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記憶が戻る前の話
06 王妃殿下の提案
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体調が良くなった私は、王妃殿下のお茶会に出席していた。
姉に毒を盛られて寝込んでいたので前回のお茶会は欠席してしまったが、王妃殿下は日を改めて私を王宮に招待してくれたのだ。
義母からは、私が季節の変わり目で体調を崩したことにしているから、余計なことは話さないようにと念を押される。義母は姉と伯爵家を守るためなら、私のことなんて簡単に殺すだろう。
自分は何のために生きているのか分からないが、まだ死にたくはないので、黙って義母の指示に従うつもりでいた。
しかし、王妃殿下は全てを把握していた。
「ベント伯爵家に令嬢は二人いるから、アリシアと名前で呼んでもいいかしら?」
王妃殿下との二人きりのお茶会は、社交に慣れていない私にとっては緊張の連続だった。
「は、はい。私のことはアリシアとお呼び下さいませ」
「ふふっ! 私達二人しかいないのだから、あまり緊張しないでちょうだい。
ところで……、体は大丈夫?
貴女の姉君は恐ろしいわね。たった一人の妹に毒を盛るなんて。伯爵も夫人も、そんな娘を後継者にしておくなんて信じられないわ。
私がアリシアだけをお茶会に誘ってしまったから僻まれてしまったのね。ごめんなさいね」
「……」
王妃殿下は私が毒を盛られたことを知っている……
どうして?
「貴女のことが気になったから、色々調べさせてもったの。気分を悪くしないでね。
アリシアを怖がらせるつもりはないし、腹の探り合いのような会話をするつもりはないわ。
だから、はっきり話をさせてもらうわ。私と陛下がアリシアに興味を持った理由をね」
「私に興味を持った理由でしょうか?」
確かに不思議だった。デビュタントでカーテシーがちょっと上手だったからと、陛下にダンスに誘われたり、王妃殿下に個人的にお茶会に招待されたり……
私なんかよりも目立つ令嬢は沢山いるのに。
「アリシアは〝女神からの贈り物〟って知ってる?」
「……確か、夭逝された方を憐れんだ女神様が人生のやり直しが出来るように、その方を生まれ変わらせるという言い伝えだったと思います」
「その通りよ。ただの古い言い伝えだと思っていたけど、アリシアは私の昔の友人によく似ていたから、これが〝女神からの贈り物〟なのかと思ってしまったわ。
その友人は、名門貴族のご令嬢で淑女の鑑のような方だったわ。カーテシーもダンスも完璧で美しくてね……
アリシアのダンスもカーテシーもとても美しかったから、彼女が生まれ変わって戻ってきたのかと思ってしまったのよ」
フワッと笑いかけてくれた王妃殿下を見て、ホッとしてしまった。こんなに温かくて優しい笑顔を向けられたのは、王都に来て初めてだったから。
デビュタントの時、私を見た国王陛下と王妃殿下が絶句していたのは亡くなった知り合いによく似ていたからなのね。
何か粗相をしてしまったかと気になっていたから、そうではなかったなら良かった。
「そうでしたか……
私もその方にお会いしたかったですわ」
「本当に似ているのよ! 見た目だけじゃなくて、声も所作も全てがね。私の他の友人達も驚いていたわ。
私も陛下も、生前の彼女が悩んでいる時に何も出来なかった。そのことをずっと後悔し続けてきたの。
そのこともあって、彼女によく似たアリシアが困っていたら助けたくなってしまったのよね……
貴女のことを調べて私なりに考えたのだけど、貴女はベント伯爵家を出るつもりはあるかしら?」
私のことを調べたなら、王妃殿下は私が平民として育ってきたことを知っていてこの話をしている。
「伯爵家は……、私がいてはいけない場所のようです」
自分の弱さを晒しているようで良くないことは分かっている。でも、王妃殿下にはつい本音が出てしまった。
「いてはいけないなんて言わないでちょうだい。
ただ、あそこにいては貴女が幸せになれないと思ったの。
あの伯爵夫人と娘の令嬢は変わらないわよ。自分達のために貴女を利用するでしょうね」
「はい……。それは分かっております」
「それで私にいい考えがあるのよ」
「えっ?」
王妃殿下は私に行儀見習いに行くことを勧めてくれた。王妃殿下から勧められたら、父も義母も断れないだろうと。
行儀見習い先は陛下や王妃殿下と関係の深い公爵家で、父も義母も普段は付き合いのない格上の公爵家には簡単に接触が出来ないから安全だろうし、両親が勝手に私の結婚相手を決めないように、行儀見習いが終わるまでに陛下と王妃殿下が私の縁談相手を探してくれるらしい。
大嫌いな伯爵家を出れるなら、こんなに条件のいい話はないと思う。王都に来る前はずっと平民として生活をしてきたこともあり、働くことには何の抵抗もない。私はその提案を有り難く受けることにした。
王妃殿下はすぐに動いてくれて、翌週には行儀見習いに行くことが決まる。父も義母も、陛下と王妃殿下に勧められたことを断れないようで、私には何も言ってこなかった。
姉に毒を盛られて寝込んでいたので前回のお茶会は欠席してしまったが、王妃殿下は日を改めて私を王宮に招待してくれたのだ。
義母からは、私が季節の変わり目で体調を崩したことにしているから、余計なことは話さないようにと念を押される。義母は姉と伯爵家を守るためなら、私のことなんて簡単に殺すだろう。
自分は何のために生きているのか分からないが、まだ死にたくはないので、黙って義母の指示に従うつもりでいた。
しかし、王妃殿下は全てを把握していた。
「ベント伯爵家に令嬢は二人いるから、アリシアと名前で呼んでもいいかしら?」
王妃殿下との二人きりのお茶会は、社交に慣れていない私にとっては緊張の連続だった。
「は、はい。私のことはアリシアとお呼び下さいませ」
「ふふっ! 私達二人しかいないのだから、あまり緊張しないでちょうだい。
ところで……、体は大丈夫?
貴女の姉君は恐ろしいわね。たった一人の妹に毒を盛るなんて。伯爵も夫人も、そんな娘を後継者にしておくなんて信じられないわ。
私がアリシアだけをお茶会に誘ってしまったから僻まれてしまったのね。ごめんなさいね」
「……」
王妃殿下は私が毒を盛られたことを知っている……
どうして?
「貴女のことが気になったから、色々調べさせてもったの。気分を悪くしないでね。
アリシアを怖がらせるつもりはないし、腹の探り合いのような会話をするつもりはないわ。
だから、はっきり話をさせてもらうわ。私と陛下がアリシアに興味を持った理由をね」
「私に興味を持った理由でしょうか?」
確かに不思議だった。デビュタントでカーテシーがちょっと上手だったからと、陛下にダンスに誘われたり、王妃殿下に個人的にお茶会に招待されたり……
私なんかよりも目立つ令嬢は沢山いるのに。
「アリシアは〝女神からの贈り物〟って知ってる?」
「……確か、夭逝された方を憐れんだ女神様が人生のやり直しが出来るように、その方を生まれ変わらせるという言い伝えだったと思います」
「その通りよ。ただの古い言い伝えだと思っていたけど、アリシアは私の昔の友人によく似ていたから、これが〝女神からの贈り物〟なのかと思ってしまったわ。
その友人は、名門貴族のご令嬢で淑女の鑑のような方だったわ。カーテシーもダンスも完璧で美しくてね……
アリシアのダンスもカーテシーもとても美しかったから、彼女が生まれ変わって戻ってきたのかと思ってしまったのよ」
フワッと笑いかけてくれた王妃殿下を見て、ホッとしてしまった。こんなに温かくて優しい笑顔を向けられたのは、王都に来て初めてだったから。
デビュタントの時、私を見た国王陛下と王妃殿下が絶句していたのは亡くなった知り合いによく似ていたからなのね。
何か粗相をしてしまったかと気になっていたから、そうではなかったなら良かった。
「そうでしたか……
私もその方にお会いしたかったですわ」
「本当に似ているのよ! 見た目だけじゃなくて、声も所作も全てがね。私の他の友人達も驚いていたわ。
私も陛下も、生前の彼女が悩んでいる時に何も出来なかった。そのことをずっと後悔し続けてきたの。
そのこともあって、彼女によく似たアリシアが困っていたら助けたくなってしまったのよね……
貴女のことを調べて私なりに考えたのだけど、貴女はベント伯爵家を出るつもりはあるかしら?」
私のことを調べたなら、王妃殿下は私が平民として育ってきたことを知っていてこの話をしている。
「伯爵家は……、私がいてはいけない場所のようです」
自分の弱さを晒しているようで良くないことは分かっている。でも、王妃殿下にはつい本音が出てしまった。
「いてはいけないなんて言わないでちょうだい。
ただ、あそこにいては貴女が幸せになれないと思ったの。
あの伯爵夫人と娘の令嬢は変わらないわよ。自分達のために貴女を利用するでしょうね」
「はい……。それは分かっております」
「それで私にいい考えがあるのよ」
「えっ?」
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大嫌いな伯爵家を出れるなら、こんなに条件のいい話はないと思う。王都に来る前はずっと平民として生活をしてきたこともあり、働くことには何の抵抗もない。私はその提案を有り難く受けることにした。
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