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08 心配してくれた人
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「フローラ、それは本気なの?」
「ええ、本気よ。私はあの家を出ることに決めたわ」
今日は久しぶりにセシリアの家に遊びに来ている。
本当はもっと早く会いたかったのだが、王太子妃教育で毎日王宮に通っているセシリアはとても忙しく、なかなか会うことが出来なかったのだ。
私自身も裏切りを知った夜会から体調不良で社交はお休みしていたこともあり、あの夜会以来、家族やアストン侯爵家の人達以外とは会っていなかった。
親友のセシリアには、私は家を出るということを打ち明けたのだが、やはり彼女は厳しい表情をしている。
「フローラ。婚約者の不貞を見てショックなのは分かるけど、貴女が家を出る必要はないと思うの。
家を追い出されるのはあの女の方でしょ?」
「そうね。私はリリアンを許せない。でも、アストン様も許せないの。
二人の不貞関係を父やアストン侯爵様に打ち明けても、穏便に婚約解消が出来なそうだから、私は家を出ることにしたのよ。
父は婚約を破棄するように動いてくれるかもしれないけど、アストン侯爵家は分からないわ。謝罪はしてくれると思うけど、やり直すようにと言われるかもしれない。格上の侯爵家からそう言われてしまったら、うちの伯爵家は強くは出れないわ。
でも、婚約者の義理の妹と不貞をするような男は信用出来ない。結婚なんて絶対に無理よ」
「確かに穏便に済む話ではなさそうね。
でも、出て行くって言ってもどこに行くつもりなの?」
「遠くに行くつもりでいるわ。今、隠れて宝石を売ったりして小金を準備しているの。結婚式当日に私が居なくなれば、あの二人は困ると思うから、当日の早朝にこっそり家を出て行こうかと思っている。
二人の幸せそうな姿を見たくないから、この国から出て行くつもりよ。移民に優しい国がないかも調べているわ。計算が得意だから、どこかの商団で雇ってもらえないかしら?」
私の話が意外すぎたのか、あのセシリアが唖然としている。
「……それは無理よ。貴女は貴族令嬢として育っているのだから、簡単に外で働こうだなんて思わない方がいいわ。
この国から出て行くだなんて言わないで。いずれ王太子妃になる私を側で支えてくれるって言ってくれたじゃないの……」
いつもは強気なセシリアが目に涙を浮かべている。
そうだった……。セシリアが王太子妃となった後、私は侯爵夫人として彼女とその派閥を支えるって約束をしていたんだ。
こんな形で大切な約束を果たせなくなるのは胸が痛む。でも我慢して結婚しても、王太子妃の親友の侯爵夫人の夫が、義妹を愛人にしているだなんてバレたりしたらセシリアの足を引っ張ってしまうわ。
「セシリア、ごめんなさい。私も貴女が王太子妃となる日を楽しみにしていたわ。
でも、遅かれ早かれあの二人の不貞関係はみんなにバレる日が来ると思うのよ。そしたら、私の親友である貴女に迷惑を掛けてしまう。その前に私は身を引くわ。
私が居なくなっても、令嬢が行方不明だなんて醜聞になってしまうから、父は私が急な病気になったことにして隠すでしょうね」
「そこまで考えていたのね。分かったわ。
私もフローラに不幸な結婚はしてもらいたくはない。でも、外国には行って欲しくないの。
実は、貴女のことを私と同じくらい心配している人物がいるのよ。その人に頼めば、フローラを上手く助けてくれるかもしれないわ」
「……私を心配している人?」
そんな人がいるとは思えない。もしかして、あの日の夜会で私が泣いている所を誰かに見られていたのかしら?
「それはルイスよ。あの日、ルイスも私達と一緒にいたでしょう? フローラの泣く姿を見て心が痛んだと言っていたわ。
あの仏頂面の男がね、フローラが悩んでいるだろうから早く会いに行ってやれだとか、手紙を書いてやれだとか……、王太子妃教育で登城して顔を合わせる度にしつこい程言ってきたわ。
そこにあるマルコリーゼのチョコだけど、フローラがうちにお茶に来ると言ったら、少し前にルイスが届けてくれたのよ。フローラはチョコが好きだと話したから用意してくれたみたいね。
本当に信じられないわ。あの無愛想な男がこんなにマメなことをするなんて……」
「マクラーレン様が? あの時に巻き込んでしまってお詫びもしていないのに、そこまで心配して下さっていたなんて申し訳ないわね。
しかもマルコリーゼのチョコは希少なカカオを使っているとかで、予約してもなかなか手に入らないのに、そんな貴重な物をわざわざ届けてくれたなんて、とてもお優しい方なのね」
いつお会い出来るか分からないけど、マクラーレン様にはきちんとお礼を伝えたいと思った。
「あのルイスが女性に優しくしている姿なんて見たことないわよ。でも、フローラのことは本気で心配しているようだったわ。
ルイスは無愛想で何を考えているか分からないけど、根は真面目で信頼出来る従兄妹なのよ。それだけでなく、次期公爵として力もあるわ。ルイスに協力を求めるのはアリだと思うのよ。
マクラーレン公爵領は広大で財政的にも潤っているようだから、公爵領で職を紹介してもらうのはどう?
ルイスには私から話をしておくわよ」
「協力してくれたら有り難いとは思うわ。でも、そこまで頼っていいのかしら?」
「大丈夫よ。きっと喜んで協力してくれるわ。私から言っておくわね。
フローラはあの女や婚約者に計画がバレないように、自然に振る舞ってね」
ということで、マクラーレン様に協力を求めることになる。
そして、彼が届けてくれた名店のチョコは絶品だった。
「ええ、本気よ。私はあの家を出ることに決めたわ」
今日は久しぶりにセシリアの家に遊びに来ている。
本当はもっと早く会いたかったのだが、王太子妃教育で毎日王宮に通っているセシリアはとても忙しく、なかなか会うことが出来なかったのだ。
私自身も裏切りを知った夜会から体調不良で社交はお休みしていたこともあり、あの夜会以来、家族やアストン侯爵家の人達以外とは会っていなかった。
親友のセシリアには、私は家を出るということを打ち明けたのだが、やはり彼女は厳しい表情をしている。
「フローラ。婚約者の不貞を見てショックなのは分かるけど、貴女が家を出る必要はないと思うの。
家を追い出されるのはあの女の方でしょ?」
「そうね。私はリリアンを許せない。でも、アストン様も許せないの。
二人の不貞関係を父やアストン侯爵様に打ち明けても、穏便に婚約解消が出来なそうだから、私は家を出ることにしたのよ。
父は婚約を破棄するように動いてくれるかもしれないけど、アストン侯爵家は分からないわ。謝罪はしてくれると思うけど、やり直すようにと言われるかもしれない。格上の侯爵家からそう言われてしまったら、うちの伯爵家は強くは出れないわ。
でも、婚約者の義理の妹と不貞をするような男は信用出来ない。結婚なんて絶対に無理よ」
「確かに穏便に済む話ではなさそうね。
でも、出て行くって言ってもどこに行くつもりなの?」
「遠くに行くつもりでいるわ。今、隠れて宝石を売ったりして小金を準備しているの。結婚式当日に私が居なくなれば、あの二人は困ると思うから、当日の早朝にこっそり家を出て行こうかと思っている。
二人の幸せそうな姿を見たくないから、この国から出て行くつもりよ。移民に優しい国がないかも調べているわ。計算が得意だから、どこかの商団で雇ってもらえないかしら?」
私の話が意外すぎたのか、あのセシリアが唖然としている。
「……それは無理よ。貴女は貴族令嬢として育っているのだから、簡単に外で働こうだなんて思わない方がいいわ。
この国から出て行くだなんて言わないで。いずれ王太子妃になる私を側で支えてくれるって言ってくれたじゃないの……」
いつもは強気なセシリアが目に涙を浮かべている。
そうだった……。セシリアが王太子妃となった後、私は侯爵夫人として彼女とその派閥を支えるって約束をしていたんだ。
こんな形で大切な約束を果たせなくなるのは胸が痛む。でも我慢して結婚しても、王太子妃の親友の侯爵夫人の夫が、義妹を愛人にしているだなんてバレたりしたらセシリアの足を引っ張ってしまうわ。
「セシリア、ごめんなさい。私も貴女が王太子妃となる日を楽しみにしていたわ。
でも、遅かれ早かれあの二人の不貞関係はみんなにバレる日が来ると思うのよ。そしたら、私の親友である貴女に迷惑を掛けてしまう。その前に私は身を引くわ。
私が居なくなっても、令嬢が行方不明だなんて醜聞になってしまうから、父は私が急な病気になったことにして隠すでしょうね」
「そこまで考えていたのね。分かったわ。
私もフローラに不幸な結婚はしてもらいたくはない。でも、外国には行って欲しくないの。
実は、貴女のことを私と同じくらい心配している人物がいるのよ。その人に頼めば、フローラを上手く助けてくれるかもしれないわ」
「……私を心配している人?」
そんな人がいるとは思えない。もしかして、あの日の夜会で私が泣いている所を誰かに見られていたのかしら?
「それはルイスよ。あの日、ルイスも私達と一緒にいたでしょう? フローラの泣く姿を見て心が痛んだと言っていたわ。
あの仏頂面の男がね、フローラが悩んでいるだろうから早く会いに行ってやれだとか、手紙を書いてやれだとか……、王太子妃教育で登城して顔を合わせる度にしつこい程言ってきたわ。
そこにあるマルコリーゼのチョコだけど、フローラがうちにお茶に来ると言ったら、少し前にルイスが届けてくれたのよ。フローラはチョコが好きだと話したから用意してくれたみたいね。
本当に信じられないわ。あの無愛想な男がこんなにマメなことをするなんて……」
「マクラーレン様が? あの時に巻き込んでしまってお詫びもしていないのに、そこまで心配して下さっていたなんて申し訳ないわね。
しかもマルコリーゼのチョコは希少なカカオを使っているとかで、予約してもなかなか手に入らないのに、そんな貴重な物をわざわざ届けてくれたなんて、とてもお優しい方なのね」
いつお会い出来るか分からないけど、マクラーレン様にはきちんとお礼を伝えたいと思った。
「あのルイスが女性に優しくしている姿なんて見たことないわよ。でも、フローラのことは本気で心配しているようだったわ。
ルイスは無愛想で何を考えているか分からないけど、根は真面目で信頼出来る従兄妹なのよ。それだけでなく、次期公爵として力もあるわ。ルイスに協力を求めるのはアリだと思うのよ。
マクラーレン公爵領は広大で財政的にも潤っているようだから、公爵領で職を紹介してもらうのはどう?
ルイスには私から話をしておくわよ」
「協力してくれたら有り難いとは思うわ。でも、そこまで頼っていいのかしら?」
「大丈夫よ。きっと喜んで協力してくれるわ。私から言っておくわね。
フローラはあの女や婚約者に計画がバレないように、自然に振る舞ってね」
ということで、マクラーレン様に協力を求めることになる。
そして、彼が届けてくれた名店のチョコは絶品だった。
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