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第7章 それぞれのサイカイ

第50話ー③ おかえり

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 食堂に向かう暁たちは他愛ない話をしながら歩いていた。

「新しい大学はどうだ? 友達はできたのか?」
「ふふふ。なんだか、そういう聞き方をするとお父さんみたいですよ、先生?」
「ええ!? そんなつもりは……でもどうなのかなって思って」

 実際、奏多がどんな大学生活を送っているのかは気になるわけだし――そう思いながら、奏多の方を見る暁。

「そうですね。新しい友人はできましたし、大学生活は楽しいですよ。そういえば先日、合同コンパ? というものに誘われまして……」

『合同コンパ』というワードを聞いた暁は急に立ち止まり、驚愕の表情をしながら拳で口元を押さえながら考え込んだ。

(合同コンパって男女がパートナーを探すためにする夜の宴、だよな!? なんで奏多はそんなものに……俺と付き合っていることを口外していないのか? もしかしてこんなおじさんと付き合っているなんて、恥ずかしくて同級生に話せない、とか……。いや、今はそんなことよりもだ――)

 それから暁は奏多の方をまっすぐに見て、

「もちろん断ったよな!? な??」

 そう問い詰めた。すると、奏多の表情が徐々に曇り始める。

(え……まさか)

「実は……」

 重々しく口を開く奏多。

「……もしかして?」
「はい」

 奏多は俯きながら、そう答えた。

 そんな……俺って存在がありながら。でもやっぱり同じくらいの男の方がいいよな。俺じゃ、やっぱりもうダメなのかも――。

 そう思いながら肩を落とす暁。

「ちょっと姉さん!! もうそういうのやめなって! 嫌われるよ?? 三谷さんと付き合っているからってちゃんと断ったってこの間、そう言っていたでしょ!」
「そう、なのか!」

 暁が奏多の方を見ながらそう言うと、奏多は弦太の言葉に少々むすっとしながら、

「あら、ネタばらしが早いですよ。もう!」

 そう答えた。

「そんなことしていて、三谷さんに愛想をつかされても知らないからね?」
「はいはい。どうせここに大好きな織姫がいるから、私に愛想をつかした先生が織姫に乗り換えるかもとか心配しているんでしょう? そんなことないから、ご安心くださいませ!」

 それを聞いた弦太は顔を赤くしながら、

「ちょ、ちょっと、姉さん!! もう、何言ってるんだよ!!」

 そう言ってぷんすかしていた。

 そんな2人を見て、暁はつい笑いをこらえなくなる。

「あはは! 2人は仲良しなんだな! キリヤたちとは違う姉弟みたいでみていて面白いよ!」
「あら、面白いですって弦太!」

 奏多が万遍の笑みで弦太にそう言うと、

「こんな姿見られてそう言われてもなあ。はあ」

 困った顔でそう答える弦太だった。

 そして暁たちは食堂に到着した。

「織姫に奏多たちが来たことを伝えないと……ん?」

 そう言いながら食堂に入ると、織姫が一人優雅に紅茶を飲んでいる姿が目にはいった。

「お待ちしておりましたわ、奏多ちゃ――」
「織姫ー!! 久しぶり!! メッセージ送っても全部無視するからどうしているのかってずっと心配していたんだよ!」

 そう言って目を輝かせながら、織姫の目の前に駆け寄る弦太。

「うわ……なんであなたが?? というかこの施設は部外者の侵入は禁止ですよね? さっさとつまみ出してくれませんか? あなたも教師なら呆けてないで早く何とかしてください!!」

 織姫はそう言いながら弦太から顔を背ける。

 さっきのしっかりものの性格とは全く別の人格になってないか? ――暁は織姫を見つけた弦太を見てそう思った。

「あ、いや。実は研究所から弦太君の入場の認可が下りていてな。だから不法侵入ってわけじゃないんだよ」
「はい??」
「そういうわけだから!!」

 そう言って織姫に笑いかける弦太。

「どういうわけよ! ふん。私は奏多ちゃんとお話するためにここへ来たんです。あなたとは話しませんから!」
「相変わらず、織姫は冷たいなあ」

 弦太はそう言いながら、しゅんとした。

「まあまあ。そう言わず! 4人でお茶会をしましょうか」

 笑顔で織姫にそう告げる。

(奏多、たぶんこうなることをわかっていたな……)

 暁はそんなことを思いながら、奏多の笑顔を見ていた。

 それから暁たちは4人で机を囲み、お茶会が始まる。

 織姫は弦太の方を一切向かずにずっと奏多に話しかけ、そして弦太はいくら無視をされてもめげずに織姫に声を掛け続けていた。

「――いや、これってどういう状況だ!!」

 暁はこの状況にいたたまれず、そう言いながら立ちあがる。

「どうされたんですか、先生?」

 奏多はニコニコとしながら、首をかしげてそう言った。

「いやいやいや! 俺だけなんだか完全に蚊帳の外だし。織姫は奏多とずっと話しているし。弦太君は織姫に無視されてもめげずに話しかけているし。いろいろありすぎだろう!!」
「あらあら。寂しかったんですね。放って置いてすみません、先生!」

 奏多は万遍の笑みを暁に向ける。

 その笑顔がかわいいなと暁は内心でそう思いながら、

「あ、いや。そうじゃなくて!! まあそうなんだけど。でもさっきから織姫はなんで露骨に弦太君を避けるんだ??」

 織姫にそう問いかけた。

「嫌いだからです」
「えええ、そんなー」
「あ、でも。嫌いきらいも好きのうちと言いますよね!」

 奏多は織姫に笑顔でそう告げると、

「い、言いません!!」

 と声を荒げながら返した。

「うふふ」
「奏多……」

 そう言いながら、暁はやれやれと言った表情で額を押さえた。
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