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第7章 それぞれのサイカイ

第51話ー⑧ 俺たちの歌

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「しおん……」

 真一はそう言ってから顔をそらす。


「真一、俺はお前からいつも熱い気持ちをもらってる! 俺はお前の音楽に対する気持ちに追いつきたくて、ただがむしゃらにやってきた。だからお前の歌が復讐の歌のはずがない! 俺はお前の熱さのおかげでまっすぐに音楽に向き合えるんだよ!」

「僕にはそんな――!」

「なあ真一。お前のために作った歌がある。聴いてくれ――」


 そう言ってしおんは、スマホで録音した音に合わせて歌い始めた。

 それはしおんの胸にある熱さ、そしてお前からもらった熱さが俺を動かすんだぞとそう伝えてくれる歌だった。

「――この歌はお前を想って作った歌だ。俺から見えている真一はこういうやつなんだよ。だからお前がどう自分のことを思っているかは知らないけどな、俺はお前の最高に熱い音楽への想いを知っている! いつも一緒に音を合わせてるんだから!!」

 しおんは真一の方をまっすぐに見て、そう告げた。

 それから真一はゆっくりと顔を上げて、しおんの方を見る。


「……怒りや憎しみが無くなったら、僕には歌う理由がなくなるんだ。それを考え出したら、急に歌う理由がわからなくなった。能力の消失にはこの感情を失くすことがカギになる。でもその感情がなくなれば、きっとしおんと同じ気持ちじゃいられない。だから――」

「別に理由なんて後から探せばいいだろう。急いで見つけようとしなくてもいい。それに見つからないなら、見つかるまでは俺の夢を叶えるって理由でいいじゃないか?」


 しおん笑顔で真一にそう告げた。

「は? 何言ってるの? それはしおんの夢であって、僕には――」
「関係ないとは言わせないぞ! 俺の夢は真一と一緒に世界一のミュージシャンになることなんだからな!」
「……しおん」
「だから真一。これからも俺と一緒に夢を見てくれ」

 その言葉に俯く真一。

「そ……嬉し……を言わ……は……」
「え? 今、なんて??」
「だ、だから……し、しおん一人じゃ心配だから、しょうがなく付き合ってあげるって言ったんだよ!」

 真一は顔を真っ赤にしながらそう言った。

「あはは! そうか、そうか! でも嬉しいぜ、真一!!」

 そう言ってガッツポーズをするしおん。

 そんな2人を温かく見守る暁とまゆお。

「僕じゃ真一君を変えられなかったのに、しおん君の音が真一君の心を動かしたんですね」
「そうだな。しおんだから真一を変えられた。俺でもまゆおでもなく、音楽で分かり合えるしおんだからこそ……あの2人はきっと大物なる。そんな気がするよ」

 そして様子を見計らって凛子たちも教室に戻って来る。

「終わりましたかあ?」
「ああ。凛子たちは大丈夫だったか?」
「私たちは全員無事ですよ☆ ……まったく。青春しちゃって。ちょっと羨ましいじゃないですか」
「凛子も混ざってきたらどうだ?」

 暁はニヤニヤとしながら凛子に告げる。

「いいですよお。ライバルとなれ合うつもりはありませんからあ」
「ははは。そうか!」

 暁がわいわいと凛子たちと話している一方――

「そういえば、しおん。さっきの歌だけどさ」

 真一は先ほどのしおんが作った新曲について触れていた。

「お、なんだ? 感動したってか!」
「声も安定してないし、録音したギターもかなり不安定だった。ものにするにはもう少し練習が必要かな」

 そう言って微笑む真一。

「は? え!!? はい……ってか! もっといい感想ねえのかよ!」
「じゃあさっさとノルマ終わらせるよ! 今の歌、もっと良くする。僕の歌をしおんのギターが支えるんでしょ? それで2人で世界一のミュージシャンになるんだから」

 真一はそう言ってから席に着き、タブレットに向かった。

「あ、ああ!」

 そしてしおんも席に着くと、タブレットに向かい勉強を始めた。

「よし、一件落着だ! みんなも勉強を再開しろよ」

 それからいつも通りの授業風景に戻ったのである。
 

 * * *


 その日の夜。

「もしもし、あやめ?」
『兄さん! どうだった? わざわざ電話をしてくるくらいだし、うまくいったんだよね??』
「実は……」

 あやめの問いに、しおんは声のトーンを暗くして答える。

『え……!?』
「……大成功だ! 俺たちは2人で世界を目指すぜ!!」
『そっか。良かった……』

 ほっとしながらそう答えるあやめ。

「心配してくれたのか?」
『うん。弟として、そしてライバルとしてね』
「ははは。本当にライバルって思ってくれているんだな」

 しおんは照れながらそう告げた。

『もちろん! かなり意識はしているかな。僕たちも世界を目指してる。だから負けないよ』
「おうよ!」

 それからしおんとあやめは少し雑談をした後、電話を切った。

「ふう。これで一件落着だな」

 俺の思いがちゃんと真一に届いたってことだよな……これからは俺たち2人の歌を世界中の人たちに届けられるミュージシャンになる――!

「よっしゃ! この気持ちを冷まさないために、さっそく練習だ!!」

 そう言ってしおんは、いつものようにアコースティックギターをかき鳴らしたのだった。



 ――そして数日後。

 しおんが作った真一の歌は、真一の想いや真一の提案した音を追加して、2人の歌となった。

 しおんにとってそれは「真一のための歌」から「俺たちの歌」になった瞬間だった。
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