2 / 41
01 プロローグ
しおりを挟む
よく晴れた日の早朝。王都にある名門伯爵家のタウンハウスにて……
「伯爵様、フローラお嬢様のお姿が見当たりません!」
「……何を言っている? 今日はフローラの結婚式だぞ。ずっと楽しみにしていた結婚式の日にいなくなるはずがないだろう。違う部屋にいるはずだ」
「それが……、心当たりのある場所を探しているのですが見つからないのです。
お嬢様の部屋からは伯爵様宛に手紙が……」
メイド長から渡された手紙は、令嬢から父である伯爵宛に書かれたものであった。
〝お父様へ
大切な日にいなくなることをお許しください。
私はアストン侯爵令息とは結婚出来ません。
その代わりに、彼とリリアンの結婚を認めてあげて下さい。
私は少し前に二人が逢瀬を重ねていることを知ってしまいました。二人は男女の関係で愛し合っています。私の友人達にも二人が逢瀬を繰り返しているところを目撃されてしまいました。
このまま何も知らないフリをして、愛し合う二人の邪魔者で居続けるのは辛いのです。
大切な義妹と愛する婚約者の裏切りを知ってしまった以上、私はここにいることは出来ません。弱い私をお許しください。
最後にお願いがあります。今回のことはお義母様は何も悪くありません。お義母様を責めるようなことはしないでください。
今までお世話になりました。
フローラより〟
手紙を読んだ伯爵は震えながら叫ぶ。
「……リリアンを呼べ。今すぐにだ。早くしろ!」
「か、畏まりました」
その数時間後、王都のある教会では結婚式が執り行われていた。
名門貴族の令息と令嬢の結婚式ということで盛大な式なのだが、令息は血色が悪く無表情で花嫁の令嬢を見ようともしない。
令嬢の方も顔色が悪く、泣くのを我慢するのが精一杯といった表情である。
そんな二人の様子から、この結婚は誰が見ても祝福されるものではないということが分かる。
「あのウエディングドレスは、本来は誰が着る予定だったのかしら? あの方の体型に全く合っていないようですわ」
「小柄で可愛らしい雰囲気の方にマーメードラインのドレスはちょっとねぇ。
もっと大人びた方が選ぶデザインだと思いますわ」
嘲笑う声が聞こえる中、結婚指輪の交換が行われることになる。
しかし……
「いっ、痛い」
花嫁の表情が苦痛に満ちている。なぜならば、指輪のサイズが花嫁に合ってなかったから。結婚指輪のサイズが小さいことに気付かずに、無理に指にはめようとしたので痛みがあったようだ。
なかなか指輪の交換が終わらない二人に、招待客達は何が起こっているのかと、好奇心を隠しきれない態度で見つめていた。
「ざまぁーみろ……」
騒ついている中で、その小さな声に気づく者は誰もいなかった。
「伯爵様、フローラお嬢様のお姿が見当たりません!」
「……何を言っている? 今日はフローラの結婚式だぞ。ずっと楽しみにしていた結婚式の日にいなくなるはずがないだろう。違う部屋にいるはずだ」
「それが……、心当たりのある場所を探しているのですが見つからないのです。
お嬢様の部屋からは伯爵様宛に手紙が……」
メイド長から渡された手紙は、令嬢から父である伯爵宛に書かれたものであった。
〝お父様へ
大切な日にいなくなることをお許しください。
私はアストン侯爵令息とは結婚出来ません。
その代わりに、彼とリリアンの結婚を認めてあげて下さい。
私は少し前に二人が逢瀬を重ねていることを知ってしまいました。二人は男女の関係で愛し合っています。私の友人達にも二人が逢瀬を繰り返しているところを目撃されてしまいました。
このまま何も知らないフリをして、愛し合う二人の邪魔者で居続けるのは辛いのです。
大切な義妹と愛する婚約者の裏切りを知ってしまった以上、私はここにいることは出来ません。弱い私をお許しください。
最後にお願いがあります。今回のことはお義母様は何も悪くありません。お義母様を責めるようなことはしないでください。
今までお世話になりました。
フローラより〟
手紙を読んだ伯爵は震えながら叫ぶ。
「……リリアンを呼べ。今すぐにだ。早くしろ!」
「か、畏まりました」
その数時間後、王都のある教会では結婚式が執り行われていた。
名門貴族の令息と令嬢の結婚式ということで盛大な式なのだが、令息は血色が悪く無表情で花嫁の令嬢を見ようともしない。
令嬢の方も顔色が悪く、泣くのを我慢するのが精一杯といった表情である。
そんな二人の様子から、この結婚は誰が見ても祝福されるものではないということが分かる。
「あのウエディングドレスは、本来は誰が着る予定だったのかしら? あの方の体型に全く合っていないようですわ」
「小柄で可愛らしい雰囲気の方にマーメードラインのドレスはちょっとねぇ。
もっと大人びた方が選ぶデザインだと思いますわ」
嘲笑う声が聞こえる中、結婚指輪の交換が行われることになる。
しかし……
「いっ、痛い」
花嫁の表情が苦痛に満ちている。なぜならば、指輪のサイズが花嫁に合ってなかったから。結婚指輪のサイズが小さいことに気付かずに、無理に指にはめようとしたので痛みがあったようだ。
なかなか指輪の交換が終わらない二人に、招待客達は何が起こっているのかと、好奇心を隠しきれない態度で見つめていた。
「ざまぁーみろ……」
騒ついている中で、その小さな声に気づく者は誰もいなかった。
484
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる