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第2章 変動

第15話ー④ 大事件発生

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 僕は久々の外の世界を見ながら、その変化に驚きつつ目的地を目指していた。

「ちょっと距離を置いていただけなのに、世界ってこんなに変わるものなんだね……」
「そんなことはどうでも良いから、さっさと走る! おいていくよ?」

 久々の外の世界に感動している僕をたしなめながら、優香はどんどん先に進んでいた。

 さすがはスポーツ万能少女だなと息切れ一つなく走る優香に僕は感心していた。

 そして僕たちは街を抜け、目的の廃墟が見えてきた。

「あ、あそこだよ!!」
「わかった! 急ぐよ!」

 そう言って走る速度を上げる優香。

「ちょ、ちょっと待って! 早いってば!!」

 僕はそんな優香に追いつくのがやっとだった。



 廃墟の周りには、大人たちが数人立っていた。

「はあ、はあ。や、やっぱり、先生は、何か事件に巻き込まれて……」

 僕は全力で走ったせいで、うまく話ができないくらい息が切れていた。

 しかし優香は、息が切れることもなく、冷静に廃墟の周りを観察しているようだった。

「こんなに見張りがいるんじゃ、簡単には中に入れなさそうね」

 優香は少し考え、僕にある提案をする。

「私が外の見張りを引き付けるから、そのすきにキリヤ君があの廃墟に突入して」
「え!? そ、それじゃ、優香が危ないよ!」
「大丈夫。それにちょっと走っただけで息切れしているキリヤ君には、囮なんて頼めないでしょ!」
「そ、そんなこと!」

 僕は声を少々裏返しながらも、反論をする。

「それに私が助けに行くより、キリヤ君が来た方が、きっと先生は喜ぶと思わない?」

 そう言ってにこっと微笑む優香。

「でも……」
「それって私のことを信じてないの? あーあ。あんなに僕を信じろって言った男がね。聞いてあきれるよ!!」

 優香は挑発するように僕にそう言った。

「わかった! わかったから! 信じるよ!! でも、無理はダメだからね!」
「うん。それはお互いにね!」

 そして僕は優香と共に先生奪還作戦を決行した。

「いい? まずは私が入り口にいる人たちの注意を引く。中から何人か応援が来たら、キリヤ君は中に突入して。私も片付いたら、すぐにキリヤ君を追うから止まらずに進んでよ!」

 生き生きと作戦を話す優香に、僕はなんだかおもしろくて笑ってしまった。

「え!? なんで笑うの!」
「いや、なんか結構危険なことをするはずなのに楽しそうだなって思って。それに片付いたらって、負ける気もないんだ」
「当たり前でしょ? 私は優等生なんだから! 誰よりも優れているってところを見せてやるわ!」
「ははっ。それは頼もしい」
「じゃ、行ってきます!」

 そして優香は僕にそう言って微笑むと、廃墟に向かって走っていった。

「優香、ありがとう。頑張って……」

 僕は優香に言われた通り、見張りが出て行くのを木の陰で身をひそめながら待っていた。



「ふふふ。楽しませてよ?」

 そう言いながら、見張りの大人たちを引きつける優香。

「この辺でいいかな」

 廃墟から少し離れたところで優香は立ち止まり、追ってくる大人たちと対面する。

「あなたたちの目的は、何?」

 優香は面と向かってその大人たちに問うが、誰もその問いに答えることはなかった。

「観念しろよ……へへへ……」

 そして大人たちは優香に襲い掛かる。

「あーあ。素直に答えてくれたら、こんなことしなくて済んだのにね!」

 優香は手から無数の蜘蛛の糸を繰り出し、襲い掛かる大人たちを拘束した。

 後ろには増援できた大人が数人。

「さて、次はどうしようかな」

 そして楽しそうな笑顔でそう呟く優香だった。



 優香の言う通り、外にいた監視役を優香が引き付けると、中から数人の応援が出て来た。

「侵入者だ! 捕まえろ!!」

 そう言いながら、優香が引き付けている方に向かっていく数人の大人たち。

 そして僕は、その隙に廃墟へ潜入した。

 廃墟の中はとても静かだった。

「もしかして全員が出て行ったのか……」

 僕は廃墟の中を歩きながら、周りを見渡す。

「あーあ。もう居場所に気づいちゃったか。そう簡単にばれないと思ったんだけどね。どうやってここがわかったの?」

 その声がした方を向くと、そこには狂司の姿があった。

「これは何のつもりなの、狂司」

 そして狂司は不敵な笑いを浮かべながら、僕に言った。

「君には関係ないことさ。僕は先生さえいれば、それでいい」
「狂司……。もしかして僕が先生と居ると、独り占めできないからこんなことを……。だったら、ごめん。謝るからもうこんなことはやめよう!」

 僕を少々呆れた目で見る狂司。

 あれ? もしかして、違うのか……。

「君は何を勘違いしているんだい? ……はあ。まあでも君もなかなか興味深い能力を持っているみたいだね」

 狂司は僕の何かを知っているような口ぶりだった。

「それはどういうこと?」
「君もあるんだろ、複合能力が」
「さて、何のことだろう」

 僕は狂司の問いをはぐらかす。

 そして僕と狂司が対峙していると、遠くで地鳴りがした。

 何かを察した狂司。

「時間切れか……。今回はこの辺でお暇するよ。でも僕は先生の力を諦めたわけじゃないから!」

 そう言った狂司は僕の目を見つめた。

 すると、僕の身体は動かなくなった。

「僕の本当の能力は、集団催眠。今、君は僕の催眠術で動けなくなっているのさ。じゃあ、またどこかでお手合わせできるのを楽しみにしているよ」

 そして狂司はどこかへ行ってしまった。
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