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第3章 毒リンゴとお姫様

第21話ー⑤ 眠り姫を起こすのは王子様のキス

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 翌日、いつも通りの日常が始まった。

 僕はいつも通り授業を受けつつも、なんとなく『ポイズン・アップル』のことが気がかりだった。

「はあ」

 そしてつい大きなため息をつく。

「キリヤ、どうした?」

 そんな僕を心配したのか先生がそう言った。

「あ、いや……ちょっと難しい問題に躓いて! あはは」
「そうか? 俺がわかりそうな問題なら手伝うが……」
「大丈夫、大丈夫! もうわかったから!!」
「あ、ああ。そうだったら、いいけど」

 そう言って先生は視線を他に移した。

 危ない、危ない。いつも通りでいなくちゃ。先生には心配を掛けられないんだから。

 そして僕はタブレットに向かう。

 その後、無事にノルマを終えた僕は教室を出た。

 すると、教室の外で優香が待っていた。

「ちょっといい? 話があるんだけど?」
「え? う、うん」

 そして僕は優香に連れられて、屋上へ向かった。

「優香。話って何?」
「速水さんに何かあった? 最近、こそこそと何か調べているみたいだけど」

 優香ならいつか気が付いて、訊ねてくるとは思っていた。

 でもこのことは所長たちに他言無用と言われているため、いくら優香でも話すことはできない。

「な、何のことかな……」
「しらばっくれるつもり?」
「だから何のことかわからないんだって」

 こんな言い方で優香から逃れられるとは思っていないけど、でも今は話せないんだ。

「そう。黙っているつもりなんだ」
「……ごめん」
「なんで謝るの? 何のことかわからないんじゃなかった?」
「あ……」
「それで、何があったの?」
「今は話せないんだ。だから、ごめん……」
「ふーん」

 そして突然、ポケットのスマホから着信音が鳴る。

 こんな状況にも関わらず、僕はついその方へ目を向けてしまう。

「出ないの?」
「あ、うん……」

 スマホを取り出し、画面をタップすると『着信 所長』の文字が表示されていた。

 こんな時に所長から!?

「私のことは気にせず、電話に出ていいよ?」
「え、えっと……」

 僕が焦りから目を泳がせていると優香はそんな僕からスマホを奪い、画面を勝手にタップして応答する。


『もしもしキリヤ君かい? 『ポイズン・アップル』の件でまた新たな情報を入手したんだ。また研究所に来たとき、見に来てくれ。きっといろは君を救う手掛かりになるはずだ!』

「その話、もっと詳しく聞かせてもらってもいいですか? 所長さん?」

『!? その声は……優香君か!? なんで君がキリヤ君のスマホに!?』

「事情はあとからお話しますので。さあ、教えてください」


 僕は優香のその強引さには正直とても驚いた。でも大人にも臆さず、堂々と会話をする姿には感心した。


「なるほど。そういうことでしたか。では、私も協力させていただけませんか? 私の頭脳もきっと役に立てるかと。それに体力にも自信はありますから、いざというときに活躍できると思いますよ」

『そうだね。君は暁君の誘拐事件の時にかなり活躍をしていたそうだし、心配はなさそうだ』

「そう言っていただけて、嬉しいです」

『ああ、これからよろしく頼むよ。じゃあキリヤ君に変わってくれるかい?』


 そして優香は僕にスマホを差し出す。

「所長さんが話したいって」
「いや。これ、僕のスマホなんだけど……」

 そして僕は電話に出る。

「もしもし所長。キリヤです。ごめんなさい。優香が勝手に……」
『いや、構わないさ。でも無理はしないようにね。暁君が心配するから』
「はい!」

 それから所長はさっき優香にも話したであろう内容を僕に話してくれた。

 そして会話を終え、僕は電話を切る。

「優香、これは危ないことだってわかっているよね? それなのに、なんで?」

 僕は少しきつめの口調で優香に告げる。もちろん彼女のことが心配だからだ。

「だってキリヤ君が困っているのに、何にもできないのは嫌だから。それにキリヤ君に何かあったら、私のことを好きでいてくれる人がいなくなっちゃうでしょ。私、また一人になるのは嫌だもの」

 そう言って俯く優香。

 そうか。優香は優香なりの思いがあったんだな。

「優香はそう思ってくれていたんだね。ありがとう。……でも無理だけはしないでよ」
「キリヤ君もそれは一緒だよ」

 そう言って、優香は微笑んだ。
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