【外伝】 白雪姫症候群 ースノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第1章 新人編

第4話ー③ もう一人の自分

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 それから楽しい夕食の時間を過ごしたあと、キリヤと優香は職員室に来ていた。

「わざわざ時間をつくってくれてありがとう、先生」
「かわいい元教え子の為なら、いくらでも俺は時間をつくるさ。俺もキリヤたちに聞きたいことが山積みだからな! それで、俺に何の話があるんだ?」
「実は――」

 キリヤは先日の優香の暴走のことを詳しく話したのち、暴走後に見た世界の話を始める。

「僕が暴走して眠っている時、深層心理の世界でもう1人の僕と会話をしたんだよ」
「深層心理の世界……?」
「あ、うん。暴走時に見る夢の世界のこと。僕たちはそう呼んでいるんだ」

 キリヤの言葉に静かに頷く優香。

「それでね。その時、『ここに残ったほうがいい』ってもう1人から僕にそう言われてね……でも、僕は先生を信じたいって言ったら、元の世界に戻れって言われたんだ。『君はもう大丈夫』って――」

 そういえば、眠っていた時のことを先生に話すのは初めてだったな――

 そんなことを思いながら、キリヤは話を続けた。


「だからね、先生はその深層心理の世界のことを覚えているかなって思って」

「……すまん。実は何も覚えていないんだよ。俺が暴走して意識を失った後、気が付いたら研究所のベッドにいた。だからその時には何も……」

「そう、なんだ……」

「そういう優香はどうだったんだ? 何か覚えているのか?」


 暁の問いに、優香は頬に手を当てながら答える。

「実は私も記憶がなくて……もしかしたら、キリヤ君が特別なのかもしれませんね」

 僕が特別……なのか? でも目を覚ました後、特に何かがあったわけじゃ――

 暴走した大半の子供たちが、剛のように眠り続けている。だからなぜキリヤだけが暴走後の世界を見て、暁たちが見ていないのかというのは調べようもないことだった。

「結局、今のところは何もわからないってことだね……」

 キリヤは肩を落としながら、そう言った。

「そういうことみたいですね……しかしそんなに気にする問題でもないのではないですか? 覚えていたからといって、どうこうなるものでもないわけですし」

 優香は笑いながら、キリヤにそう告げた。

「そう、だね! 覚えていてもいなくても、目を覚ましたって事実だけは本物だもんね!」

 キリヤは笑顔でそう告げる。

「――じゃあ話はまとまったってことでいいか?」

 暁は楽し気に会話していたキリヤと優香に笑顔でそう言った。

「うん!」
「はい」
「よしっ! じゃあ今度は俺の質問タイムだ!」
「質問タイム……?」

 先生はいったい、僕たちに何を聞こうというのだろう――

 キリヤは息を飲みながら、暁の質問を待った。

「えっと……2人が今まで見てきたものや感じたことを教えてほしいなって思ってさ」

 そして暁は右の頬を掻いて恥ずかしそうにしながら、キリヤたちにそう告げる。

「え?」

 キリヤは暁の思いがけない質問にきょとんとしてしまう。

「いや、俺ってここから出られないだろう? だから2人が外でどんなものに見て、聞いて、感じたのか……それはとても興味がある!!」

 暁はドヤ顔でキリヤたちにそう言った。

「あははは! そういう事ね! わかった、じゃあ話すよ。僕たちが今までどんな任務をしてきたのかを――」

 それからキリヤは夜通しで暁に任務の話をしていた。

 優香は途中で眠いといって職員室を出て行ったけれど、キリヤはそれでもずっと暁に今までのことを話した。

 そして暁もキリヤたちはいなくなった後の施設の話をした。まゆおや真一たちの成長、そして新しく来た3人のこと――

 キリヤにとってそれはとても楽しくて、あっという間の時間だった。

 ――翌朝。

「あ、僕いつの間にか眠って……」

 そう言って目をこすりながら身体を起こすキリヤ。

「先生、朝――」

 そう言ってキリヤは暁に視線を向けると、そこには隣で子供みたいに楽しそうな顔で眠っている暁の姿が見えた。

「これじゃ、どっちが年上かわからないね」

 そんな暁の寝顔にキリヤは「くすっ」と笑いかけたのだった――。



 それから数日間、キリヤたちは施設で楽しく過ごしていた。真一たちのユニット『はちみつとジンジャー』の曲を聴いたり、結衣たち女子ーズの短編ドラマを見たりと時間はあっという間に経過していった。

 そしてとうとうキリヤたちは研究所に戻る日が来た。

 結局、深層心理の世界のことは何もわからず仕舞いだったけれど、とても楽しくて本当にあっという間の3日間だったからそれでよかったのかもしれない――。

「2人とも、元気でな。身体には気をつけるんだぞ。そして何かあれば、いつでも連絡してくれよ!」

 暁はエントランスゲートでキリヤたちを見送りに来ていた。

「うん。ありがとう、先生。ここ3日間はすごく楽しかった。また必ず遊びにくるよ。それと、また電話するから」

 キリヤはそう言いながら、暁に笑いかける。

「ああ、待ってる!」
「じゃあ、そろそろ……先生、ありがとうございました。先生もご無理なさらず、教師を頑張ってくださいね」
「ありがとうな、優香。優香も身体には気をつけて。それと、キリヤのことはよろしく頼む」

 暁はそう言いながら、優香に頭を下げた。

「ちょ、ちょっと! そういうの恥ずかしいし、それに先生は僕の保護者じゃないでしょ!? 何言ってんの!!」

 キリヤは照れながら、そう言った。

「わかりました。キリヤ君のことは私にお任せください、先生!」

 優香は満面の笑みでそう答える。

「ねえ、2人とも。ちょっと僕のことを子ども扱いしすぎじゃない!?」
「はあい、じゃあそろそろ戻りますよ~」

 優香はキリヤの言葉を無視して、車に乗り込む。

「ははは! 相変わらず仲がいいな、2人は!」
「まあ、確かに仲はいいかな」

 キリヤは笑顔でそう答える。

 そう。優香の隣にいるのは、僕がいいって思うから――

「……じゃあ、またな。キリヤ」
「うん、いってきます、先生!」

 キリヤは笑顔で暁にそう告げてから、車に乗り込んだ。

 そして車は走り出し、キリヤは窓の外から見える施設を見つめた。

「もしかして施設に帰りたくなった?」

 優香はからかうように、キリヤへそう告げた。

「ははは。少しね。でも、僕たちは僕たちにしかできないことがある。そうでしょ?」
「そうだね」

 それからキリヤたちの乗せた車は、施設を後にしたのだった。



 僕の見たもうひとりの自分はなんだったのか。そして優香や先生に記憶がないのはなぜなのか。疑問は多いけれど、今回はこれで良いのかもしれない。

 いつかこの謎が解ける日が来ると、僕はそう思うから――。
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