婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ

文字の大きさ
39 / 41

38 助け

しおりを挟む
 廊下が騒がしいと思っていたら、勢いよくドアが開けられ、入って来たのは私のお兄様だった。

「フローラ! ……っ、良かった。無事だったんだな。
 私が悪かった。お前を一人にして、家を出てしまったことを後悔している。これからは私が守るからな」

「……お兄様、どうして?」

 お兄様が息を切らして部屋に入ってきた。少し後ろには、アストン侯爵様と夫人の姿が見える。

「私の元に、差出人不明の怪文書が届いたんだ。
 フローラがアストン侯爵令息に別荘で監禁されていると……
 気になった私は、怪文書を持ってアストン侯爵様に会いに行ったんだ。すると、令息が心労で体調を崩し、郊外の別荘で療養していることを教えてくれた。
 侯爵様は最近の令息の様子が変だったからと、私をここに連れて来てくれたんだ」

「よ、良かった……
 助けに来て下さってありがとうございました」

 私は安心して力が抜けてしまい、その場にペタンと座り込んでしまった。
 
「もう大丈夫だ。私と一緒に行こう。
 父上に会いたくないなら、別邸で私と暮らせばいい。
 あの忌々しいリリアンを思い出すから、伯爵家は嫌だろう?」

 久しぶりに会うお兄様は、私の手を優しく引いて立たせてくれた。

「フローラ嬢。レイモンドがすまなかった。
 息子は君を諦められず、精神的に不安定になってしまったらしい。
 だが、君にしたことは許されることではない。今後は君に近づかせないと約束する。領地に連れて帰って、必要な治療をさせるつもりだ。
 後日、改めて謝罪に伺うよ。本当に申し訳なかった」

「フローラさん。こんなに痩せてしまって……
 レイモンドが貴方を苦しませたのね。本当にごめんなさい。
 不貞して傷付けただけでなく、貴女を閉じ込めていたなんて。謝って済むことではないわね。
 貴女が早く元気になれるように祈っているわ」

 アストン侯爵様と夫人は、恐縮してしまうほど丁寧に謝罪してくれた。
 歩行がおぼつかない私は、お兄様に体を支えられながら邸の外に出る。すると後ろから叫び声が……

「ローラ、あの女と離縁したら必ず迎えに行く!
 私は諦めない。君は私のものだ!」

 後ろを振り返ると、騎士に取り押さえされているアストン様の姿があった。
 その様子を、侯爵様と夫人は悲しそうな目で見ている。

「フローラ、震えているな。もう彼を見ない方がいい。行こう」

「は、はい…」

 お兄様と私は、そのままシーウェル伯爵家の別邸に向かうことになる。
 馬車の中では、お兄様が伯爵家を出た理由について教えてくれて、その話を聞いた私は呆れてしまった。
 リリアンは義理の妹という立場ながら、お兄様に色目を使ってきたらしい。夜間に部屋に訪ねて来たり、人の目が少ない所では、無邪気な振りをして抱きついてきたこともあったようだ。身の危険を感じたお兄様は、リリアンと距離を取るために邸を出ることにしたらしい。家族関係がギクシャクすることを避けたかったお兄様は、そのことを私達には秘密にしていたようだ。
 お兄様もリリアンの被害者だった……

「あの女は、離縁してもうちでは引き取らないことになっているから、もう私達と顔を合わせることはないだろう。平民として一人で生きていくか、修道院に行くかを選ばせるらしい」

「しかし、お義母様はそのことに納得しているのでしょうか?」

「リリアンは義母上と血の繋がりはないらしい。
 元夫である男爵と愛人との子供で、男爵ではまともに療育出来なそうだし、リリアンは幼いころは義母上に懐いていたから、気の毒に思った義母上が離縁する時に一緒に連れてきたそうだ。
 だが、今回のことでついに義母上はリリアンを見限った。父上も義母上もフローラのことをとても心配しているようだった」

「そうでしたか……」

 さらに、お祖母様の体調が悪いという噂話については、私を探すお祖母様と伯母様が、噂を流せば私が会いに来るかもしれないと考えて流したデマだったということをお兄様が教えてくれた。
 そんな噂話を流さないで欲しかったが、そこまでお祖母様たちに心配を掛けていたということらしい。落ち着いたら、私から会いに行きたいと思った。


◇◇


 あれから私は、一ヶ月ほど別邸で療養していた。
 療養中には父と義母が会いに来てくれて、二人は私に謝罪をしてくれた後に、アストン侯爵家と話し合った内容について教えてくれる。
 シーウェル伯爵家は、リリアンの不貞の慰謝料を払うつもりでいたが、アストン侯爵令息が私を連れ去って監禁した件があったので、相殺することにしたようだ。
 そしてアストン侯爵令息は、今後は私に関わらせないと侯爵家で約束して下さったらしい。令息はしばらく王都を離れ、領地で療養させることにしたようだ。
 
 そして今日は、セシリアに会うために王宮に来ている。王太子妃になったセシリアからお茶に招待されたのだ。
 セシリアはお茶会をする部屋にやってくると、すぐに人払いをして私に抱きついてきた。

「フローラ、ずっと心配していたのよ。
 私達の結婚式の日に、貴女がパレードを見て泣いた後にいなくなったなんて報告を受けて……、私がどんな気持ちでいたか分かる?」

 王太子妃になっても全くセシリアは変わってなくて、ホッとしてしまった。

「王太子妃殿下、ご心配をおかけしました」

「もう! 二人でいる時は今まで通りにしてちょうだい」

「ふふっ。結婚してから初めて会うから、殿下と呼んでみたかったのよ。
 ところで……、私があの男に監禁されていることをお兄様に知らせてくれたのはセシリア? それともマクラーレン様?」

 お兄様から怪文書が届いたと聞いて、すぐに私の頭に思い浮かんだのはセシリアとマクラーレン様だった。
 この二人しか考えられなかったのだ。

「勿論、ルイスよ! フローラがいなくなったと聞いた時、あの男の慌てっぷりは凄かったんだから。
 未婚の令嬢が元婚約者に監禁されているなんて、醜聞になってしまうから公に捜索が出来なかったのよ。
 それに親戚や家族でもなく、恋人や婚約者でもないルイスが表立って動くことは出来なくてね……」

 マクラーレン様が助けて下さったと知り、胸が熱くなると同時にズキズキと痛む気がした。

「そう……。マクラーレン様には何から何まで迷惑をかけてしまって申し訳なかったわね」

 その後、セシリアとは久しぶりに沢山話をした。新婚生活のことや執務の話、王宮のしきたりや使用人の話など。そして、日が暮れそうになる時……

「フローラ、ルイスが貴女に会いたがっているの。
 ずっと心配していたようだから、元気になった顔を見せてあげてちょうだい。
 そろそろ執務が終わる頃だと思うから、少しいいかしら?」

「ええ。私もお礼をお伝えしたいと思っていたの。
 そういえば……、婚約されたのよね? お祝いもお伝えしたいわ」

 きっと、こうやって会うのも今日が最後だろう。
 婚約者のいる方が、未婚の令嬢に会うなんて良くないもの。
 最後に感謝の気持ちをお伝えしたい。

 セシリアは不思議そうな顔をしながらも、従者にマクラーレン様を呼んで欲しいと伝えていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

処理中です...