【外伝】 白雪姫症候群 ースノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第3章 完結編

第2話ー⑧ 湖畔の罠

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「このあたりで別れたと思ったんだけどな……」

 キリヤは龍の少女を背負いながら、きょろきょろとあたりを見渡す。

 ほたるって呼ばれる少年もいないみたいだし、優香はどこへ行ったんだろう――

 すると、路地裏の陰から少年が姿を現す。

「君……三谷君、だね」
「名字で呼ばないでくれるとありがたいかな。桑島キリヤ君」
「僕もフルネームで呼ばれるのはちょっと……」
「じゃあキリヤ君で」

 そう言って微笑む翔。

 もしかしてからかわれたのかな? 落ち着いてはいるけど、やっぱり年相応なんだな――

「うん。ありがとう、翔君。それで、なんで君がここに?」
「君が探している子はこっち――」

 そう言って路地裏に入っていく翔。

「あ、待って!」

 キリヤはそう言って、翔の後を追った。

 優香のところに連れて行ってくれるってことなのかな――

 翔の後ろを歩きながら、キリヤはそんなことを思っていた。

「君が背負っているその子は?」

 翔は前を向いて歩いたまま、キリヤにそう尋ねた。

「えっとさっき、湖畔で――」
「ああ、なるほど。『エヴィル・クイーン』の罠に使われた子か」
「う、うん」

 なんでそのことを――?

 そんなことを思いながら、前を歩く翔を見つめるキリヤ。

「彼女も『ゼンシンノウリョクシャ』なんだね。さっき遠くから龍が暴れているのが見えていたよ」

 また、『ゼンシンノウリョクシャ』って……それって何のこと――?

「ねえ」
「ん? なんだい?」
「さっきこの子も言っていたけど、その『ゼンシンノウリョクシャ』って……?」

 その問いに翔は立ち止まり、キリヤの方を向いた。

「もしかして、『ゼンシンノウリョクシャ』を知らないのかい?」
「う、うん」

 目を丸くする翔を見て、キリヤは呆然とする。

「そうか……」

 そしてまた歩き出す翔とキリヤ。

 そんなに驚かれるようなことなのかな? だって今まで聞いたこともないし、それに何でも知っていそうな優香からそんなことは何も――

「――まあ、それは僕から言うよりも、彼女に聞いたらいいよ」

 そして足を止めた翔の視線の先には、壁にもたれて眠る優香がいた。

「!? 優香!! どうしたの!?」

 そう言って優香に駆け寄るキリヤ。

「大丈夫。眠っているだけだから。直に目が覚めるよ。傷も塞がっているしね」
「君が優香を手当してくれたの?」
「いや。彼女自身の能力だよ。じゃあ、僕はこれで。元気でね、キリヤ君」

 そう言って翔はどこかへ行ってしまった。

 キリヤは背負っていた龍の少女を下ろし寝かせると、優香の傍で座り、肩を揺らした。

「優香? 大丈夫?? 優香!!」
「んんん……あれ。キリヤ君?」

 そう言いながら目をあける優香。

「無事でよかった……ケガもないみたいで安心したよ」
「え……あ……」

 優香はキリヤの言葉を聞き、自身の身体を触る。その動きを不審に思ったキリヤは、「どうしたの?」と不安な顔を優香に尋ねた。

「キリヤ君がここへ来たとき、私ってどんな感じだった?」
「どんなって……眠っていたよ。こう、目を閉じてスヤスヤと――」
「そ、そっか……」

 そしてホッとした表情をする優香。

 そんな優香に首をかしげるキリヤ。

「でも、それがどうしたの……?」
「え、うん。えっと……あ、ほら! 寝顔を見られるのって恥ずかしいじゃない? ってことだよ!」
「あはは。なんだかわかる気がするよ!」
「で、でしょ?」

 そう言って微笑む優香。

 そんな優香の顔を見たキリヤは、本当にもう大丈夫なんだという事を理解する。

「うん。優香ももう何ともないみたいだし、このまま民宿に戻ろうか! あの子も何としなくちゃだし」

 そう言って横たわる少女に目を向けるキリヤ。

「あの子が依頼者の娘さん??」
「その娘役の女の子。『エヴィル・クイーン』に騙されて、利用されていたみたいだ。魔女を僕たちが消したって思っているみたいで」

 キリヤは眉間に皺を寄せてそう言った。

「さっきのほたるとかいう子も同じことを言っていたね」
「うん」

 ローレンスに話を聞いた時、魔女は自身が消されることを予言していたと言っていたっけ――

 キリヤはほたるや龍の少女の言葉を聞き、ローレンスから聞いたことが本当なのかもしれないと思い始めていた。


「……本当に、魔女は消えたのかな」

「さあね。でもとりあえずこの子は何とかしてあげないとじゃない? 私達をおびき寄せてここで消すはずだったんだろうけど、その作戦は失敗した。つまり今度はこの子が消される可能性があるってことだよ」

「そんな――!?」

「でも私たちが守ってあげればいい。じゃあ宿に戻ろうか」


 優香はそう言って立ち上がった。

「うん」

 キリヤは寝かせていた少女を再び背負うと、優香と共に宿へ向かって歩き出したのだった。
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