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第7章 それぞれのサイカイ

第56話ー① 復活の炎

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 キリヤたちが施設を去ってから数日後。暁の元に一本の電話が入った。

「もしもし……。えっ!? わかりました! じゃあ明日の朝、さっそく。はい、はい」

 通話を終えて、手に持つスマホをじっと眺める暁。

「そうか、剛が……」



 翌日、暁は研究所に訪れていた。

「剛の個室はこっち、だったよな」

 そんなことを呟き、暁は剛の個室へ急いで向かっていた。

 剛が眠る部屋の扉の前に立つ暁。

 昨日、所長が言っていたことは本当なのか――。

 そんなことを思いながら、神妙な面持ちでその扉を見つめた。

「よし……」

 そして暁は扉のノブに手を掛けて、扉をゆっくりと開いた。

「入るぞー」

 そう言いながら部屋の中に入り、部屋の奥にあるベッドに目を向ける暁。その視線の先には、先日まで深い眠りについていた剛がベッドから身体を起こして微笑んでいた。

「……剛。本当に剛なんだな!!」

 暁はそう言いながら、剛に歩み寄る。そして剛は暁に向かって、笑顔で頷いた。

「……剛?」

 何も言葉を発しない剛に、暁は疑問を抱く。

 すると剛はベッド横にある小さな机の上にあるスケッチブックとマジックペンを手に取り、何かを書き始めた。

「何、書いてるんだ?」

 暁がそう言って覗き込むと、剛は書いたスケッチブックを暁に見せた。

「ええっと何なに……『ずっとねむっていたせいでこえがでない』。そうだったんだな! どこか悪いわけじゃないなら、良かったよ」

 暁はそう言って、胸をほっとなでおろした。

 そんな暁を見た剛は「うん、うん」と頷く。

「そういえば、キリヤにはもう会ったのか?」

 暁がそう尋ねると、剛はまた手を動かしてスケッチブックに何かを書き始める。

「『おれがめをさましたときに、さいしょにかおをみたのがキリヤだった』。へえ、そうだったんだな!」

 そして剛はまた「うん、うん」と頷いた。

 元気そうな剛の顔を見た暁は、本当に剛が戻って来たんだと嬉しく思ったのだった。

「せっかく久々に会えたから、ちょっと話そうか! と言っても、俺の一人語りになるけど……」

 暁がそう言うと、剛は親指を立てて微笑んだ。

 それから暁は生徒たちのことや施設の今を剛に話し始めた。

 そしてそんな暁の話を終始笑顔で聞いていた剛。

「なんか俺ばっかり話しちゃってごめんな。また剛の声が出るようになったら、剛のことも聞かせて……と言ってもずっと眠っていたから話すも何もないか。ごめんな、ははは……」

 暁はそう言って申し訳なさそうな顔で笑った。

 するとそんな暁を見た剛は、再びマジックペンを動かしてスケッチブックに書き始めた。

「えっと……『おれもきいてほしいことがある』。聞いてほしいこと?」

 剛は頷き、マジックペンを走らせる。

「『おれがみていたゆめのはなし』……夢の話、か。うん。わかった」

 暁がそう言うと、剛はニコっと微笑んだ。

「じゃあ俺はそろそろこの辺で。また来るよ」

 暁はそう言ってから立ち上がった。

 剛はそんな暁に手を振り、笑顔で見送った。



 研究所内、廊下。

 暁は帰宅するために研究所の出口へと向かっていた。

 するとその途中で、

「暁先生?」

 ゆめかが暁を飛び留めた。

 暁はその方に振り返り、

「白銀さん! お久しぶりです」

 そう言って頭を下げた。

「久しぶり。剛君とはどうだった?」
「はい。なんだか懐かしい気持ちになりました。……本当に目を覚ましたんですね」

 暁はしみじみと自身の想いを語る。

「よかった。君は剛君のことがあった時にかなり落ち込んでいただろう? あの時はどうなることかって思ったけれど、でももう大丈夫そうだね」
「あの時は本当にご迷惑をおかけしました。白銀さんとしての言葉、そしてシロからの言葉からたくさん力を頂きました」

 暁はそう言って微笑む。

「あはは! 私はただ思った事を言っただけさ。暁先生の力になれて嬉しいよ」

 ゆめかがそう言いながら、暁に優しく笑いかけた。

「じゃあ、自分はこの辺で。キリヤたちにもよろしく伝えてください」
「ああ。もちろん」

 そして暁は施設に戻っていった。



 保護施設内、暁の個室。

 研究所から帰宅した暁はベッドに寝転んでいた。

「そうか、剛が……」

 夢じゃ、ないんだよな――。

 そう思い、自分の頬を軽くつねる暁。

「痛い……ってことは、現実なんだな」

 そして暁は「ふっ」と微笑んだ。

 思えば、長いような短いような時間だったな。剛が眠りについてもうすぐ2年になろうとしていた。正直俺も諦めていたと思う。でも――

「剛は諦めなかったんだな」

 そして暁は起き上がると、

「よし! やる気が出てきた! 残った仕事を片付けるかっ!!」

 そう言って右手の拳をぎゅっと握ったのだった。
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