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第3章 毒リンゴとお姫様
第17話 いろはの憧れ
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むかしむかしあるところに、ようしはとてもうつくしいが、こころのみにくいおきさきがいました。
おきさきはまほうのかがみをもっていて、まいにちのようにかがみにといかけます。
「かがみよかがみ。せかいでいちばんうつくしいのはだれだい?」
おきさきはかがみがいつものように「あなたがいちばんうつくしいです」とこたえるのをまちました。
しかしかがみは、
「はい、それはしらゆきひめです」
とこたえたのでした。
鏡の言葉にひどく腹を立てたお妃は猟師に白雪姫を殺すように命じる。
そして命の危機を感じた白雪姫はお妃と暮らしていた城を出て、迷い込んだ森の中で小人たちと出会った。
それから白雪姫は小人たちと楽しく暮らしていたけれど、突然やってきた老婆に扮したお妃から渡された毒リンゴを食べて、永遠の眠りについてしまう。
毒リンゴを食べて眠りについた白雪姫の元に現れたのは、白馬に乗った王子様だった。
そしてその王子のキスで白雪姫は目を覚ます。
それから白雪姫はその王子様と結婚して、ハッピーエンド。
これは世界で一番綺麗で、優しくて幸せなお姫様の物語。
とある病室。ベッドから身体を起こして絵本を広げる幼いいろはといろはの母の姿があった。
幼いいろはが持っているのは『白雪姫』の絵本。
いろははその絵本を見ながら、
「お母さん、アタシも白雪姫になれるかな」
隣にいる母にそう言った。
「ええ。いろはならきっとね」
母はそう言って優しく微笑んだ。
病気で入院しているときに初めて『白雪姫』の絵本を読んでから、アタシはずっと白雪姫に憧れていた。
世界で一番の美しさは無理だとしても、そこそこにかわいい女の子にはアタシにだってなれるって思っていたし、それにアタシは白雪姫に負けないくらい幸せな自信があった。
アタシの家はお金持ちだし、お父さんからもお母さんからも愛されていることを知っていたから。
そう思っていたけれど、結局『白雪姫』になれないままだった。
そもそも『白雪姫』になるって何なんだろう。
アタシはそんなことを考えるようになっていた。
「いろは! この服はもういいの?」
お母さんはリボンの付いたフリルのワンピースを持ってアタシにそう言った。
「んー。いいや! それより、今はこっちの服がいい!」
そう言ってアタシは今着ているトレンドの服を見せびらかす。
「昔はこっちの方がかわいいって言っていたのにね。いろはも大人になったってことなのかしら? 白雪姫になりたいって言っていたころのいろはが懐かしいわね」
「はあ!? もう、いつの話してんの? 白雪姫なんて!」
「あはは! ごめんね。じゃあこの服はもう捨てるわよ?」
「OK!」
それから部屋を出ようとしたお母さんは、何かを言い残したことに気が付いたのか扉の前で振り返ると、
「あ、そうそう! 午後からちょっと出かけてくるわね!」
笑顔でそう言った。
「えー。また剣道の試合観に行くの? 何がそんなに面白いんだか」
「いいの! 今は応援したい子がいるんだから!」
応援したいって……アイドルじゃあるまいし。
「あー、はいはい。わかった」
アタシはため息交じりにお母さんへそう返した。
「いろはも行かない?」
「行かないよ!」
アタシがそう言うと、お母さんはがっかりした表情をしながら、
「あら、残念……。じゃあとりあえずこの洋服は処分しておくわね」
そう言って部屋を出て行った。
お母さんはお友達とジュニアの剣道大会へ行ってから、お気に入りの選手がいるみたいで今はその子にお熱なんだそう。
名前は、確か……なんだったかな。忘れちゃった。
でもお母さんが夢中になるくらいの選手ってどんな子なんだろうな。
まあアタシが気にしたところで、一生関わりなんて持つことのない子なんだろうけど。
そんなことを思いつつ、アタシはソファに寝転がる。
そしてさっきの会話の中に出てきた『白雪姫』という言葉を思い出した。
「白雪姫になりたい……か」
アタシは可愛くなりたかったんだろうな。かわいい服をたくさん来て、それで毎日を楽しく過ごして。そして白馬の王子様と出会いたい。
そう思って、白雪姫になりたいって思ったんだろうね。
「そうなれるのなら、そうなりたいけど。でもきっと無理なんだろうな……それに白馬の王子様なんて」
それからアタシは身体を起こして、目に入った本棚に置いてある『白雪姫』の絵本を手に取り、なんとなく開いてみる。
「今更読んだって、もう……」
そして気が付くと、アタシは夢中でその世界に入り込んでいた。
「ここにはたくさんのキラキラとドキドキが詰まってる……やっぱりアタシは、白雪姫がいいな」
でもアタシってキュートなお姫様って感じでもないんだよね。
「うーん。……あ、そっか!」
フリルやリボンはさすがにもうはずいから、この絵本の白雪姫みたいなかわいいじゃなくても、アタシが思うかわいいでいいんじゃない?
そう思ったアタシは、机に置いてあった人気ファッション雑誌を開く。
「アタシはこれでいく!」
それからアタシは、最近気になり始めていたギャルファッションに少しずつだけど手を出し始めた。
そしてそれからの毎日はとても楽しかった。好きな服を着て、好きなところへ行って。さすがに王子さまはまだ現れていないけど、時間の問題なんじゃないかってアタシはそう思ってた。
「毎日が輝いていてアタシ、今すごく幸せだよ!」
当時のアタシはそれが口癖だったと思う。
そしてこれからもずっとこんなキラキラドキドキした楽しい日々が続くんだってこの時のアタシはそう思っていたんだ。
でもそれから1年後。中学1年生になったアタシは『白雪姫症候群』が目覚めた。
何の前触れもなく、突然に……。
「いろはちゃん、何読んでるの?」
そう言ってまゆおはいろはが読んでいる絵本を覗き込む。
「白雪姫。ずっとアタシの憧れなんだ!」
「へえ。そうなんだ! すごく素敵だね!」
まゆおはそう言いながら笑顔で答えた。
「まゆおは子供っぽいって、馬鹿にしないんだね」
いろはがそう言うと、まゆおはそのままの笑顔で答える。
「だっていろはちゃんが憧れている存在だよ? 馬鹿にするわけないよ! それに『白雪姫』は今のいろはちゃんのルーツになっているわけだから、僕も少し気になるかな!」
それを聞いたいろはは目を輝かせながら、
「よーし。じゃあ、アタシが白雪姫の良さを一から十まで、まゆおに叩き込んであげるよ!!」
楽しそうにまゆおに告げた。
「ふふふ。お手柔らかにお願いします!」
そう言って、二人は笑いあった。
この先は白雪姫に憧れた少女が、白雪姫症候群と言われる力に翻弄される物語。
おきさきはまほうのかがみをもっていて、まいにちのようにかがみにといかけます。
「かがみよかがみ。せかいでいちばんうつくしいのはだれだい?」
おきさきはかがみがいつものように「あなたがいちばんうつくしいです」とこたえるのをまちました。
しかしかがみは、
「はい、それはしらゆきひめです」
とこたえたのでした。
鏡の言葉にひどく腹を立てたお妃は猟師に白雪姫を殺すように命じる。
そして命の危機を感じた白雪姫はお妃と暮らしていた城を出て、迷い込んだ森の中で小人たちと出会った。
それから白雪姫は小人たちと楽しく暮らしていたけれど、突然やってきた老婆に扮したお妃から渡された毒リンゴを食べて、永遠の眠りについてしまう。
毒リンゴを食べて眠りについた白雪姫の元に現れたのは、白馬に乗った王子様だった。
そしてその王子のキスで白雪姫は目を覚ます。
それから白雪姫はその王子様と結婚して、ハッピーエンド。
これは世界で一番綺麗で、優しくて幸せなお姫様の物語。
とある病室。ベッドから身体を起こして絵本を広げる幼いいろはといろはの母の姿があった。
幼いいろはが持っているのは『白雪姫』の絵本。
いろははその絵本を見ながら、
「お母さん、アタシも白雪姫になれるかな」
隣にいる母にそう言った。
「ええ。いろはならきっとね」
母はそう言って優しく微笑んだ。
病気で入院しているときに初めて『白雪姫』の絵本を読んでから、アタシはずっと白雪姫に憧れていた。
世界で一番の美しさは無理だとしても、そこそこにかわいい女の子にはアタシにだってなれるって思っていたし、それにアタシは白雪姫に負けないくらい幸せな自信があった。
アタシの家はお金持ちだし、お父さんからもお母さんからも愛されていることを知っていたから。
そう思っていたけれど、結局『白雪姫』になれないままだった。
そもそも『白雪姫』になるって何なんだろう。
アタシはそんなことを考えるようになっていた。
「いろは! この服はもういいの?」
お母さんはリボンの付いたフリルのワンピースを持ってアタシにそう言った。
「んー。いいや! それより、今はこっちの服がいい!」
そう言ってアタシは今着ているトレンドの服を見せびらかす。
「昔はこっちの方がかわいいって言っていたのにね。いろはも大人になったってことなのかしら? 白雪姫になりたいって言っていたころのいろはが懐かしいわね」
「はあ!? もう、いつの話してんの? 白雪姫なんて!」
「あはは! ごめんね。じゃあこの服はもう捨てるわよ?」
「OK!」
それから部屋を出ようとしたお母さんは、何かを言い残したことに気が付いたのか扉の前で振り返ると、
「あ、そうそう! 午後からちょっと出かけてくるわね!」
笑顔でそう言った。
「えー。また剣道の試合観に行くの? 何がそんなに面白いんだか」
「いいの! 今は応援したい子がいるんだから!」
応援したいって……アイドルじゃあるまいし。
「あー、はいはい。わかった」
アタシはため息交じりにお母さんへそう返した。
「いろはも行かない?」
「行かないよ!」
アタシがそう言うと、お母さんはがっかりした表情をしながら、
「あら、残念……。じゃあとりあえずこの洋服は処分しておくわね」
そう言って部屋を出て行った。
お母さんはお友達とジュニアの剣道大会へ行ってから、お気に入りの選手がいるみたいで今はその子にお熱なんだそう。
名前は、確か……なんだったかな。忘れちゃった。
でもお母さんが夢中になるくらいの選手ってどんな子なんだろうな。
まあアタシが気にしたところで、一生関わりなんて持つことのない子なんだろうけど。
そんなことを思いつつ、アタシはソファに寝転がる。
そしてさっきの会話の中に出てきた『白雪姫』という言葉を思い出した。
「白雪姫になりたい……か」
アタシは可愛くなりたかったんだろうな。かわいい服をたくさん来て、それで毎日を楽しく過ごして。そして白馬の王子様と出会いたい。
そう思って、白雪姫になりたいって思ったんだろうね。
「そうなれるのなら、そうなりたいけど。でもきっと無理なんだろうな……それに白馬の王子様なんて」
それからアタシは身体を起こして、目に入った本棚に置いてある『白雪姫』の絵本を手に取り、なんとなく開いてみる。
「今更読んだって、もう……」
そして気が付くと、アタシは夢中でその世界に入り込んでいた。
「ここにはたくさんのキラキラとドキドキが詰まってる……やっぱりアタシは、白雪姫がいいな」
でもアタシってキュートなお姫様って感じでもないんだよね。
「うーん。……あ、そっか!」
フリルやリボンはさすがにもうはずいから、この絵本の白雪姫みたいなかわいいじゃなくても、アタシが思うかわいいでいいんじゃない?
そう思ったアタシは、机に置いてあった人気ファッション雑誌を開く。
「アタシはこれでいく!」
それからアタシは、最近気になり始めていたギャルファッションに少しずつだけど手を出し始めた。
そしてそれからの毎日はとても楽しかった。好きな服を着て、好きなところへ行って。さすがに王子さまはまだ現れていないけど、時間の問題なんじゃないかってアタシはそう思ってた。
「毎日が輝いていてアタシ、今すごく幸せだよ!」
当時のアタシはそれが口癖だったと思う。
そしてこれからもずっとこんなキラキラドキドキした楽しい日々が続くんだってこの時のアタシはそう思っていたんだ。
でもそれから1年後。中学1年生になったアタシは『白雪姫症候群』が目覚めた。
何の前触れもなく、突然に……。
「いろはちゃん、何読んでるの?」
そう言ってまゆおはいろはが読んでいる絵本を覗き込む。
「白雪姫。ずっとアタシの憧れなんだ!」
「へえ。そうなんだ! すごく素敵だね!」
まゆおはそう言いながら笑顔で答えた。
「まゆおは子供っぽいって、馬鹿にしないんだね」
いろはがそう言うと、まゆおはそのままの笑顔で答える。
「だっていろはちゃんが憧れている存在だよ? 馬鹿にするわけないよ! それに『白雪姫』は今のいろはちゃんのルーツになっているわけだから、僕も少し気になるかな!」
それを聞いたいろはは目を輝かせながら、
「よーし。じゃあ、アタシが白雪姫の良さを一から十まで、まゆおに叩き込んであげるよ!!」
楽しそうにまゆおに告げた。
「ふふふ。お手柔らかにお願いします!」
そう言って、二人は笑いあった。
この先は白雪姫に憧れた少女が、白雪姫症候群と言われる力に翻弄される物語。
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