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第10章 未来へ繋ぐ想い

第78話ー① 夜空にきらめく星を目指して

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 織姫の自室にて――

「なるほど。そういう時に火花が散るんだ……」

「うんうん」と頷きながら、いつも愛読しているビジネス書を真剣に見つめる織姫。

 そして織姫のスマホに一通のメールが届く。

「誰から……ってお母様!? えっと内容は……え、これって――」

 そのメールの内容に驚愕し、硬直する織姫。

 そこには織姫と神宮寺弦太の婚約が決まったことを知らせる内容が記されていた。

「なんで……」

 そう呟いて唇を噛む織姫。

 でもお父様とお母様が決めたことなんだ――

「それじゃ、仕方がないよね」

 そして織姫はスマホをそっと置いた。

「これも読んだってもう無駄ってことなんだよね」

 織姫はそう言いながら、先ほどまで読んでいたビジネス書を手に取った。

 某有名カフェの経営者が書いているその本は、日本トップクラスの企業の次期社長夫人には必要のないものなんだと織姫は悟った。

 自分の今までやってきたことはなんだったんだろう。本星崎家の恥にならないよう、両親の期待に応えられるようにと頑張ってきたつもりだった織姫は、自分はいらないと捨てられてしまったかのように感じていた。

「やっぱり私が自分で輝こうなんて無理な話だったんだ」

 それから織姫はベッドまで行き、布団に顔をうずめた。

「変われたと思っていたのに。変わり始めていると思っていたのに……」

 結局、世界は何一つとして変わっていないことを知った織姫。

 それから織姫は、一人涙を流したのだった。誰にも気づかれることもなく――。



 翌日――

「あのまま眠ってしまうなんて、不覚ね……」

 ため息を吐きながら食堂に向かう織姫。

 でも仕方ない、よね。だって――

 そして昨日に母から届いたメール文を思い出す織姫。

「弦太と婚約って……なんで……」

 別に弦太のことを本気で嫌だって思っているわけじゃない。それにこの間のプレゼントの件は感謝しているし。でも――

「はあ」
「そんなにため息ばかり吐いていたら、幸せが逃げますよ」

 織姫が声のした方に顔を向けると、そこには狂司がいた。

「げっ……いつからそこに」
「婚約がどうとかってところですかね」

 そう言ってニコっと微笑む狂司。

「盗み聞きですか? 最低ですね」

 織姫はそう言いながら、狂司を睨んだ。

「人聞きの悪い。偶然通りかかって、声を掛けようとした時に聞えただけですよ」

 絶対、嘘だ。こんなタイミングよく、聞くなんてありえないでしょう? この人は本当に嫌味な人です――

 織姫はそう思いながら、狂司のことを黙って睨み続けた。

「そんな怖い顔、しないでくださいよ。じゃあ、僕は先に食堂へ行きますから。……ああ、それと。何か悩んでいるみたいなんで。何かあれば、僕でよければ聞きますよ」

 狂司はニコッと笑ってから歩き出した。

「だ、誰があなたなんかにっ!」

 織姫の言葉に振り返ることもなく、狂司は歩いて行ってしまったのだった。

「……私も食堂に急ぎましょう。授業に遅れるなんてことがあったらいけませんから」

 そして織姫も食堂に向かったのだった。
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