違えはったん違いますか。」




 蔵山を見据えたまま斎藤は一歩前へと踏み出した。




「新撰組がここへ来た理由は2つ。
1つは長州と密売をしている噂があるため。」


「まさか。うちは金貸しもやってますから、怨みも結構買うてます。根も葉もない噂が立つのは日常茶飯事。
実際、見ての通りここには何もありやしまへん。」


「確かに今見てきた限りでは疑惑を裏付けるものはない。が、もう1つの方だ。」




 そう言うと斎藤はこれ見よがしに鯉口を切ってみせた。目論見通り蔵山は足元をすくませている。




「行方知れずになったいるうちの女中を探していてな。
その女中がここに連れ込まれるのを見た、との知らせが
あった。」


「存じ上げまへんな。」


「嘘を吐くのも大概にしろ。
目撃したのはうちの女中でな。間違えるはずもない。」


「ここにまで来る際、その女中はんの姿はありまへんどしたやろ?」


「いや、まだ探し足りぬ。もう暫く見て回らせてもらおうか。」




 蔵山の首には太刀の切っ先ーー切っ先一寸の間隙で
止められていた。




「潔白であると申すのなら、どれだけ見られようが
構わんだろう。」


「へ、へえ。のんどりして行っておくれやす。」




 蔵山の言葉に了承の意を感じ取った斎藤は抜刀した
太刀を鞘に戻した。元より切るつもりなんて無かったが。今しがたの一言を蔵山から引き出すことが目的
だったのである。


しかし太刀を抜いた時斎藤は激昂しかけていた。
言い逃れを続ける蔵山に腸が煮えたぎっていたのだ。
理性が保てたから良かったものの、
もし蔵山が明白に挑発するようなことを口にしていたら
切っていたかもしれない。


人切り、と巷で呼ばれているのも仕方がないと思った。




(さて、どうしたものか。)




 思いきった試みに出たことで気が晴れた斎藤は
どこを探すかということに頭を切り替えた。
部屋の中は山崎さんが調べたというから、
こういったところに不馴れな自分が見て回ったところで
蔵山が言った通り埃しか出てこないだろう。




「皆は上へ行け。俺は下をあたる。」


「上とは屋根裏部屋ですか。」


「左様。頼んだぞ。」




 天井か床下、またはその両方が黒であると思っている。




(長州が今欲しがるのは武器弾薬の類いに相違ないはず。そこそこの重さがあるだろうから、やはり下か。
しかし上に手勢を割いたのも無駄ではないはず。
鼠が隠れているやもしれぬからな。)




 畳1枚1枚を叩いて周りながら、音の響きが異なる
ところは無いかを確かめて行く。
時々斎藤は蔵山を横目に見やった。




(大店の商人だけあって頭はきれるようだが、
先の狼狽ぶりからすれば肝っ玉は小さい。)




 もし当たりをつけば顔色が変わるか、
挙動不審になるだろうと踏んでいたためである。
一通り全て確認したが特にこれと言った点は無かった。


蔵山の部屋で見ていないのは家具の下のみ。
大きいものとなれば動かすのに骨が折れる。
だから重い家具の下に隠す可能性は低い。


密売品というのはこれまでの似た捕り物の事例では
見つかることを恐れて頻繁に置場所を変えていた。
となれば出し入れする場所に重い物を置いていては
面倒臭い。つまり軽い調度品の下にある可能性が高い。




(先ずは机の下から。)




 蔵山の背後に置かれた机に斎藤は手をかけた。


 これ程までに蔵山の部屋を執拗に調べるのは、
無論考えがあってのことだ。
もし自分が蔵山だったらどうするかを思案した。




(俺なら奉公人が出入りするような部屋には物を置く気がせぬ。)




 秘密の漏洩に用心して己の部屋に品を隠しておこうと考えるのが至極当然の流れではないか。


そこまで思案した結果、今に至る。
斎藤は机を脇にどけると下の畳を突いた。
ーー音がしない。




(当たりか。)




 感触がひどく柔らかかった。
振り返れば蔵山の青い顔。
斎藤の予想は見事的中したようである。
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