【外伝】 白雪姫症候群 ースノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第3章 完結編

第5話ー④ 未来へ

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 ――夜明学園にて。

「どこ行っていたの! 電話してもすぐに出ないし!! どういうつもり?」

 キリヤが水蓮と共に学園に戻ると、なぜか門の前に立っていた恵里菜はまくしたてるようにそう言った。

「ご、ごめんって! マナーモードにしていて気が付かなかったんだ!」
「言い訳なんていらない! さっさと帰るわよ!!」

 そう言って歩き出す恵里菜。

「待ってよ、恵里菜! じゃあ最上さん、今日はありがとうございました!」

 キリヤは水蓮に一礼して、恵里菜を追ったのだった。



「恵里菜、歩いて帰るの?」
「……」
「おーい?」
「うるさいわね! 歩きたい気分なのっ!!」
「そ、そうなんだ……」

 さすがに怒りすぎじゃない――? 

 そんなことを思いながら、苦笑いで恵里菜を見つめるキリヤだった。

「そういえば、学校はどうだった?」
「……」
「恵里菜?」
「別にどうってことはないわよ! つまらなかったわ」

 眉間に皺を寄せてそう言う恵里菜。

「そう、なの? 久しぶりにクラスメイトに会えて、積もる話もあったんじゃないの――?」
「ないっ!」
「そ、そっか……」

 きっと今日何が起こるか、恵里菜はわかっていたんだろうな。だからそんな『予定調和』な一日が退屈に感じてしまうんだろう――

 キリヤはそんなことを考えて、恵里菜を見つめていた。

 自分が恵里菜と同じ状況だったら――ふとそんなことを考えるキリヤ。でも答えは出なかった。

 わからないことをどれだけ考えても仕方がない。僕は僕のやり方で恵里菜に気づいてもらうしかないよね――!

「恵里菜! これから出かけよう!!」
「はあ? 出かけるって、どこによ」
「いいから!!」

 キリヤはそう言って恵里菜の腕を掴み、そしてその腕を引いて歩いたのだった。



 それからキリヤと恵里菜は2人で街に出て、ショッピングをしていた。

 人生がつまらないという恵里菜に、少しでもいろんなことを経験して楽しんでほしいとキリヤは考えたからだった。

「あ! 恵里菜見てよ!! これ、おいしそうじゃない?」

 キリヤは小洒落たカフェの前で立ち止まり、店頭にあるサンプル商品を見て目を輝かせながらそう言った。

「いいなあ。僕、こんなパフェ食べたことないよ!」
「あなた……さっきのかき氷専門店でもそう言っていたじゃない。それでかき氷を食べようってことになって必死に食べ終えたのに、今度はパフェ? 馬鹿じゃないの??」

 恵里菜はあきれ顔でキリヤにそう言った。

「ええぇ。だって、もういつ食べられるかなんてわからないでしょ! だったら、今食べたいじゃない?」

 キラキラした目で恵里菜にそう言うキリヤ。

「もう、わかったわよ! 入るわよ!!」
「よっし!」

 キリヤは満面の笑みでそう言った。

「まったく……」

 恵里菜はため息を吐きつつも、少しだけ楽しそうに笑っていた。

 そして店内に入ったキリヤたちは席に着く。しばらくしてから女性店員がその席にやってきた。

「ご注文はいかがいたしましょうか!」

 甲高い声でその女性店員がキリヤたちにそう尋ねると、キリヤはメニューを見てから頷き、

「えっと、この桃パフェデラックスで!」

 満面の笑みでそう言った。

「は、はあ!? デラックス!? さっき、かき氷を――」
「桃パフェデラックスですね! かしこまりました!」

 それから女性店員はオーダーを届けにいった。

「楽しみだね、恵里菜!」
「キリヤは……はあ。でも、あなたはやっぱり予想外の動きをするのね。面白いわ」

 恵里菜は頬杖をついて、嬉しそうにキリヤへそう言った。

「ありがとう! でも、それさ……きっと僕だけじゃないと思うんだ」
「そんなことはないわ。今までもずっとそうだったもの。これからもきっとそうに違いないわ」

 うんざりとした顔をして、恵里菜はそう言った。

「深く関わろうとしなければ、たぶんきっとそのままなんだと思う。今より少しでも他の子たちと関わりを持ち始めれば、たぶん恵里菜の見えた未来より少しは変化があるんじゃないかな」

 キリヤは恵里菜の顔をまっすぐに見て、そう言った。

「関係性を深めることが、『予定調和』を崩すなんてそんな馬鹿なことありえると思う? ヒトは単純な生き物よ。だから私の見た未来が少しの関わりで変化するとは思えないわ」

 恵里菜は表情を変えず、キリヤにそう告げた。

「それを、試したことはあるの?」

 キリヤが真剣な顔つきでそう尋ねると、

「ない。でもそうに決まっている」

 恵里菜は断定するようにそう言った。


「やってもいないことをやる前から諦めるなんて、それこそ『予定調和』じゃないか。恵里菜自身が『予定調和』から抜け出せないから、たぶん恵里菜の周りは変わらないんじゃないの?」

「あなたなんかにそんなこと言われたくないわよ! あなたが私の何を知っているの!? たかが数日一緒にいただけで、わかった気にならないでよっ!!」


 恵里菜が大声を出して立ち上がると、店内にいた客の視線が恵里菜に集中した。そしてそれに気が付いた恵里菜は静かに着席する。

「……それ以上言ったら、私の目の前から消えてもらうから」
「わかった……ごめんね、僕もひどいことを言った」
「わかればいいのよ」

 それからキリヤは、席に運ばれてきた桃パフェを無言で平らげたのだった。



 帰り道――

 恵里菜とキリヤは無言で歩いていた。

 恵里菜、まだ怒っているよね――そんなことを思いながら、恵里菜の方をちらりと見るキリヤ。

 そしてその視線に気が付いた恵里菜は、

「そんなに怯えなくても、もう怒っていないわ」

 前を向いたままそう言った。

「よかった」

 そう言ってほっと胸を撫でおろすキリヤ。

「――よかったと思ってくれるのね」
「え? それはそうでしょ! せっかくできた友人なのに、いつまでも喧嘩をしたままって言うのは悲しいからさ」

 キリヤが笑顔でそう言うと、

「友人って……あはは。でも、良いかもしれないわね。――キリヤが私の初めての友人よ!!」

 恵里菜は嬉しそうに笑った。

「え? 僕が、初めてなの!?」

 目を丸くするキリヤ。

「何、驚いているのよ!!」
「いやあ。……でも今朝、声を掛けてくれた子がいたよね? その子は友人じゃないの?」
「あれは下僕」
「下僕!?」

 淡々と答える恵里菜に、少々驚くキリヤ。

 友人じゃないにしろ、同じ学校の知り合いをそこまで言えるなんて……やはり恵里菜は女王様気質なんだな――

 そう思いながら、「うんうん」と一人頷くキリヤ。

「ちょっと、何勝手に理解したわけ?」
「え? あー、うん。恵里菜の友人になれてよかった、万歳! ってこと?」
「絶対違うんでしょうけど、そう言う事にしておいてあげるわ」
「ありがとうございます!」

 キリヤはそう言ってニコッと微笑んだのだった。
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