上 下
363 / 501
第9章 新たな希望と変わる世界

第73話ー④ デビュー前の

しおりを挟む
 施設内、廊下にて―― 

 エントランスゲートに向かって暁は歩いていた。

「真一もしおんも元気にやっているかな。――もしかしたら東京に染まっていて、耳たぶが取れそうな大きさのピアスを着けていたりとか、髪の色が金色とかに……」

 でも金髪って……2人とも、なんだか似合わなそうだな――

 暁はそんなことを思いながらクスッと笑い、エントランスゲートへ歩いて行ったのだった。

 そして建物の外へ出た暁はエントランスゲートの前に立つ2人の影を見つけると、

「――悪い、待たせたな!」

 そう言って急いでゲートに駆け寄った。

「いえ! 俺たちも今、着いたところなんで! それと、先生。お久しぶりです」

 しおんが笑顔でそう言うと、それを見た真一は照れながら「久しぶり」と言った。

「ああ、久しぶりだな! 2人とも相変わらずみたいで、安心したよ!」

 そう言って微笑む暁。

 金髪でピアスジャラジャラだったらって心配したけど、変わりないみたいだな――!

 親になったような気持ちでそう思う暁だった。

「あはは! 先生もお元気そうで何よりです」
「ねえ! こんなところで立ち話はもういいから、中に入らない? 続きはまだいくらでもできるでしょ」

 真一はしおんの顔を見ながらそう言った。

「お、おう! そうだな!!」
「じゃあ、しおん。これ――」

 そう言って暁はしおんにゲストパスを渡し、それを受け取ったしおんは真一と共にゲートを潜った。

「卒業してから1年も経ってないのにな」

 しおんはそう言いながら懐かしそうな顔で歩く。

「ははは。でもそんなに見た目は変わってないぞ」
「あははは。そうみたいですね!」

 そう言ってしおんは微笑んだ。

「あ、ねえ。そういえば、今年は来たの?」
「え? 来たって??」

 真一の問いに首をかしげる暁。

「新入生。だって凛子と織姫だけじゃ、先生も寂しいんじゃない?」
「ああ、そうだった! 真一に伝えるのを忘れていたよ! それがさ――」
「おおーい、先生! 真一、着いたかあ?」

 そう言って建物の中から出てくる剛。

「え?」

 真一は驚いて、立ち止まる。

「ごめん、先に伝えるべきだったな」

 そう言って真一に申し訳なさそうな顔をする暁。

「真一~~! 久しぶりだな!!」

 剛はそう言って真一の前まで来ると、その頭を撫でた。

「ちょっと、やめてよ! そんな年齢でもないだろ!!」

 真一はそう言って剛の手を払う。

「なんだよお、恥ずかしいのか? 昔からそういうところ、あったもんなあ」

 そう言いながら、「うんうん」と頷く剛。

「あ、えっとこの方は……どちら様?」

 しおんはそう言って真一の方を向く。

「元クラスメイト。キリヤより学年は1つ上で、2年くらい前に能力が暴走してから眠っていたんだ」

 淡々とそう答える真一。

「そう、なのか……」
「でも、まさかこっちに戻って来てるなんてね」

 そう言って、ふっと笑う真一。

「ここは俺の実家みたいなもんだからなっ!!」

 剛はそう言って楽しそうに笑った。

 真一もなんだかんだ剛にまた会えたことは嬉しいんだな――

 そう思いながら真一と剛の会話を聞き、暁は微笑んでいた。

「じゃあ、中に行こうぜ! 真一にはいろいろ聞きたいことがたくさんあるんだからな!!」
「まったく……剛は相変わらず騒がしいんだから」

 それから一同は建物の中へと入っていく。

「そういえば、真一。もう1人、ここへ戻って来た生徒がいるんだ」
「……誰?」

 真一はそう言って首をかしげる。

「それが……聞いて驚くなよ?」
「剛に会った以上に驚くことがあると思う?」

 真一はやれやれといった顔をしてそう答えた。

「ま、まあ確かに」
「それで、誰なの?」
「ああ……狂司だよ!」
「……狂司?」

 そう言って、困った顔をしながら「うーん」と唸る真一。

 あ、あれ? もしかして覚えていないのか――?

「ほら! 優香と一緒に入ってきただろ? 小学生の!!」
「…………きっと、顔を見たら思い出すかもしれない」

 真一は考えることを早々に諦め、涼しい顔で歩いていった。

「さすが世界を目指すミュージシャンだな……」

 そんな真一に感心しながら、暁は歩くのだった。


 * * *


 食堂にて――

 凛子は1人でしおんたちの到着を待っていた。

「久しぶりに会えることが楽しみなんだろ、か」

 さきほどの暁から言われたその言葉をふと思い出す凛子。

 ええ、そりゃあもちろんですよ。だって――

「今回はなんて言ってあげようかな、どんな意地悪をしようかな! きっとしおん君ならすっごく面白い反応をするに違いないです! ――ふふふ、楽しみですね☆」

 そう言って嬉しそうに笑う凛子。

 私がしおん君に求めるもの、それは私を楽しませてくれるかどうかなんだから! 私はしおん君にそれ以上のことなんて、求めませんよ――

 凛子はそう思いながら、少しだけ寂しそうな顔をした。

「ふわああ。そういえば、昨日は遅くまでダンスの振りを――」

 凛子はそう呟くと、そっと顔を机に伏せた。

「――はっ! ダメダメ。もうすぐしおん君が来るんだから……最高のアイドルスマイルでお迎えしないとです☆」

 そして凛子は両頬を優しく叩き、しおんたちの到着を待つことにしたのだった。
しおりを挟む

処理中です...