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第3章 毒リンゴとお姫様
第19話ー④ 平穏な日々
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祭りを終え、会場は片づけが進んでいた。
「今日はありがとうございました!」
俺はそういってお祭りスタッフたちにお礼を言って回りながら、その撤去作業を手伝った。
お祭りの企画がこんなに大変だなんて正直驚いたが、でも生徒たちの笑顔を見られたと思うとこの苦労も幸せな時間だったのかなと俺は思った。
そして屋台の片づけが済んだ後、俺は花火の後処理をする。
「えっと、とりあえずバケツの水を捨てて……それから……」
すると、そこへキリヤがやってくる。
「先生! 僕も手伝うよ!!」
「助かる! ありがとな!」
それから花火をゴミ袋に移し、俺たちはエントランスゲート近くにあるゴミ置き場に向かった。
「キリヤ、今日は楽しかったか?」
俺は歩きながら、隣にいるキリヤに尋ねた。
「うん! すごく楽しかった! ありがとう、先生!!」
俺の問いにキリヤはそう言って笑顔で答えた。その笑顔からこの祭りを心から楽しんだということが分かった。
「そうか、よかった」
俺がそう言って笑うとキリヤは急に悲しそうな顔になり、
「手持ち花火は本当のお父さんとの大切な思い出があったんだ」
そう告げた。
本当のお父さん……って再婚前の父親のこと、だよな。キリヤがこんなに悲しそうにするなんて一体どんな思い出があるんだろう。
「なあキリヤ。それがどんな思い出だったのか、聞いてもいいか?」
俺のその問いに、キリヤは「うん」と小さな声で答えて言葉を続けた。
僕がまだ5歳の夏、お父さんははじめて僕に花火を買ってきた。
「キリヤ、今夜はお父さんと花火をしよう! ほら! たくさん買ってきたぞ!」
「わああ! すごく楽しみ!」
今まで手持ち花火をやったことのない僕はとても嬉しく思ったのだった。
そしてその日の晩。僕とお父さんは家の庭に蝋燭を用意して、お父さんが買ってきた手持ち花火を広げた。
「どれにしようかなー」
僕がそう言って困っていると、お父さんは広がっている花火の中から適当に一本手に取って、笑いながら僕に手渡した。
「まずはこれにしよう」
「うん!」
僕はそう言って笑いながらその花火を受けとった。
お父さんは花火を持った僕の後ろに立ち、花火を持つ僕の手に自分の手を添えながら花火に蝋燭の火をつける。
それからその花火が突然シューッと言う音を上げ、色のついた火が噴き出したことに僕は驚いた。
「ひぃ!」
思わずその手を離しそうになる僕に、お父さんは優しい声で「大丈夫だ」と言って笑いかけてくれた。
そのお父さんの笑顔を見た僕はほっとして花火をしっかりと握った。
はじめてやった手持ち花火は少し怖かったけど、とても綺麗だった。
それから残りの花火も二人で楽しんだのだった。
「お父さん、ありがとう! またやろうね!!」
「おう!! 来年は、マリアとも一緒にやろうな!」
「うん!」
しかし、その約束が果たされることはなかった。
その年の冬。大雪の日にお父さんは交通事故で命を落としたからだ。
病院の安置室で動かなくなったお父さんを静かに見つめながら、
「約束したのに……どうして、お父さん……」
僕はそう呟いた。
そして僕はお父さんとの思い出を忘れないようにその夏以降、手持ち花火をすることはなくなった。
キリヤは話しながら昔のことを思い出しているのか、さみしそうな表情で夜空を眺めていた。
「手持ち花火はキリヤにとって、お父さんとのかけがえのない大切な思い出だったんだな」
「うん」
そしてキリヤは俺の問いに笑顔で答える。
「でもよかったのか? 忘れたくない思い出だったから、今まで手持ち花火をやらないでいたんだろ?」
「そう。でもね、もういいんだ。……お父さんとの思い出はずっと僕の中にあるから。この思い出は、きっと消えない。そう思ったから、僕はまた花火がやりたくなった。それに今度は先生たちと忘れられない思い出を作りたかったから」
そう言って、俺に微笑みかけるキリヤ。
キリヤのその笑顔は、自分は悲しい過去を乗り越えたということを教えてくれているようだった。
それは喜ばしいことのはずなのに、なぜか俺は少しもやっとする。
「キリヤはちゃんと前に進んでいるんだな」
そう言いながら、俺は俯いた。
「先生が僕をそうさせているんだからね。先生がいつも近くにいてくれて、僕の背中を押してくれている。だからありがとう、先生」
そう言って、俺の顔を覗き込むキリヤ。
「俺は……」
俺は俯いたままでキリヤの顔を見ることができなかった。
キリヤは過去を乗り越えて前へ進んでいるけれど、俺はまだ……。
――そうか。キリヤの笑顔にもやっとしたのはそう言うことだったのか。
それから俺は今も眠り続けている剛のことを思い出した。
剛のことはあの時に割り切ったつもりでいたけれど、俺の中ではまだ解決していないみたいだ。俺があの時、気が付いていれば……今でもそう思ってしまう。
しかし生徒たちの前では、俺が落ち込む姿は見せられない。生徒たちにもう心配はかけられないし、それに俺は生徒を救う立場だから。
でも俺はあの時から、自信を無くしてしまっている。
俺も前に進みたい。生徒たちのために変わりたいんだ。
でも俺はどうしたらいいのか、それがわからないままだった。
――俺はずっとこのままなのか?
そして俺たちは無言のまま片づけを終え、建物の中へと戻っていった。
「今日はありがとうございました!」
俺はそういってお祭りスタッフたちにお礼を言って回りながら、その撤去作業を手伝った。
お祭りの企画がこんなに大変だなんて正直驚いたが、でも生徒たちの笑顔を見られたと思うとこの苦労も幸せな時間だったのかなと俺は思った。
そして屋台の片づけが済んだ後、俺は花火の後処理をする。
「えっと、とりあえずバケツの水を捨てて……それから……」
すると、そこへキリヤがやってくる。
「先生! 僕も手伝うよ!!」
「助かる! ありがとな!」
それから花火をゴミ袋に移し、俺たちはエントランスゲート近くにあるゴミ置き場に向かった。
「キリヤ、今日は楽しかったか?」
俺は歩きながら、隣にいるキリヤに尋ねた。
「うん! すごく楽しかった! ありがとう、先生!!」
俺の問いにキリヤはそう言って笑顔で答えた。その笑顔からこの祭りを心から楽しんだということが分かった。
「そうか、よかった」
俺がそう言って笑うとキリヤは急に悲しそうな顔になり、
「手持ち花火は本当のお父さんとの大切な思い出があったんだ」
そう告げた。
本当のお父さん……って再婚前の父親のこと、だよな。キリヤがこんなに悲しそうにするなんて一体どんな思い出があるんだろう。
「なあキリヤ。それがどんな思い出だったのか、聞いてもいいか?」
俺のその問いに、キリヤは「うん」と小さな声で答えて言葉を続けた。
僕がまだ5歳の夏、お父さんははじめて僕に花火を買ってきた。
「キリヤ、今夜はお父さんと花火をしよう! ほら! たくさん買ってきたぞ!」
「わああ! すごく楽しみ!」
今まで手持ち花火をやったことのない僕はとても嬉しく思ったのだった。
そしてその日の晩。僕とお父さんは家の庭に蝋燭を用意して、お父さんが買ってきた手持ち花火を広げた。
「どれにしようかなー」
僕がそう言って困っていると、お父さんは広がっている花火の中から適当に一本手に取って、笑いながら僕に手渡した。
「まずはこれにしよう」
「うん!」
僕はそう言って笑いながらその花火を受けとった。
お父さんは花火を持った僕の後ろに立ち、花火を持つ僕の手に自分の手を添えながら花火に蝋燭の火をつける。
それからその花火が突然シューッと言う音を上げ、色のついた火が噴き出したことに僕は驚いた。
「ひぃ!」
思わずその手を離しそうになる僕に、お父さんは優しい声で「大丈夫だ」と言って笑いかけてくれた。
そのお父さんの笑顔を見た僕はほっとして花火をしっかりと握った。
はじめてやった手持ち花火は少し怖かったけど、とても綺麗だった。
それから残りの花火も二人で楽しんだのだった。
「お父さん、ありがとう! またやろうね!!」
「おう!! 来年は、マリアとも一緒にやろうな!」
「うん!」
しかし、その約束が果たされることはなかった。
その年の冬。大雪の日にお父さんは交通事故で命を落としたからだ。
病院の安置室で動かなくなったお父さんを静かに見つめながら、
「約束したのに……どうして、お父さん……」
僕はそう呟いた。
そして僕はお父さんとの思い出を忘れないようにその夏以降、手持ち花火をすることはなくなった。
キリヤは話しながら昔のことを思い出しているのか、さみしそうな表情で夜空を眺めていた。
「手持ち花火はキリヤにとって、お父さんとのかけがえのない大切な思い出だったんだな」
「うん」
そしてキリヤは俺の問いに笑顔で答える。
「でもよかったのか? 忘れたくない思い出だったから、今まで手持ち花火をやらないでいたんだろ?」
「そう。でもね、もういいんだ。……お父さんとの思い出はずっと僕の中にあるから。この思い出は、きっと消えない。そう思ったから、僕はまた花火がやりたくなった。それに今度は先生たちと忘れられない思い出を作りたかったから」
そう言って、俺に微笑みかけるキリヤ。
キリヤのその笑顔は、自分は悲しい過去を乗り越えたということを教えてくれているようだった。
それは喜ばしいことのはずなのに、なぜか俺は少しもやっとする。
「キリヤはちゃんと前に進んでいるんだな」
そう言いながら、俺は俯いた。
「先生が僕をそうさせているんだからね。先生がいつも近くにいてくれて、僕の背中を押してくれている。だからありがとう、先生」
そう言って、俺の顔を覗き込むキリヤ。
「俺は……」
俺は俯いたままでキリヤの顔を見ることができなかった。
キリヤは過去を乗り越えて前へ進んでいるけれど、俺はまだ……。
――そうか。キリヤの笑顔にもやっとしたのはそう言うことだったのか。
それから俺は今も眠り続けている剛のことを思い出した。
剛のことはあの時に割り切ったつもりでいたけれど、俺の中ではまだ解決していないみたいだ。俺があの時、気が付いていれば……今でもそう思ってしまう。
しかし生徒たちの前では、俺が落ち込む姿は見せられない。生徒たちにもう心配はかけられないし、それに俺は生徒を救う立場だから。
でも俺はあの時から、自信を無くしてしまっている。
俺も前に進みたい。生徒たちのために変わりたいんだ。
でも俺はどうしたらいいのか、それがわからないままだった。
――俺はずっとこのままなのか?
そして俺たちは無言のまま片づけを終え、建物の中へと戻っていった。
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