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第10章 未来へ繋ぐ想い

第86話ー① みんな揃って

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 資料送付から数日後。

 暁の書類は受理され、正式に学校の新設が始まることとなり、S級保護施設の取り壊しが決定したのだった。

 そして暁は、研究所にある所長室で所長と施設取り壊しの件で話し合いに来ていた。

「何も、取り壊すまでしなくても……」

 暁が悲し気に所長へそう言うと、

「仕方がないさ。君の気持ちはわからないでもないが、それが政府の決定だからな」

 申し訳なさそうな顔でそう言う所長。

「でも――!」
「カタチがなくとも、なかったことになるわけじゃない。だからその時の思い出を暁君の中で大切にしてあげなさい。そして、今度は新たな学び舎でまたたくさんの思い出を作っていけばいい」

 そう言って微笑む所長。

「はい……」

 そう、だよな。思い出までが壊されてしまうわけじゃない。ちゃんと俺の胸の中で大切にしていけばいいんだ――

 そう思いながら、暁は小さく頷く。

 でも、最後に思い出を作っておきたいな――

 暁はそう思いながら、思い出作りに何かできないかと思案し、そしてあることを思いつく。

「あの、所長!」
「ん?」
「一つ、お願いしたことが――」



 ――それから数週間後。

 施設には卒業生たちが集まっていた。

「先生、今日はどうしたの?」

 キリヤが暁にそう尋ねると、

「おう! 今日はみんなで、レクリエーションだ!!」

 暁は満面の笑みでそう答えた。

「でも、なぜこのタイミングで?」

 キリヤの隣に居た優香は首を傾げて、暁にそう問いかけた。

 まあ、唐突に呼ばれればそんな疑問を抱くのも仕方がないことか――

 暁はそう思ってから、でも本当の理由を今このタイミングで伝えるべきなのか――? と脳内で一人葛藤した後、

「それは……うーん。今回のレクリエーションで、みんなが俺に勝てたら教えてやるってことで!!」

 誤魔化すようにそう言った。

「それって、隠すようなことなんですか??」

 そう言ってまた首を傾げる優香。

「まあまあ! その方がやる気になるだろう?」
「そうだよ、優香! とりあえず楽しもうよ!! それに勝てば教えてくれるって言うんなら、勝てばいいんだよ!」

 キリヤはそう言ってニコッと微笑む。

「わかった――それでは、私達の日頃の成果を先生に見せつけましょうね!!」
「うん!」

 優香とキリヤはそう言ってお互いの顔を見つめ合い、微笑んだ。

「それで先生、これからどうするんだ?」

 いつの間にか暁の隣に来ていた剛が、暁にそう尋ねる。

「えっとだな――っと言っても、まだ全員集合じゃないか……」

 暁は集まった生徒たちを見ながらそう言った。

「真一君としおん君は仕事で少し遅れるからって言っていましたよ」

 まゆおがそう言うと、

「そうそう。りんりんもお仕事だって言っておりました!」

 結衣は人差し指をピンッと立てて、笑顔でそう言った。

 それから暁は、織姫からなんとなく聞いていた凛子の予定を思い出し、

「確か、『はちみつとジンジャー』と一緒に歌番組の収録だっけ?」

 結衣にそう尋ねる。

「そうなのです! だから終わったら、3人一緒に来るとは思いますよ!」

 3人共、そんな大事な仕事があるのに予定を合わせてくれたんだよな。あとでちゃんとお礼を伝えよう――

 そう思いながら、暁は「うんうん」と頷く。

「それで先生、どうする? 先に始める??」

 マリアのそんな問いに、

「そうだな! ウォーミングアップがてら、一勝負やっとくか!」

 暁はニッと笑いながらそう言った。

「チーム分けはどうするんです? 僕たち在校生は能力持ちですが、卒業生の方々はいろはさんとキリヤ君以外、無能力者ですよ?」

 狂司が腕を組みながら暁にそう尋ねると、

「俺はいろいろと考えたんだけどさ――俺対みんなってのはどうだ!」

 そう言ってニヤリと笑う暁。

「へえ」
「いいな!」

 キリヤと剛はそう言って頷く。

「なんか、初めてのレクを思い出すね、まゆお!!」

 いろはがまゆおの顔を覗き込みながらそう言うと、

「そうだね。でもあの時の僕はほとんど何もしていなかったけどね、あはは……」

 そう言って遠い目をするまゆお。

「まあまあ! 今日、頑張ればいいっしょ? 最近は身体も鍛えているし、能力がなくてもまゆおは強いって!!」
「えへへ、いろはちゃんがそう言うなら」

 まゆおは恥ずかしそうに頭を掻いてそう言った。

「見せつけてくれますなあ……」
「そうね」

 結衣とマリアはそう言ってまゆおといろはを見つめていた。

「でもいつの間に、2人は再会して?」

 優香がいろはに問うと、

「まあ――いろいろあったんだよ。ね?」
「あはは……誤解が解けて良かったなと」

 お互いの顔を見合わせて、いろはとまゆおがそう言った。

「どういうこと、ですか?」

 首を傾げる優香。

「まあまあ。その話は、りんりんが来てからまた聞きましょうぞ! 今夜ももちろんやりますよね、女子会!!」

 結衣が笑顔でそう言うと、優香は両手を合わせて

「そうですね。それでは今夜の議題は、速水さんの恋愛事情について――にしましょう!」

 楽しそうにそう言った。

「賛成~!!」

 マリアと結衣は楽しそうに声を合わせてそう言った。

「マリアさんも結衣さんも! 他人ひとの色恋沙汰に口をはさむなんて、そんなのよろしくないです!!」

 織姫は胸の前で拳を握り、ぶんぶんと振りながらそう言った。

「ええ、織姫は真面目だなあ。私は聞きたいよ? 先輩たちのコイバナ! それに、それに! あとから『はちみつとジンジャー』来るんだよね! サインもらわきゃ――」

 ニヤニヤとしながらそう言う実来。

「あなたは相変わらずですね……織姫さんを見習ったらどうですか?」

 ため息交じりに肩をすくめてそう言う狂司。

「あー、はいはい。どうせ狂司は、織姫の事が大好きなだけでしょお?」

 嫌味な顔をして、実来は狂司にそう言った。

「そういうわけじゃ――」
「そうですか。そういうわけじゃありませんか。そうですよね。知っていましたよ」

 そう言って肩を落とす織姫。

「その好きじゃないというのは、あれです。異性的な意味であって、人間的にという事ではないですよ?」
「そうですね、ははは」
「このままじゃ、今夜の打ち合わせに支障が――」

 困り顔で頭を抱える狂司。

「あはは! 狂司でも口で勝てない相手がいたんだ! ぷぷぷ」

 そんないろはをキッと睨んだ狂司は、

「いろはさん? 昔の恥ずかしい話をここで披露しますけど?」

 そう言ってニコッと笑う。

「は!? え、何それ!? ちょ、ちょっと待ってよ!!」
「それって僕が知らないことなの!? ちょっと聞いてもいいかな、狂司君」

 まゆおはそう言って前のめりで狂司に詰め寄る。

「まゆお、なんで嬉しそうなの!? 止めてよ!!」

 そしてわいわいと会話を始めた生徒たちを黙って見つめる暁。そんな暁の隣に水蓮がやってきた。

「お父さんはいいの?」

 そう言って暁の顔を覗き込む水蓮。

「いいんだ。今はしばらく見ていたいんだよ」

 暁はそう言って水蓮に微笑んだ。

「そっか! ――そういえば、お母さんは?」
「ああ、家の用事を片付けたら来るってさ」
「そうなんだ! 楽しみだなあ」
「そうだな」

 それからしばらく生徒たちを見つめた後、暁は再び生徒たちの中に戻り、

「ごほん……じゃあみんなワイワイしているところ申し訳ないが、そろそろ始めようか!!」

 そう言って微笑んだ。

 すると生徒たちはお互いの顔を見つめ合い、「はーい」と返事をする。

「じゃあ、始めるぞ! 俺を捕まえたら、みんなの勝ちだ! でも制限時間までに捕まえられなかったら、俺の勝ち! それで、罰ゲームは――」
「それは真一たちが来たときのゲームでいいんじゃない?」

 キリヤは笑いながらそう言った。

「おう! そうだな!! じゃあ制限時間は20分。能力の使用は自由だ!! でも危険行為は禁止だからな? それじゃ、スタート――!」

 そして暁のそう言い終えたのと同時に、キリヤは暁に向かって氷の刃を放った。

「危ない、危ない」

 暁はその氷の刃を全て『無効化』で消滅させてから、そう言ってニヤニヤと笑う。

「ちぇ、またか……」

 残念がるキリヤ。

「あはは、あの時と同じだな」

 そう言って笑う暁。

「じゃあ、俺は逃げるぞ!!」

 そして暁はそう言ってその場を去ったのだった。
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