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第4章 過去・今・未来
第29話ー③ 風は吹いている
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まゆおとの共同スペースの片づけを終えた僕は、自室に戻るとそのままのベッドに寝転んだ。
そしてポケットに入っていた音楽プレイヤーを取り出して電源を入れ、ベッドに転がっていたワイヤレスのヘッドホンを頭につけてから再生ボタンを押した。
しばらくすると、そのヘッドホンから音楽が流れ始める。
「結局、片付けをしていたから『Bright Red Flame』をテレビで観られなかったな……」
そんなことを呟きつつ、僕は流れてくるその音に耳を傾ける。
――運命なんて握り潰す。俺は俺の道を行くだけだ!
その歌からはボーカルの強い想いを感じていた。
『自分の運命に抗い、そして新たな運命を切り開いていく』
そんなメッセージの込められたその曲は、聴くたびに僕の心に火をつけてくれる。
「僕もこんな自分の運命を認めない。抗って、握り潰して――己の道を突き進んでやる」
そんな決意を新たにする夜だった。
――13年前。幼い僕と僕の両親を乗せた車は大事故を引き起こした。
それは随分ひどい事故だったようでその時に両親だけではなく、僕たちとは無関係の会社員の男性も犠牲になり、なぜか僕だけは奇跡的に助かったのだった。
「こんな大事故を引き起こすなんて、私達にもとんだとばっちりだ。なんて迷惑なことを……」
誰が最初にそう言い出したのかは僕にはわからないけれど、生き残った僕のことを親戚たちはあまりよく思っていなかったらしい。
大事故を引き起こした両親の子供である僕のことを、親戚たちは目の上のしてたんこぶとして扱い、僕は親戚の家をたらい回しにされていた。
物心がついたとき、僕は人生はこういう運命なんだと自然と受け入れていた。
それからも僕は親戚の家を転々としながら暮らし、
『疫病神』『加害者の子供』『お前も一緒に死んでいればよかったのに』
そんな言葉たちを行く先々で浴びせられていた。
そして学校でも『死神の子』と言われて、クラスメイトからは煙たがられるようになっていた。
僕には何も言う資格はない。だってどれも間違ってはいないから……。
僕は親戚たちやクラスメイトから何を言われてもそう思い、無意識に群れることを避けていた。そのせいもあって、僕はいつも独りぼっちだった。
それから数年が経ち、僕はいつしか孤独を感じるようになった。
『僕はずっと独りぼっちなの……? そんなのは嫌だよ』
僕は部屋の端っこで膝を抱えて、俯きながらそう言っていた。
でも誰も僕のことを受け入れてくれないし、信じようともしてくれない。だから僕も周りを信じることができなくて、結局僕は孤独のままだった。
それからまた僕は親戚の家を追い出され、今度は一人暮らしをしている叔父の家に預けられることになった。
叔父はミュージシャンを目指しており、バイトやライブ活動などでほとんど家にいなかった。そのため僕を悪く言うこともなく、黙って寝泊まりさせてくれた。
そして僕はここで音楽と運命的な出会いを果たす。
それは僕が叔父の家で暮らし始めて、1か月が経ったときのことだった。
「音楽はいいぞ。己を奮い立たせ、そして心を熱くしてくれる。だから真一も聞いてみろ」
叔父はそうい言いながら僕にお古の音楽プレイヤーとイヤホンをくれた。
叔父にとって深い意味なんてなかったと思う。ただ自分の好きな音楽を僕と共有したかったくらいに違いない。
例えそうだったとしても、僕にとってはそれがとても嬉しかった。
だってそれは僕が人からもらった初めてのプレゼントだったから――。
それから僕は一人の時、叔父からもらった音楽プレイヤーでずっと音楽を聴いていた。
周りが僕のことを受け入れてくれない現状は変わらなかったけれど、音楽を聴いていると顔も知らない歌手に僕のことを受け入れてもらえているように感じていた。
「音楽があれば、僕はもう孤独じゃない。それに今は叔父さんだっていてくれる。音楽が僕を孤独から救ってくれたんだ」
僕は音楽と出会い、今までで一番の幸せを感じながら過ごしていた。
しかし、それから数か月が経った頃に突然悲劇は起こった。
僕はいつものように音楽を聴きながら、一人で叔父の帰りを待っていた。
ふと時計に目をやると、日付が変わる寸前だという事に気が付く。
いつもならもう家にいる時間なのに……。バイト先で何かあったのかな。
僕はいつもより帰りが遅い叔父に疑問を抱いていた。
つけていたイヤホンを耳から外すと、窓に何か打ち付けるような音が聞こえた。気になった僕は窓の外を見てみると、外ではかなり強い雨が降っていることを知る。
「叔父さん、大丈夫かな。こんな雨の中だと、バイクは大変だよね」
そして僕は高確率で濡れて帰ってくると予想される叔父のために、お風呂を沸かして待つことにした。
それから数分後、玄関から扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
僕がその扉を開けると、そこには深刻な表情で立つ警察官の姿があった。
「風谷さんのお子さんですか?」
「一応そうですけど……。あの、何か?」
「実は……」
そして僕はその警察官から叔父がバイクで事故にあったことを聞かされた。
叔父は意識不明の重体で、今の医療技術ではもうどうすることもできない状態なんだとか。
警察官の話を聞き終えた僕はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くした。それから何かを言われた気がしたけれど、全く内容が入ってこなかった。
まさかそんなこと……何かの冗談だよね?
僕はそんなことを思いつつ、その警察官に連れられて叔父が運ばれた病院へと向かった。
そしてICUのベッドで横たわる叔父の姿を見た。身体中が傷だらけで、息もほとんど聞こえない。
「そんな……なんでこんなことに」
もう蘇生の見込みがない叔父は、患者の最期を看取るための個室に移されることになった。それから数分後に警察から連絡を受けた親戚の人たちが何人か病院へやってきた。
「ミュージシャンなんてつまらないものを目指すからよ。ざまあないわね」
「すねかじりが一人減ったんだ。よかったな」
やってきた親戚の人たちは誰も叔父さんに悲しみの言葉を掛けることはなく、代わりにそんな蔑みや喜びの感情がこもった言葉を掛けていた。
僕はこの時、親戚たちの心の汚さを知った。
叔父の命は今ここで終えようとしているのに、なぜこいつらはそんな言葉しか掛けられないのか。僕はこんな汚い人間に頼って生きるくらいなら、一人で生きていく方がいい。
少しでも血を分けていたとしても、こんな奴らを絶対に信じちゃいけない。
こいつらは僕が死んだときも同じように悲しむどころか、蔑みや喜びのをかけるだろう。
「許さない……。そうやってずっと僕の両親のことも」
そんなことを呟きながら、僕はその場にいる親戚たちに強い憎悪を抱いたのだった。
それから叔父さんの葬儀を終えた僕は親戚たちの家にはいかず、養護施設に入った。
「あんな汚い心を持つ奴らの力になんて頼るもんか。僕は僕の力だけでも生きていけることを証明してやる」
そして親戚たちへの強い憎悪を抱くようになった僕は、今まで以上に誰かを信じることをしなくなり、養護施設でも誰かに頼ることもなく一人で過ごしていた。
そんな僕を見ていた養護施設の先生は僕が孤立しないようにといろんな策を打ち出したが、僕はそのすべてはねのけた。
僕は仲間も友達もいらない。他人を信じるなんて、そんな馬鹿なことも絶対にしない。
そして養護施設に入ってから数年後。僕は『白雪姫症候群』の能力が覚醒して、S級クラスの保護施設に入った。
僕はS級クラスの保護施設に来た今でも、一人で生きていくと決めたことを曲げず過ごしている。
きっとこれからもそうだ。S級クラスのクラスメイトたちがどれだけ同じ似たような境遇だったとしても、僕は自分の考えを変えるつもりはない。
だって……僕の心を変えられる人なんているはずはないから。
そしてポケットに入っていた音楽プレイヤーを取り出して電源を入れ、ベッドに転がっていたワイヤレスのヘッドホンを頭につけてから再生ボタンを押した。
しばらくすると、そのヘッドホンから音楽が流れ始める。
「結局、片付けをしていたから『Bright Red Flame』をテレビで観られなかったな……」
そんなことを呟きつつ、僕は流れてくるその音に耳を傾ける。
――運命なんて握り潰す。俺は俺の道を行くだけだ!
その歌からはボーカルの強い想いを感じていた。
『自分の運命に抗い、そして新たな運命を切り開いていく』
そんなメッセージの込められたその曲は、聴くたびに僕の心に火をつけてくれる。
「僕もこんな自分の運命を認めない。抗って、握り潰して――己の道を突き進んでやる」
そんな決意を新たにする夜だった。
――13年前。幼い僕と僕の両親を乗せた車は大事故を引き起こした。
それは随分ひどい事故だったようでその時に両親だけではなく、僕たちとは無関係の会社員の男性も犠牲になり、なぜか僕だけは奇跡的に助かったのだった。
「こんな大事故を引き起こすなんて、私達にもとんだとばっちりだ。なんて迷惑なことを……」
誰が最初にそう言い出したのかは僕にはわからないけれど、生き残った僕のことを親戚たちはあまりよく思っていなかったらしい。
大事故を引き起こした両親の子供である僕のことを、親戚たちは目の上のしてたんこぶとして扱い、僕は親戚の家をたらい回しにされていた。
物心がついたとき、僕は人生はこういう運命なんだと自然と受け入れていた。
それからも僕は親戚の家を転々としながら暮らし、
『疫病神』『加害者の子供』『お前も一緒に死んでいればよかったのに』
そんな言葉たちを行く先々で浴びせられていた。
そして学校でも『死神の子』と言われて、クラスメイトからは煙たがられるようになっていた。
僕には何も言う資格はない。だってどれも間違ってはいないから……。
僕は親戚たちやクラスメイトから何を言われてもそう思い、無意識に群れることを避けていた。そのせいもあって、僕はいつも独りぼっちだった。
それから数年が経ち、僕はいつしか孤独を感じるようになった。
『僕はずっと独りぼっちなの……? そんなのは嫌だよ』
僕は部屋の端っこで膝を抱えて、俯きながらそう言っていた。
でも誰も僕のことを受け入れてくれないし、信じようともしてくれない。だから僕も周りを信じることができなくて、結局僕は孤独のままだった。
それからまた僕は親戚の家を追い出され、今度は一人暮らしをしている叔父の家に預けられることになった。
叔父はミュージシャンを目指しており、バイトやライブ活動などでほとんど家にいなかった。そのため僕を悪く言うこともなく、黙って寝泊まりさせてくれた。
そして僕はここで音楽と運命的な出会いを果たす。
それは僕が叔父の家で暮らし始めて、1か月が経ったときのことだった。
「音楽はいいぞ。己を奮い立たせ、そして心を熱くしてくれる。だから真一も聞いてみろ」
叔父はそうい言いながら僕にお古の音楽プレイヤーとイヤホンをくれた。
叔父にとって深い意味なんてなかったと思う。ただ自分の好きな音楽を僕と共有したかったくらいに違いない。
例えそうだったとしても、僕にとってはそれがとても嬉しかった。
だってそれは僕が人からもらった初めてのプレゼントだったから――。
それから僕は一人の時、叔父からもらった音楽プレイヤーでずっと音楽を聴いていた。
周りが僕のことを受け入れてくれない現状は変わらなかったけれど、音楽を聴いていると顔も知らない歌手に僕のことを受け入れてもらえているように感じていた。
「音楽があれば、僕はもう孤独じゃない。それに今は叔父さんだっていてくれる。音楽が僕を孤独から救ってくれたんだ」
僕は音楽と出会い、今までで一番の幸せを感じながら過ごしていた。
しかし、それから数か月が経った頃に突然悲劇は起こった。
僕はいつものように音楽を聴きながら、一人で叔父の帰りを待っていた。
ふと時計に目をやると、日付が変わる寸前だという事に気が付く。
いつもならもう家にいる時間なのに……。バイト先で何かあったのかな。
僕はいつもより帰りが遅い叔父に疑問を抱いていた。
つけていたイヤホンを耳から外すと、窓に何か打ち付けるような音が聞こえた。気になった僕は窓の外を見てみると、外ではかなり強い雨が降っていることを知る。
「叔父さん、大丈夫かな。こんな雨の中だと、バイクは大変だよね」
そして僕は高確率で濡れて帰ってくると予想される叔父のために、お風呂を沸かして待つことにした。
それから数分後、玄関から扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
僕がその扉を開けると、そこには深刻な表情で立つ警察官の姿があった。
「風谷さんのお子さんですか?」
「一応そうですけど……。あの、何か?」
「実は……」
そして僕はその警察官から叔父がバイクで事故にあったことを聞かされた。
叔父は意識不明の重体で、今の医療技術ではもうどうすることもできない状態なんだとか。
警察官の話を聞き終えた僕はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くした。それから何かを言われた気がしたけれど、全く内容が入ってこなかった。
まさかそんなこと……何かの冗談だよね?
僕はそんなことを思いつつ、その警察官に連れられて叔父が運ばれた病院へと向かった。
そしてICUのベッドで横たわる叔父の姿を見た。身体中が傷だらけで、息もほとんど聞こえない。
「そんな……なんでこんなことに」
もう蘇生の見込みがない叔父は、患者の最期を看取るための個室に移されることになった。それから数分後に警察から連絡を受けた親戚の人たちが何人か病院へやってきた。
「ミュージシャンなんてつまらないものを目指すからよ。ざまあないわね」
「すねかじりが一人減ったんだ。よかったな」
やってきた親戚の人たちは誰も叔父さんに悲しみの言葉を掛けることはなく、代わりにそんな蔑みや喜びの感情がこもった言葉を掛けていた。
僕はこの時、親戚たちの心の汚さを知った。
叔父の命は今ここで終えようとしているのに、なぜこいつらはそんな言葉しか掛けられないのか。僕はこんな汚い人間に頼って生きるくらいなら、一人で生きていく方がいい。
少しでも血を分けていたとしても、こんな奴らを絶対に信じちゃいけない。
こいつらは僕が死んだときも同じように悲しむどころか、蔑みや喜びのをかけるだろう。
「許さない……。そうやってずっと僕の両親のことも」
そんなことを呟きながら、僕はその場にいる親戚たちに強い憎悪を抱いたのだった。
それから叔父さんの葬儀を終えた僕は親戚たちの家にはいかず、養護施設に入った。
「あんな汚い心を持つ奴らの力になんて頼るもんか。僕は僕の力だけでも生きていけることを証明してやる」
そして親戚たちへの強い憎悪を抱くようになった僕は、今まで以上に誰かを信じることをしなくなり、養護施設でも誰かに頼ることもなく一人で過ごしていた。
そんな僕を見ていた養護施設の先生は僕が孤立しないようにといろんな策を打ち出したが、僕はそのすべてはねのけた。
僕は仲間も友達もいらない。他人を信じるなんて、そんな馬鹿なことも絶対にしない。
そして養護施設に入ってから数年後。僕は『白雪姫症候群』の能力が覚醒して、S級クラスの保護施設に入った。
僕はS級クラスの保護施設に来た今でも、一人で生きていくと決めたことを曲げず過ごしている。
きっとこれからもそうだ。S級クラスのクラスメイトたちがどれだけ同じ似たような境遇だったとしても、僕は自分の考えを変えるつもりはない。
だって……僕の心を変えられる人なんているはずはないから。
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