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第6章 家族

第46話ー④ しおんとあやめ

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 全部、あやめのせいだ。俺の人生がめちゃくちゃになったのも全部――。

「いや、違う。本当は俺も――」

 そして扉を叩く音が響いた。

(ん、誰だ? もしかして、まゆお? さっきのことを気にしているとか)

 それからしおんは扉の前まで行って、

「誰、ですか……?」

 と応答した。

「…………僕、だけど」
「真一?」

 そしてしおんは部屋の扉を開ける。

「どうしたんだ?」
「それはこっちのセリフ。まゆおから様子が変だって聞いたんだけど」
「あ、ああ。そうか」

 さっきのことか……。でもよりにもよってなんで真一に相談するんだよ。

 そう思いながら、眉をひそめるしおん。

「さっきの練習の時も様子が変だったし、何なの? 何を一人で悩んでるわけ?」

 真一はトーンを変えず、冷静な口調でしおんにそう尋ねていた。

 あやめのせいで調子が出ないとは言えないしおんは、

「別に、何でもないさ。ただ調子が出ないだけで」

 そう言ってごまかした。

「はあ? じゃあその調子とやらはいつ取り戻せるわけ? ずっとその調子じゃ、僕が困るんだけど」

 真一がこういう時に優しい言葉を掛けてくれないことくらい、しおんもわかっていたけれど、その言葉は今のしおんにとっていつも以上にきつい言葉に聞えていた。


「そ、それはそのうちに……俺だっていろいろあるんだよ!」

「へえ。じゃあそんな情緒の安定しない相手といつまでも続けてはいけないよ。僕の夢の邪魔になる。だからしおんとは一緒に組めない。解散だ」

「な! お前、そんな勝手なことを!!」

「勝手じゃない。僕は僕の夢を叶えるために歌を、音楽をやっている。やる気のない奴といるのは時間の無駄だ。だから今のままのしおんなら一緒にやる意味はないよ。それじゃあね」


 そう言って、部屋を去っていく真一。

「あ……」

 しおんは何も言えず、去っていく真一の背中を見つめた。

「くそっ。また俺は――」

 そしてしおんはその場にただ立ち尽くすのだった。



 翌朝。食堂にて。

「あれ、何かあったのか?」

 暁は真一としおんがよそよそしい態度になっているのを見て、まゆおにそう尋ねた。


「昨日、しおん君の様子がおかしいって真一君に相談したんですが、その後に何かあったみたいで。解散するとかなんとか……」

「はあ!? 解散!? なんで、また!」

「それがわからないんですよ。夢の邪魔になるとか聞こえたような。もしかして僕、余計なことをしてしまったんでしょうか」


 そう言ってしゅんとするまゆお。

 どうやら昨夜、まゆおは共同スペースでしおんに会った時に様子が変だったことを真一に相談したらしい。それから真一がしおんの部屋に行って、解散すると言い出したんだとか――。

「まゆおのせいだってことはないだろうけど、でも由々しき事態だな。なんで解散だなんて……2人はうまくいっているように見えたんだけどな」

 そう言って頭を悩ませる暁。

「音楽の世界なんてそんなものですよ。価値観が合わなくなったと途端に解散だなんだって騒ぎ立てるんですから」

 そう言いながら、暁の隣にくる凛子。

「そうか……芸能界が長い凛子がそう言うと、妙な説得力があるな」
「まったく……あの人とギスつくのは私の役目なのに」

 そう言って寂しそうな顔をする凛子。

「もしかして今日も喧嘩のネタを考えていたのか?」
「やだなー先生! 私が無理やり喧嘩したがっているみたいな言い方はやめてくださいよぉ。ちょっといじってやろうと思って、いろいろリサーチしているだけですぅ」
「そ、そうか」

 いやいや、凛子。それだよ? その態度が俺にそう思わせているんだぞ!?

 それから暁は腕を組みながら、このままの状況は芳しくないと思っていた。2人をなんとか仲直りさせないと、この先どうなることかと不安に思う暁。

「先生、どうしたらいいでしょう」

 まゆおは困った顔で暁に問う。

「うーん」

 暁は頭を捻るが、すぐにいい考えが浮かばず、

「すまん。この件はちょっと保留でもいいか?」

 そう言ってまゆおに両手を合わせて答えたのだった。

「……わかりました」

 まゆおはそう返事をすると、朝食を再開した。

 そして朝食を終えた暁たちはいつも通りに授業を始めたのだった。
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