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第10章 未来へ繋ぐ想い
第82話ー③ S級クラスの出来事
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廊下にて――
「烏丸君! どこ行くんですか? 続きを――」
「今日はちょっと休憩で。また明日やりましょう」
狂司は後ろを歩く織姫に振り返ることなくそう告げる。
なんだかいつもと様子が違う――?
そう思った織姫は、
「あの人と昔、何があったんですか」
と尋ねた。そして狂司は立ち止まる。
「織姫さんに協力をするとは言いましたが、僕のことを何でも話すと言った覚えはないです」
狂司はそう言って歩いて行ってしまった。
「何よ、それ……」
織姫は狂司の背中を見ながら、そう呟いたのだった。
* * *
夕食時、食堂にて――
「じゃあみんな揃っ……狂司がいないな」
暁は食堂を見渡し、狂司の姿がないことに気が付く。
「織姫、なんか知らない?」
実来が隣にいる織姫にそう言うと、
「知りません。あんな人」
そう言ってプイっとそっぽを向いた。
「また喧嘩? 早いうちに仲直りしちゃいなよ~」
「違うっ!! 大体、実来! あなたはいつも――」
織姫はぷりぷりとしながら実来に文句を言い、実来はそんな織姫の話を笑いながら聞いていた。
いつも通りと言えばそうだけど、でもやっぱり狂司と何かあったんだろうな――
そんなことを思いながら、暁は織姫の方を見ていた。
「もしかして俺のせい、かな……」
ローレンスはそう言って肩を落とす。
「違うって。付き合ってたら、喧嘩の一つや二つくらいするだろ」
そうだよな、うんうん……ん――?
「え!? そうなのか、剛?」
驚いた顔でそう言う暁。
「は? なんだよ、先生! 知らなかったのか!!」
「狂司と織姫が!?」
確かにいつも一緒にいるなあとは思っていたけど、まさかだな――
「だって2人はいつも一緒に――」
「火山さん、何を適当なことをおっしゃっているのですか?」
織姫は満面の笑みで剛にそう告げる。しかしその笑みは怒りの感情が漏れ出ていた。
「え!? 違うのか!!? 俺はてっきり――」
「違いますっ! 烏丸君は、ただのビジネスパートナーなだけです! それ以上でそれ以下でもありません!!」
「そ、そっか……ごめんな!」
「わかればいいんですよ、わかれば」
そして席に着く織姫。それから実来が剛の傍に寄ってきて、
「織姫、怒ると怖いから気をつけたほうがいいよ!」
そう言ってウインクをした。
「早く言ってくれよな……」
ため息交じりにそう言う剛。
「ははは! まあでもローレンス。剛の見立ては外れたけど、ローレンスのせいじゃない。だから気にするな」
「は、はあ」
「じゃあローレンスの歓迎会をしようか!」
それから食堂でローレンスの歓迎会を開いたのだった。
* * *
夕食後、誰もいなくなった食堂に狂司は姿を現した。
「何も食べずにと言うのは、さすがの僕でも無理か……」
それから狂司はキッチンスペースへ向かった。するとそこには、『烏丸君へ』と書かれたメモと軽食が用意されていた。
「さっき、あんなにひどいことを言ったのに。お人好しなんですね、織姫さんは」
そしてその軽食を電子レンジで温めて、狂司は遅めの夕食を摂り始める。
黙々と目の前の食事を取りながら、狂司はふとさっきのことを思い出していた。
『あの人と何があったんですか』
そう言った織姫に、冷たく返した狂司。
僕はなぜあんなにひどいことを。別に話してもよかったはず。ここを出たらもう彼女とは無関係なのだから、どう思われようと僕は――
「それなのに、なんで僕は……」
そう呟いたとき、
「あれ、烏丸君?」
食堂の入り口から誰かの声を聞く狂司。
その方に顔を向けると、そこには実来が立っていた。
「如月さん。どうしたんですか?」
「いや、それはこっちのセリフ」
それから実来は狂司の隣に来て、椅子に座る。
「何ですか?」
「何ですかって……はあ。織姫と何があったのさ」
実来は頬杖を突きながら、あきれ顔で狂司にそう尋ねた。
なぜ、織姫さんの名前が――?
「ああ、なるほど」
「いや、なるほどじゃないでしょ!」
たぶん如月さんは夕食時に織姫さんの様子がおかしかったことに気が付いたのでしょう――
「織姫さんから何も聞いていないんですか?」
「聞いていたら、君に聞かないじゃん」
不服そうな顔をそう言う実来。
まあ、確かにそれもそうですね――
「あはは」
「真面目に聞いてんだけど?」
実来は狂司の顔をまっすぐに見てそう言った。
その顔を見た狂司は一息つく。そして困った顔で笑いながら、
「僕がひどいことを言ったからですかね」
そう言った。
「ひどいこと? なんて言ったわけ?」
「『協力をするとは言いましたが、僕のことを何でも話すと言った覚えはない』って」
「うわ、最低……」
「あはは、何も返す言葉がないですね」
面目ないと言った顔で笑う狂司。
「……ちゃんと謝りなよ?」
「一応、そのつもりです」
「でも、なんでそうなったの? もしかしてローレンスのこと?」
実来が首を傾げながらそう尋ねると、
「まあ、そんなところですね」
狂司は暗い表情でそう答えた。
「ふーん」
なんだか思ったよりリアクションが薄くないですか――?
「えっと、それ以上は聞かないんですか」
「え? んー、聞いてもいいなら聞くけど?」
なんですか、それ――
そう思いながら少しだけ微笑む狂司。
「まあ隠しておくつもりはないので言いますが、僕はローレンス君のいた組織と敵対した組織にいたんです。そして少し前になりますが、彼を殺そうとしたことがあって」
「ほうほう」
割と物騒な話をしているつもりなんですが、なかなか実来さんは肝が据わっていますね――
そんなことを思いながら話を続ける狂司。
「僕も彼ももう組織の一員ではないので敵対する理由はないですが、でも僕は彼のいた組織を許せないんですよ」
「それはなんで?」
それは『ポイズン・アップル』が……『エヴィル・クイーン』の奴らが――
「僕の兄を、殺したからです」
狂司は両手で拳を握り、俯きながらそう言った。
「え……殺したって?」
狂司は顔を上げて、実来の方を見ると、
「いえ、実際には生きているんですが……心が崩壊して、もう二度と目を覚まさないって言われています」
悲しげな顔をして笑った。
「そう、なんだ」
「彼が直接兄に何かをしたわけではないですが、それでもやはり許せないんですよ」
いくら『エヴィル・クイーン』が解散したとしても、それでも過去の出来事がなくなるわけじゃないんですから――
「うーん。難しいことはわかんないけどさ。別に、許さなくてもいいんじゃないの?」
「じゃあ僕は――」
「学校なんていろんな人がいて当たり前でしょ。だから無理に仲良しごっこなんてしていたら疲れちゃうよ。好きな人は好き、嫌いな人は嫌い。それで良くない? 2人きりのクラスじゃないんだからさ!」
初めて会った時は、正直あまり信用できない人間だと思っていたけれど――
「如月さんは、意外といいこと言うんですね」
狂司はそう言って笑った。
「意外とは余計じゃない? でも本当にそうだから! 私だってさ、前の学校ではいろいろと苦労したんだって……」
ため息交じりにそう言う実来。
「ははは。その話もぜひ聞いてみたいものですね」
「まあいつかね。んじゃあ、私は部屋に戻るよ。こんなところを織姫に見つかったら、何を言われるか」
そう言って立ち上がる実来。
「別に何も言われないですよ。……あ、いや。嫌っている相手と友達が会話しているのを見るのは、気分が悪いかもしれませんね」
「はあ? 何言ってんだか……まあいいや。じゃあ、おやすみ、狂司~」
「はい、おやすみなさい」
そして実来は食堂を出て行った。
「あ、狂司って……まあいっか」
それから狂司はぼーっと椅子に座っていた。
なぜ如月さんに話せて、織姫さんに話せなかったのか――
狂司はそんなことを悶々と考えていた。
「とりあえず謝ろう。それからですね」
それから狂司は食べていた食器を片付けて、食堂を後にしたのだった。
「烏丸君! どこ行くんですか? 続きを――」
「今日はちょっと休憩で。また明日やりましょう」
狂司は後ろを歩く織姫に振り返ることなくそう告げる。
なんだかいつもと様子が違う――?
そう思った織姫は、
「あの人と昔、何があったんですか」
と尋ねた。そして狂司は立ち止まる。
「織姫さんに協力をするとは言いましたが、僕のことを何でも話すと言った覚えはないです」
狂司はそう言って歩いて行ってしまった。
「何よ、それ……」
織姫は狂司の背中を見ながら、そう呟いたのだった。
* * *
夕食時、食堂にて――
「じゃあみんな揃っ……狂司がいないな」
暁は食堂を見渡し、狂司の姿がないことに気が付く。
「織姫、なんか知らない?」
実来が隣にいる織姫にそう言うと、
「知りません。あんな人」
そう言ってプイっとそっぽを向いた。
「また喧嘩? 早いうちに仲直りしちゃいなよ~」
「違うっ!! 大体、実来! あなたはいつも――」
織姫はぷりぷりとしながら実来に文句を言い、実来はそんな織姫の話を笑いながら聞いていた。
いつも通りと言えばそうだけど、でもやっぱり狂司と何かあったんだろうな――
そんなことを思いながら、暁は織姫の方を見ていた。
「もしかして俺のせい、かな……」
ローレンスはそう言って肩を落とす。
「違うって。付き合ってたら、喧嘩の一つや二つくらいするだろ」
そうだよな、うんうん……ん――?
「え!? そうなのか、剛?」
驚いた顔でそう言う暁。
「は? なんだよ、先生! 知らなかったのか!!」
「狂司と織姫が!?」
確かにいつも一緒にいるなあとは思っていたけど、まさかだな――
「だって2人はいつも一緒に――」
「火山さん、何を適当なことをおっしゃっているのですか?」
織姫は満面の笑みで剛にそう告げる。しかしその笑みは怒りの感情が漏れ出ていた。
「え!? 違うのか!!? 俺はてっきり――」
「違いますっ! 烏丸君は、ただのビジネスパートナーなだけです! それ以上でそれ以下でもありません!!」
「そ、そっか……ごめんな!」
「わかればいいんですよ、わかれば」
そして席に着く織姫。それから実来が剛の傍に寄ってきて、
「織姫、怒ると怖いから気をつけたほうがいいよ!」
そう言ってウインクをした。
「早く言ってくれよな……」
ため息交じりにそう言う剛。
「ははは! まあでもローレンス。剛の見立ては外れたけど、ローレンスのせいじゃない。だから気にするな」
「は、はあ」
「じゃあローレンスの歓迎会をしようか!」
それから食堂でローレンスの歓迎会を開いたのだった。
* * *
夕食後、誰もいなくなった食堂に狂司は姿を現した。
「何も食べずにと言うのは、さすがの僕でも無理か……」
それから狂司はキッチンスペースへ向かった。するとそこには、『烏丸君へ』と書かれたメモと軽食が用意されていた。
「さっき、あんなにひどいことを言ったのに。お人好しなんですね、織姫さんは」
そしてその軽食を電子レンジで温めて、狂司は遅めの夕食を摂り始める。
黙々と目の前の食事を取りながら、狂司はふとさっきのことを思い出していた。
『あの人と何があったんですか』
そう言った織姫に、冷たく返した狂司。
僕はなぜあんなにひどいことを。別に話してもよかったはず。ここを出たらもう彼女とは無関係なのだから、どう思われようと僕は――
「それなのに、なんで僕は……」
そう呟いたとき、
「あれ、烏丸君?」
食堂の入り口から誰かの声を聞く狂司。
その方に顔を向けると、そこには実来が立っていた。
「如月さん。どうしたんですか?」
「いや、それはこっちのセリフ」
それから実来は狂司の隣に来て、椅子に座る。
「何ですか?」
「何ですかって……はあ。織姫と何があったのさ」
実来は頬杖を突きながら、あきれ顔で狂司にそう尋ねた。
なぜ、織姫さんの名前が――?
「ああ、なるほど」
「いや、なるほどじゃないでしょ!」
たぶん如月さんは夕食時に織姫さんの様子がおかしかったことに気が付いたのでしょう――
「織姫さんから何も聞いていないんですか?」
「聞いていたら、君に聞かないじゃん」
不服そうな顔をそう言う実来。
まあ、確かにそれもそうですね――
「あはは」
「真面目に聞いてんだけど?」
実来は狂司の顔をまっすぐに見てそう言った。
その顔を見た狂司は一息つく。そして困った顔で笑いながら、
「僕がひどいことを言ったからですかね」
そう言った。
「ひどいこと? なんて言ったわけ?」
「『協力をするとは言いましたが、僕のことを何でも話すと言った覚えはない』って」
「うわ、最低……」
「あはは、何も返す言葉がないですね」
面目ないと言った顔で笑う狂司。
「……ちゃんと謝りなよ?」
「一応、そのつもりです」
「でも、なんでそうなったの? もしかしてローレンスのこと?」
実来が首を傾げながらそう尋ねると、
「まあ、そんなところですね」
狂司は暗い表情でそう答えた。
「ふーん」
なんだか思ったよりリアクションが薄くないですか――?
「えっと、それ以上は聞かないんですか」
「え? んー、聞いてもいいなら聞くけど?」
なんですか、それ――
そう思いながら少しだけ微笑む狂司。
「まあ隠しておくつもりはないので言いますが、僕はローレンス君のいた組織と敵対した組織にいたんです。そして少し前になりますが、彼を殺そうとしたことがあって」
「ほうほう」
割と物騒な話をしているつもりなんですが、なかなか実来さんは肝が据わっていますね――
そんなことを思いながら話を続ける狂司。
「僕も彼ももう組織の一員ではないので敵対する理由はないですが、でも僕は彼のいた組織を許せないんですよ」
「それはなんで?」
それは『ポイズン・アップル』が……『エヴィル・クイーン』の奴らが――
「僕の兄を、殺したからです」
狂司は両手で拳を握り、俯きながらそう言った。
「え……殺したって?」
狂司は顔を上げて、実来の方を見ると、
「いえ、実際には生きているんですが……心が崩壊して、もう二度と目を覚まさないって言われています」
悲しげな顔をして笑った。
「そう、なんだ」
「彼が直接兄に何かをしたわけではないですが、それでもやはり許せないんですよ」
いくら『エヴィル・クイーン』が解散したとしても、それでも過去の出来事がなくなるわけじゃないんですから――
「うーん。難しいことはわかんないけどさ。別に、許さなくてもいいんじゃないの?」
「じゃあ僕は――」
「学校なんていろんな人がいて当たり前でしょ。だから無理に仲良しごっこなんてしていたら疲れちゃうよ。好きな人は好き、嫌いな人は嫌い。それで良くない? 2人きりのクラスじゃないんだからさ!」
初めて会った時は、正直あまり信用できない人間だと思っていたけれど――
「如月さんは、意外といいこと言うんですね」
狂司はそう言って笑った。
「意外とは余計じゃない? でも本当にそうだから! 私だってさ、前の学校ではいろいろと苦労したんだって……」
ため息交じりにそう言う実来。
「ははは。その話もぜひ聞いてみたいものですね」
「まあいつかね。んじゃあ、私は部屋に戻るよ。こんなところを織姫に見つかったら、何を言われるか」
そう言って立ち上がる実来。
「別に何も言われないですよ。……あ、いや。嫌っている相手と友達が会話しているのを見るのは、気分が悪いかもしれませんね」
「はあ? 何言ってんだか……まあいいや。じゃあ、おやすみ、狂司~」
「はい、おやすみなさい」
そして実来は食堂を出て行った。
「あ、狂司って……まあいっか」
それから狂司はぼーっと椅子に座っていた。
なぜ如月さんに話せて、織姫さんに話せなかったのか――
狂司はそんなことを悶々と考えていた。
「とりあえず謝ろう。それからですね」
それから狂司は食べていた食器を片付けて、食堂を後にしたのだった。
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