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第6章 家族

第44話ー① 変わらない関係

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 暁が地元から帰ってきてから、数日が経過した。

 いつもと同じ朝を迎えた暁たちだったが、今朝の食堂は少し荒れていた。

「何なんだよっ! お前はいつもいつも俺に突っかかりやがって!!」
「そっちが突っかかる要因を作るからじゃないですかぁ? 最近のしおん君を見ていると、なんだか私まで嫌な気持ちになるんですけどぉ」
「はあ!? ふざけんなっ!」

 そう言って、勢いよく立ち上がったしおん。

 そしてしおんが立ち上がったと同時にテーブルにあった箸やフォークが床に落ちて散乱した。

(このままじゃ、食堂がしおんの『コトダマ』で……)

「お前たち! 朝からいい加減にしろって!」

 暁はそう言ってしおんと凛子の間に立つが、2人はにらみ合ったまま動かずにいた。

(さすがに俺がいるところで能力を使おうとは思わないだろうが、このままの状況を放っておくわけにもいかないよな)

 そう思った暁は少々強めに、

「凛子、さすがに言いすぎだ! しおんもそんなにかっかするな」

 凛子としおんにそう告げた。

「だって……本当にそう思ったんですぅ。最近のしおん君はおかしいです。それは先生も感じていますよねぇ?」

 凛子の言う通り、あのライブを終えてからしおんの様子がおかしいと暁も感じていたのは本当だった。

 理由も原因もわからない。でも何とかしないと――と思っていた暁だった。

(でも今はそうじゃなくて――)

「仮にそうだったとしても、言っていいことと悪いことくらいはわかるだろう? 心配しているのなら、もっと別の言葉をだな――」
「心配じゃありません~」

 そう言って、そっぽを向く凛子。

「はあ」
「ちっ……」

 しおんは舌を鳴らしてから、食堂を出て行った。

「おい! しおん!!」

 暁はしおんにそう声を掛けたがしおんは気にも留めず、ずかずかと歩いて行ってしまった。

「もう、なんなんだよ……」

 食堂の出口を見つめながら、暁はため息をこぼす。

 それから凛子は元居た場所に戻り、食事を再開していた。

 落ちていた箸やスプーンはマリアと結衣が拾い、流し台へと持っていっていた。

「マリアも結衣もありがとな」

 暁はそんな二人の元へ行き、お礼を告げた。

「いえいえなのです!」
「先生も大変だね」

 マリアたちはそう言いながら、暁に優しく微笑みかける。

「そう思ってくれる生徒がいるだけで嬉しいよ。ありがとな」

 そしてその日の午前の授業にしおんは出てこなかった。

 タブレットは本人に預けてあるから、個人で進めるようにあとで連絡をいれておこう。今朝のあの様子じゃ、きっと午後も出てこないだろうしな――。

 そう思いながら、授業中に生徒たちを見守っていた。

 そして暁はふと凛子に視線を向けると、凛子は肘をつきながらぼーっとしていた。

 朝のことを気にしているのか? でもそんなに気にするのなら、言い過ぎなければいいのに――と暁は心の中でそう思ったのである。

 そしてこの日の授業は無事に終了したのだった。



 授業後。授業に出てこなかったしおんを心配していたまゆおは、一人でしおんを探して施設内を歩き回っていた。

「しおん君、どこに行ったんだろう……部屋にはいないみたいだったし。大丈夫かな」

 まゆおはそう呟きながら、廊下を進んでいた。すると――

「ん? 誰かいる」

 まゆおは窓の外から見えるエントランスゲートに、誰かがいることに気が付いた。

「なんだか見覚えが……」

 気になったまゆおは窓からその人物を確認する。

「え、あれって……!」

 そしてまゆおが窓からエントランスゲートを見ていると、暁がエントランスゲートの向かう姿が見えた。

「――僕も行こう」

 そう言って、まゆおはエントランスゲートに急いで向かったのだった。



 エントランスゲート前。

 暁は小走りでゲートにやってきて、その外にいる青年に声を掛ける。

「あの、ここは関係者以外立ち入り禁止で……」

 暁がそう言うと、青年は嬉しそうに答えた。

「ああ、よかった! 先生が来てくれるのなら、話が早い! 自分は無関係者じゃないですよ! 狭山まゆおの兄です! まゆおに会いに来て――」
「え、まゆおの……?」
「ええ。まゆおを呼んできてくれれば、わかります!」

 暁はその青年の言葉を疑ったが、言われてみればまゆおと似た面影があるような――と思ったのである。

「先生!」

 まゆおはそう言いながら、ゲートに向かって走ってきた。

「まゆお? 何でここに?」
「……兄さんが見えたので」

 そう言って、まゆおはゲートの外にいる青年に目を向けた。

「まゆお! 久しぶりだな!!」

 青年はそう言って陽気に声を掛けていた。

「本当にまゆおの兄さんなのか?」
「ええ。本当に僕の兄さんです」
「ほら! そう言ったでしょう? 先生は疑り深いんだからー」
「すみません……」
「じゃあ俺は部外者じゃないんで、中に入れてもらえますか?」

 そう言って、ニコッと笑うまゆおの兄。

「いいのか?」

 暁は確認するようにまゆおへそう告げた。

「……はい」

 それから暁は持っていたゲスト用のカードキーをまゆおの兄に渡した。

 そしてまゆおの兄は施設の中へ。

「じゃあこんなところではあれなんで、中へどうぞ」

 暁はまゆお兄にそう告げて、建物内へと誘導した。
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