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第10章 未来へ繋ぐ想い

第86話ー④ みんな揃って

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 グラウンドにて――

「ここまで来れば、剛たちも……」

 暁がそう呟きながら走っていると、その目の前にキリヤが現れた。

「キリヤか」
「もう時間は残ってない。これが最後の戦い、だね」

 キリヤは暁の顔をまっすぐに見てそう言った。

「ああ、そうだな」
「そういえば、先生とは何度もこうして向き合ってきたね」

 そう言ってニコッと微笑むキリヤ。

「ああ、最初のレクリエーションでキリヤは本気で俺を殺ろうとしてったけな!」
「あはは。そんなこともあったね」

 それから暁は目を閉じて、今までのことをふと思い出す。

「――あれから、いろんなことがあったな」

 暁がそう言って微笑むと、

「そうだね。ここでの思い出は、僕にとって本当にかけがえのないものだったよ」

 キリヤは懐かしむような顔で暁にそう言った。

「そう、だな」

 悲し気な顔をしてそう言う暁。

 かけがえのないもの、か――

 それから所長に言われている施設解体の話のことを思い出し、暁は俯く。

 キリヤにもみんなにも、ちゃんと伝えないとな。そうじゃなきゃ、みんなで前を向いて進んでいけないかもしれないから――

「先生? 大丈夫??」

 キリヤのその言葉にはっとする暁。

「ああ、ごめん。ぼーっとしてたよ」
「まったく……じゃあ、手加減はしないからね!!」
「おう!!」

 それから暁とキリヤは向かい合って立つと、何も言わずにその場で見つめ合っていた。

 さて、キリヤはどう動く――

 そう思いながら、暁はキリヤを黙って見つめる。

 しばらく沈黙の空気が流れたのち、その沈黙を打ち破るようにキリヤは暁に向かって駆け出した。

 氷か? それとも――

 暁は考えを巡らせながら、キリヤの動向を窺う。

 すると、キリヤは走りながら手から小さな何かを地面に落とした。

「力を貸して……」

 キリヤが小さな声でそう言うと、地面に転がっていた黒い球から芽が出てくる。

「『植物』か!」
「そうだよ。そしてこれは、間接的な攻撃だってできるんだ!」

 キリヤがそう言って出現した植物に触れると、暁の立つ地面が大きく揺れ動いた。

「な、なんだ!?」
「植物ネットワークを駆使して、その地面にある植物エネルギーの働きかけたのさ!!」
「は!? なんかそれ、ずるくないか――うわっ!!」

 そう言って尻もちをつく暁。

「ついでにこれも、プレゼントするよ!!」

 キリヤはそう言って、氷の刃を暁に放った。

「俺には利かないっての!!」

 そう言って暁は飛んできた氷の刃を『無効化』でかき消す。

「詰めが甘かったな、キリヤ!」
「いいえ、それは先生の方ですよ?」
「え……?」

 その声に振り向いた暁は、背後から肩を掴まれていることに気が付く。

「は!? 優香!? いつの間に!?」
「うふふ。私達の作戦勝ちですね!」
「そうそう。僕たちのコンビネーションを舐めないでほしいな」

 そう言って微笑むキリヤと優香。

「くそぅ……」

 最後くらいは、勝ちで終わりたかったんだけどな――

 そう思いながら、苦笑いをする暁。

「じゃあ今日集めた本当の理由を、お聞かせくださいますね?」
「ああ、わかったよ」

 それから暁は施設に来ている全員を自分の元に集めた。

「――今回は俺の完敗だ。みんな、おめでとう!」
「やった!」「まあ当然です!」

 そう言って生徒たちは口々に勝利を喜んでいた。

「ごほん。それで先生、今日ここに私たちを集めた理由を教えてくださるんですよね?」

 優香がそう尋ねると、暁は暗い表情をして、

「ああ、うん……」

 と言い俯いた。

「言わなくていいの?」

 暁の隣に来た水蓮は、そう言って暁の顔を覗き込む。

 水蓮は心配してくれているんだろうな――

 そう思い、顔を上げた暁は、

「いいや、言わないとな」

 苦笑いをしてそう言った。

「うん。頑張れ、お父さん」
「ありがとう」

 それから暁は生徒たちの方に顔を向ける。

 真面目な顔をする暁を見た生徒たちは、何事かと息を吞んだ。

「えっと、今日ここに集まってもらった理由だが……この施設の取り壊しが決まったことを伝えるためだったんだ」

 重い口調で暁がそう告げると、

「え、それってどういうこと!?」

 キリヤは目を見開いてそう言った。

「ははは、そんなリアクションにもなるよな。と言っても、明日すぐにってわけじゃないんだ。あと2,3年くらい、かな」

 悲しそうに笑いながらそう言う暁。

「でも、なんで?」

 キリヤはそう言って暁に詰め寄る。

「それは――新しい学校を創るからだ」
「あ……」

 はっとするキリヤ。

「キリヤは知っているんだよな」

 未来へ行った時に、その学校を見ているのだから――

「……うん」
「は!? どういう事!? 全然、意味わかんないんだけど!? なんでキリヤ君は知ってんの?」

 いろはは困惑した顔をして、キリヤに問う。


「まあ、いろいろとあってね……でも、新しい学校を創ることと施設を取り壊すことに何の関係があるの? 残すって選択肢はないの??」

「俺もそう思って、所長には言ったんだけどな。でもダメみたいで――」


 暁がそう言うと、優香がスマホを取り出してどこかに連絡をしようとしていた。

「優香? 何するつもり??」

 キリヤが優香の方を見てそう言うと、

「所長に直談判をします。ここを残してもらえるように」

 優香はキリヤをまっすぐに見つめてそう言った。

「え!? それじゃ、所長の迷惑になっちゃうよ!」

 優香の手を掴みながら、キリヤはそう言った。

「でも、キリヤ君はいいのですか? ここをとても大事に思っているんですよね?」
「そ、そうだけど……」

 そう言って俯くキリヤ。

 それからしばらく沈黙が続くと、

「あ、あの……」

 実来はそう言って静かに手を上げた。
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