Away from keyboard ~僕はただ歌いたい~

あー

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うさぎ

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眩い光が目を襲う。
いままで感じたことのない光にーーそれが太陽の光だと認識出来たのは。
唯一、最下層でも閲覧出来る歴史書にその姿が載っていたから。

そして、ようやく光に慣れた目に映る景色に宇佐木は。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!」

叫ぶ。
そこは空の上だった。
状況が理解できない。
自分はさっきまでビルの屋上にいたはずだ。
目の前の異常な景色がさらに混乱を加速させていく。

AIに管理され見れることの叶わない自然が視界いっぱいにひろがり。どの角度から見ても空の上に島が3つ縦に浮かんでいた。

「まじでなんなんだよこれぇぇぇぇ!説明しなさすぎだろぉぉぉ」

よく分からない巨大な生物が空を飛び回り。
歴史書の中でしか見ることの叶わない"海"がそこにある。

空想の産物のもので埋め尽くされる景色。
自分が生きていた世界では見ることの出来ない景色。

だが、それよりも。
今まで感じていた浮遊感の正体が、自分が落下しているからなのだということに気づき。

動揺から諦めに変わり思考を放棄するまでにそう長くはかからなかった。


そんな、悲痛な気持ちを打ち破るかのように。
高らかに叫ぶ声が隣から聞こえた。

『ようこそ、全ての始まり地アトランティスへ!!』

人間ではないーーボロきれのような服を纏った兎と呼ばれる動物が、壮大な景色を背後に笑う。

形も大きさも全て兎なのに、その表情だけはどこか人間くさいものを浮かべていた。

「しゃべった·····??」
「質問はたくさんあるだろうけど、時間が無いんだ。出会いは必然にして突然。交渉に入ろう☆」

宇佐木の戸惑いはマルっとスルー。
兎は、にあるのは2つの選択肢、そう前置きして
「ここで契約せずに落下して地面の染みの1つになるかーー僕と契約して世界をぶっ壊すか、です☆」
そう言い切りやがった。

口をパクパクと動かし音にならない声を叫びながら宇佐木は思う。

アイドルになると決断したのは自分だ。
ありえないことが起こるだろうと覚悟も決めた。
でも、流石に...
上空から命綱もなしに落下するなんて思わなかったし、変なうさぎに脅されるなんて考えていなかったわ!!

しゃらり、と踊るように近づく兎。さっきの台詞とは違いその振る舞いは優美だった。

「長ったらしい説明は苦手だから、状況は想像して展開を予想してね!」
宇佐木は吹き荒れる風を感じながら兎の言葉に耳を傾ける。


「君の世界はほんとに秩序により全てを管理されつまらなく、詰んでいて面白みの欠けらも無いと思わない?」
突然、演じるように語り出す兎。

「世界はもっと無秩序で刺激的で不完全であるべきはずなんだ!」
不完全である、べきだと。

「決められた空間で決められたレールを歩き結末はいつも同じ。ほんとにつまんない。」
つまらないーー世界。
息苦しいーー世の中、

大袈裟な身振りをつけ、兎は叫ぶ。

「だけど、君は面白い!」
その言葉がおっさんと重なり宇佐木はドゥクンと心臓がなる。

「今日1日君を見ていて僕は君に惚れた。君の歌声にファンになった!」

ボロきれをまとった兎は確かに叫んだ。

歌声にーーー惚れた、と。


AIが全ての歌を絵を物語を禁止し、1000年がたった。人間が生み出す歌や絵は害あるものとして規制し。
音楽は理にかなった波形へと、絵は非のない図形へと進化し人間の手から離れた。
そんな世界で宇佐木はおっさんに出会い楓に導かれ歌を学べた。
それらを,認めてもらえここまで熱烈に口説かれウサギは心が震える。


「あの世界は間違っている。捕まるから?廃人にされるから?迫害を受けるから?だから、今まで我慢していたのかい?ふざけるな、そんなものはーーー」
この兎の話に宇佐木は引き込まれる、

「あのライブのように全部壊して魅了させればいいんだよ☆」
くるりとターンを決め、愛嬌たっぷりに言う兎。

「ここは全ての元凶であり始まり【VRMMO アトランティス】っ!この世界のエンディングはここで全てが変わるっ!」

モフっとした前足を出し、兎は。

「君には世界の結末を変える力がある。僕もそれに協力しよう!」

宇佐木は決断を迫られる。
ーーこんなものは交渉でもなんでもない。
死にたくないならこの手を取れというとんだ悪徳業者だ。
めちゃくちゃでやりたい放題、まさに自由。

世界を魅せる。そのためならこの謎だらけの兎の手なんかいくらでもとってやる。

これが、宇佐木の本心であり間違いのない本音だった。
しかし、宇佐木の中にはもうひとつ思いがあった。
(俺を·····俺の歌を好きだと言ってくれたこの兎の)

この兎の目がーー輝いているのだ。
宇佐木を嵌めようとか陥れようとしている目ではなく純粋に期待し認めて尊敬する目。

「時間が無いよ。」
言われなくても分かる。もう地面まであと数十秒あるかないか。

「さぁ!早く!」
「·····っ!」
自由でやりたい放題。筋書きもまとまりも一切見せない展開。
でも、そんな自由で意味不明で自分勝手な全てをぶち壊すような熱い展開を。

『ずっとどこかで期待してたのかもしれない』

「さすが、そーこなくっちゃ」

宇佐木は兎の前足を取った。

「契約成立☆」
兎は楽しげに告げる。

「次会うのは君がアトランティスにおりてきてからかな?その時を楽しみにしているよ!」


パチンっ!

兎が指を鳴らし、そうして宇佐木の意識は暗転した。



········································

「ぅ·····うーん·····」
0と1の数字が回るメカニックな空間ーー気がつくと宇佐木は倒れていた。
うめきながら起き上がる宇佐木。

目の前にはメニュー画面のようなものが開かれていた。

"VRMMO アトランティス"。
兎の言葉を信じるなら自分は今その中にいるらしい。
AIの暴走により1万人の人が閉じ込められデスゲームに巻き込まれ。
そして、たった1万人に全ての世界の命運を賭けた狂ったゲームが託される。
強制的に自分は渦中に放り込まれた。

まさに、荒唐無稽で意味のわからない状況。
だが、そんな状況に宇佐木の顔には。
ワクワクとした笑みが浮かんでいた。
そんな自分に。
ーーあの兎に感化されたのかもな。
苦笑を浮かべ宇佐木はメニュー画面に向き直る。

『ようこそ、アトランティスへ。進行中のゲームを引き継ぐかどうか選択してください。』
頭に直接響く声に宇佐木は首を傾げる。
進行中も何もゲーム自体が初めてなのに、と。
宇佐木の疑問に答えるように声は続ける。
『皆様、世界に一つだけの"人生"という大遊戯物語を紡いでおります。それを引き継ぐかどうかここで選べます。』
なるほど、確かに広い視点で見れば人生もゲームのひとつ·····かもしれない。

宇佐木は引き継ぐことを選択する。
理由はまぁただ面白そうだったから、それだけだ。
『承りました。人生引き継ぎのため主なキャラメイク、痛覚、描写規制、種族はリアル準拠となります。また、ステータスは表示されずスキル表示のみになります。また、後からの変更は受け付けておりません。』

「·····へ?」
まて、まてまてまてステータスが何かは分からないが表示されないのはヤバいのではないか?
もしかして、初っ端からミスったか?!

唖然とする宇佐木を無視し声はそのまま続ける。

『では、髪型と目の色の変更をお願い致します。』
目の前に自分そっくりのキャラクターが表示される。
一旦先程のことは、脇に置き髪型と色を変更させーーー

「なんなんだよこれぇぇぇぇ!まったくわからん!」

ーーーーることは出来なかった。
面倒くさくなった宇佐木は、左端にあったランダムを押す。

『次に貴方様の名前を教えてください。』

「宇佐木だ。」

『確認しました。これで、キャラクターメイキングは終了です。最後に貴方様の人生に沿ったスキルを1つだけ送らせていただきます。』

光の珠が身体の中に吸い込まれる。

『お疲れさまでした。それでは、チュートリアルに移行します。』

そして、宇佐木は視界を埋める白い光に飲み込まれる。







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