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第4章 過去・今・未来

第27話ー③ 過去からの来訪者

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 会議室に入った俺たちは、白銀さんに言われるがまま椅子に腰かける。

 それから白銀さんが話す様子はなく、窓の外を静かに眺めているだけだった。

 しびれを切らした俺は、白銀さんに問う。

「あの、能力のことで話があるっていうのは……?」
「すまないね。それは君たちを呼び出すための口実だったのさ」
「口実……?」

 そして白銀さんは俺たちの方を向いて、不敵な笑みを浮かべる。

「今、施設がどうなっているか、知っているかい?」
「どうなっているか……?」

 白銀さんの言葉を聞いたキリヤは、施設にいる誰かに連絡を取ろうとしていた。

「電話が繋がらない……」
「何だって!?」

 俺も施設にいるまゆおに電話を掛けるが、圏外で電波が届かないことがアナウンスされる。

「白銀さん! これはどういうことですか!!」
「さあてね。……君たちはこれから、どうする?」

 白銀さんは試すように俺にそう問いかける。

 どうしたらいい。施設とは連絡が取れない。

 施設は今、どんなことになっているんだ……

 俺が頭を抱えているとキリヤは俺の前にやってきて、

「先生。施設の様子を見る手段が一つだけある」

 真剣な表情でそう告げた。


「その方法って?」

「僕の複合能力さ」

「複合能力……。キリヤ、お前も」

「うん。黙っててごめん。あとで詳しく説明するから、今は見ていて」


 そう言って、キリヤはカバンの中から一つの種を取り出した。

 そしてその種を握り、額に当てる。

「施設が今、どうなっているのかを教えて」

 そう呟くキリヤ。

「これがキリヤの複合能力……」
「そうさ。これがキリヤ君の複合能力で『植物』だよ。植物の力を借りて、いろんなことができるんだそうだ。どんなことができるかは、彼のみぞ知るって感じだけどね」
「植物か……」

 とてもキリヤらしい能力だと俺は思った。

 だから最近、植物の管理がいっそう厳しくなったんだな。そういえば少し水やりを忘れるとすぐにばれていたっけ……。もしかしたら俺の部屋にいる植物たちの叫び声が聞こえていたのかもしれないな。

 そんなことを思っているとキリヤは植物との会話を終え、真っ青な顔になっていた。

「どうしたんだ、顔色が悪いぞ?」
「先生、大変だ! 施設が不審な大人たちに襲撃されてる! しかも優香が捕まったって……他の生徒たちは無事みたいだけど」
「なんだって!! 優香が!?」



 教室。優香は縄で縛られて横たわっていた。

 優香の意識は少し前に戻っていたが、目を覚ましたことが不審な男たちにばれないよう優香は目を閉じたまま意識を失ったふりをしていた。


「ターゲットは見つけたみたいだけど、逃げられたってよ。なんか剣術を使うガキにやられたとか」

「はあ? ガキ相手に何を手間取ってんだよ。早くしないと逃げ切れねえってのに!」

「まあ時間の問題さ。今はやべえ教師もいないみてえだし、今のうちに終わらせてずらかるのが安パイだな」

「そうだな。まあいざとなれば、この女を使っておどせばいいさ。そのための人質だろ?」

「ああ、そうだな」


 男たちの会話を静かに聞く優香。

 話し声の感じから、この場所にいるのは見張りの二人だけ。あの能力者の少年はここにはいないようだった。

 さて、ここからどうしたものかと考えを巡らせる優香。

 キリヤ君や先生がいないのは偶然なのか、それとも仕組まれた罠なのか。

 優香はそんなことを思いつつ、反撃のチャンスを待っていた。



 結衣達を逃がしたまゆおは、一人で大人たちと応戦していた。

「このガキ、なかなかやるな……。おい! あれを使うぞ!」
「あれ……?」

 そして大人たちの後ろから、一人に少年が出てきた。

「やれ! あいつをぶっ殺せ!!」

 少年は頷き、まゆおを見つめる。

「何をするつもり?」

 少年を見つめて、息を飲むまゆお。

 そして少年は両手を前に出し、その手のひらから電撃を繰り出す。

 その電撃はまっすぐまゆおに向かって行った。

「!?」

 まゆおは間一髪でその電撃を交わした。

「これは……」

 無表情のまま、少年は再び両手を前に出す。

「もしかして、またあの電撃を!?」
「次は手加減しない……」

 そして両手に電気を溜める少年。

「さすがに今度はよけきれないかもしれないな……」

 まゆおは緊張で竹刀を握る手に力が入る。

 技を使っても、威力を半減させるくらいしかできないだろう。まともに当たれば、僕もただじゃすまないだろうな……

 そんなことを思うまゆお。

 そしていろはの顔がまゆおの頭をよぎる。

「そうだよ。僕はみんなを守るって誓ったんだ! ここで負けるわけにはいかない!」

 そう言ってまゆおは両足をしっかりと地に着けて、竹刀を構える。

「じゃあさようなら、お兄さん」

 少年は電撃をまゆおに向かって放とうとした瞬間、足元がぐらついて転倒した。

 そして少年の両手に溜まっていた電気は窓の方へ飛んでいき、窓ガラスが割れた。

「え!? 何が起こったの?」

 そう言って驚くまゆおの後ろから足音がした。

 まゆおが振り向くと、そこには真一の姿があった。

「騒がしいと思ってきてみたら、これはどういうこと?」
「真一君……?」

 ぽかんとするまゆお。

 なぜ、彼がこんなところに……。

 まゆおはそんな疑問を抱いていた。

「ねえ? だから今、どういう状況なのかって聞いているんだけど? スマホの充電ができなくて困っているんだけど」

 それを聞いたまゆおは、あきれながら笑う。

「あはは。なるほど、そういうことね」

 二人がそんなやり取りをしていると、転んだ少年が立ち上がる。

「理由はよくわからないけど、あの人たちはシロちゃんを狙っているみたいなんだ」
「へえ。じゃあさっさと渡せばいいじゃないか。そうしたら、この問題は解決するんでしょ?」

 淡々と答える真一。

「な、何言ってるの!! シロちゃんは大切な仲間でしょ!? 仲間を売るなんてできるわけない!!」

 そんな真一にまゆおは声を荒げて怒る。


「はあ。また始まったよ。仲間とかそんな薄っぺらい言葉をよく言えるよね」

「君はまたそんなことを!」

「そうでしょ? 誰だって他人のことより自分の方が大切だって思っている。大切な仲間だとか言っていたくせにどうせ何かあれば、簡単に裏切るんだ」

「そんなことは!!」

「だったら誰かと依存し合うより、一人がいいに決まってる。人はいつか一人になるんだからさ」

「それでも、僕は……」


 二人が口論していると、電撃少年は電気を両手に溜めていた。

「今度は、失敗しないから」

 少年を見た真一は少し冷静になって、まゆおに告げる。

「……まゆお。今は言い争っている場合じゃないみたいだ」
「そう、みたいだね」

 まゆおは真一の顔を見る。

「真一君、続きはこの人たちを片付けたらにしよう」
「それだけは同感だね」

 そして構える、まゆおと真一だった。
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