30 / 62
30 幸せ
しおりを挟む
カミラの指導は半年くらい続き、その甲斐あって貴族出身のメイド達と働いても、マリアが前のように浮くことはなくなった。
苦手だったエリザもマリアを見てため息を吐くことはなくなり、彼女に対しての苦手意識も薄れていた。
歩き方や身のこなしは美しくなり、田舎者だとバカにされることもない。
厳しくも温かい指導をしてくれたカミラは、マリアにとって王都の親代わりのような存在になっていた。
時間はかかってしまったが、無事にメイド教育を終えてダイアー子爵家から帰ってきたマリアをアンは喜んで迎えてくれ、その日の夜は久しぶりにアンと二人で話し込んでしまい、寝るのが遅くなってしまう。
そんなある日、マリアはエリザから仕事終わりに呼び出しを受ける。
最近は仕事で注意されることは少なくなっていたが、何か悪いことをしてしまったのかと不安になりながら彼女の部屋に向かうのだが、
「マリア、急に呼び出して悪かったわね」
「こちらこそ、お待たせして申し訳ありませんでした」
エリザは穏やかに微笑んでいるが、この人は優しそうに見えて厳しいことを言ってくるから油断出来ない。
しかし、エリザが口にしたのは……
「マリア、この数ヶ月間よく頑張ったわね。すぐ嫌になって仕事を放り出すかと思っていたけど、お嬢様のためにと努力する姿は素敵だったわ」
エリザは今まで褒めてくれることはなかったから、その言葉が信じられなかった。
「……え?」
「ふふっ、今のマリアなら大丈夫ね。
実は結婚が正式に決まって、来月で公爵家の仕事は辞めるの。お嬢様のことは頼んだわよ。
これから私よりも酷くて嫌味ったらしい令嬢や令息と関わることもあると思うけど、負けないで頑張りなさいね」
その瞬間、ハッとした。エリザがマリアにチクチク言ったり見下した態度を取ったりしていたのは嫌がらせなどではなく、マリアがどこまでやれるかを試していたのだろう。
「……結婚? 退職されるのですか?」
「結婚相手は王都から離れた領地に住んでいるのよ。結婚後はそこに住むから退職するしかないの。残念ながら、この公爵家のように王都にタウンハウスを持てるような家ではないのよね。ここだけの話、貧乏貴族なの。
でも、彼と結婚するのが子供の頃からの夢だったのよね。だから仕事を辞めることに抵抗はないわ」
そう話すエリザの笑顔はキラキラと輝いていた。
あー、エリザ様は本当に幸せなんだ。好きな人と結婚出来るって、こんなに素敵で輝けることなんだ。
私はそんな人生を諦めたけど、エリザ様には幸せになって欲しいな……
と思ったら、感極まって涙がポロポロと流れていた。
「えっ? ……マリア、どうして泣くの?」
「しっ……幸せになって下さい。私、エリザ様のこと忘れません。
エリザ様の幸せをずっと祈っておりますわ。今までありがとうございました」
泣くマリアを見てギョッとしていたエリザだが、マリアの言葉を聞くと優しい目を向けてくる。
「……ありがとう。退職まで残り一ヶ月あるからまだ泣くのは早いわよ。
クレアお嬢様がマリアを側に置きたがる理由が分かるわ。その真っ直ぐな性格が可愛いのでしょうね。
でも、他の人の前でむやみに涙を見せてはダメよ」
「……っ! は、はい。気を付けます」
その日のことがきっかけでエリザとは打ち解けることが出来た。
「マリア。真面目に仕事をするのは素晴らしいけど、貴女は恋人はいるの?
休みや仕事が終わった後は、図書館に行って勉強をしていると聞いたわ。恋人と会う時間はあるの?」
「いえ。恋人はいません。今は必要ないと思っています。
エリザ様のような結婚に憧れた時期もありましたが、私には縁がないようです」
「えぇーっ? 男性の使用人達を全然相手にしないから、本命の恋人がいるのかと思っていたわ」
「ここで働く前に振られてしまいました。
全く未練はありませんわ」
「はあ? マリアを振るなんて、そんなバカな男がいるのかしら?
素敵な人を捕まえて、その男を見返してやりなさい!」
テッドに振られたことは、雑談として話せるくらいに吹っ切っていた。この話はすでにアンにも話してあり、遊び人の騎士は懲り懲りだということも伝えている。
今は自分に恋愛は必要ない。仕事が楽しいし、この公爵家で働くことが幸せだと思っているのだから。
それから一ヶ月後、エリザは公爵家を退職した。
幸せオーラ全開で旅立つ彼女を、マリアや仲間のメイド達は笑顔で見送るのであった。
苦手だったエリザもマリアを見てため息を吐くことはなくなり、彼女に対しての苦手意識も薄れていた。
歩き方や身のこなしは美しくなり、田舎者だとバカにされることもない。
厳しくも温かい指導をしてくれたカミラは、マリアにとって王都の親代わりのような存在になっていた。
時間はかかってしまったが、無事にメイド教育を終えてダイアー子爵家から帰ってきたマリアをアンは喜んで迎えてくれ、その日の夜は久しぶりにアンと二人で話し込んでしまい、寝るのが遅くなってしまう。
そんなある日、マリアはエリザから仕事終わりに呼び出しを受ける。
最近は仕事で注意されることは少なくなっていたが、何か悪いことをしてしまったのかと不安になりながら彼女の部屋に向かうのだが、
「マリア、急に呼び出して悪かったわね」
「こちらこそ、お待たせして申し訳ありませんでした」
エリザは穏やかに微笑んでいるが、この人は優しそうに見えて厳しいことを言ってくるから油断出来ない。
しかし、エリザが口にしたのは……
「マリア、この数ヶ月間よく頑張ったわね。すぐ嫌になって仕事を放り出すかと思っていたけど、お嬢様のためにと努力する姿は素敵だったわ」
エリザは今まで褒めてくれることはなかったから、その言葉が信じられなかった。
「……え?」
「ふふっ、今のマリアなら大丈夫ね。
実は結婚が正式に決まって、来月で公爵家の仕事は辞めるの。お嬢様のことは頼んだわよ。
これから私よりも酷くて嫌味ったらしい令嬢や令息と関わることもあると思うけど、負けないで頑張りなさいね」
その瞬間、ハッとした。エリザがマリアにチクチク言ったり見下した態度を取ったりしていたのは嫌がらせなどではなく、マリアがどこまでやれるかを試していたのだろう。
「……結婚? 退職されるのですか?」
「結婚相手は王都から離れた領地に住んでいるのよ。結婚後はそこに住むから退職するしかないの。残念ながら、この公爵家のように王都にタウンハウスを持てるような家ではないのよね。ここだけの話、貧乏貴族なの。
でも、彼と結婚するのが子供の頃からの夢だったのよね。だから仕事を辞めることに抵抗はないわ」
そう話すエリザの笑顔はキラキラと輝いていた。
あー、エリザ様は本当に幸せなんだ。好きな人と結婚出来るって、こんなに素敵で輝けることなんだ。
私はそんな人生を諦めたけど、エリザ様には幸せになって欲しいな……
と思ったら、感極まって涙がポロポロと流れていた。
「えっ? ……マリア、どうして泣くの?」
「しっ……幸せになって下さい。私、エリザ様のこと忘れません。
エリザ様の幸せをずっと祈っておりますわ。今までありがとうございました」
泣くマリアを見てギョッとしていたエリザだが、マリアの言葉を聞くと優しい目を向けてくる。
「……ありがとう。退職まで残り一ヶ月あるからまだ泣くのは早いわよ。
クレアお嬢様がマリアを側に置きたがる理由が分かるわ。その真っ直ぐな性格が可愛いのでしょうね。
でも、他の人の前でむやみに涙を見せてはダメよ」
「……っ! は、はい。気を付けます」
その日のことがきっかけでエリザとは打ち解けることが出来た。
「マリア。真面目に仕事をするのは素晴らしいけど、貴女は恋人はいるの?
休みや仕事が終わった後は、図書館に行って勉強をしていると聞いたわ。恋人と会う時間はあるの?」
「いえ。恋人はいません。今は必要ないと思っています。
エリザ様のような結婚に憧れた時期もありましたが、私には縁がないようです」
「えぇーっ? 男性の使用人達を全然相手にしないから、本命の恋人がいるのかと思っていたわ」
「ここで働く前に振られてしまいました。
全く未練はありませんわ」
「はあ? マリアを振るなんて、そんなバカな男がいるのかしら?
素敵な人を捕まえて、その男を見返してやりなさい!」
テッドに振られたことは、雑談として話せるくらいに吹っ切っていた。この話はすでにアンにも話してあり、遊び人の騎士は懲り懲りだということも伝えている。
今は自分に恋愛は必要ない。仕事が楽しいし、この公爵家で働くことが幸せだと思っているのだから。
それから一ヶ月後、エリザは公爵家を退職した。
幸せオーラ全開で旅立つ彼女を、マリアや仲間のメイド達は笑顔で見送るのであった。
応援ありがとうございます!
24
お気に入りに追加
2,441
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる