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記憶が戻った後の話
31 久しぶりの伯爵家
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義母からわざとらしい手紙を受け取った私は、迷わず里帰りすることに決めた。
ところが、公爵は義母と私が会うことを反対し、どうしても会いに行きたいなら公爵が付き添うと言って聞かなかった。
公爵が一緒にいたら、あの義母は本性を隠すから面白くはないだろう。久しぶりに会う私にどんな態度を取るのかが気になるので、どうしても私一人で行きたい。
何度も粘り強く頼んだ結果、護衛として公爵家の騎士団長と公爵の筆頭護衛騎士を連れて行くことと、女騎士を私のメイドとして同伴させることで許可を得ることができた。
これは公爵と結婚してから初めての里帰りになる。憎いベント伯爵家でどのように暴れてやろうかと考えるのが楽しくて、ここ数日は私の顔がニヤけっぱなしだ。
「最近の奥様はとても明るく元気でいらっしゃっるので、私達まで嬉しくなってしまいます」
私のお世話をしてくれるメイド達は、みんなとっても優しくて良い人しかいない。ベント伯爵家の使用人とは大違いだ。
「ありがとう。あなた達には沢山心配をかけてしまったわね。
実は、もうすぐ実家に帰れるのが嬉しいの。父や義母に会えるのが楽しみなのよ」
その瞬間、私をニコニコして見つめていたメイド達の表情が凍りつく。
記憶を失った私が、何も知らないことを憐れむような目で見ているのだ。
このメイド達は私と実家の伯爵家の関係が悪いことを知っているのね。
私がその伯爵家に何か仕返しをしようと企んでいることがバレないように、ひたすら無邪気に振る舞っておこうかしら。
「奥様……、確かご実家の伯爵夫人は奥様の義理の母君だったかと。私は義理の家族との関係で悩まれる方を沢山見てきましたので、少々不安ですわ」
それは、私の専属メイドの一人であるエイダだった。
私が後で傷つかないようにと、言いにくいことをあえて話してくれたのね。
「エイダは心配してくれているのね。私は大丈夫よ。
私が両親とどんな関係だったのかを知るために会いたいだけだから。
それに私が辛い現実を知って落ち込んでも、あなた達が側にいてくれるでしょう?」
「奥様、私達はずっと奥様の側におります!」
「私達は奥様の味方ですわ!」
「ずっと奥様について行きます」
私のメイド達は今日も素晴らしいわ。
◇◇
ベント伯爵家に到着した私を出迎えたのは、伯爵家の家令だった。この男の名前を私は知らない。なぜなら、伯爵家の私生児として部屋で引きこもる生活をしていた私は、使用人の名前すら教えてもらえなかったからだ。
いくら実の娘であっても、公爵夫人である私を当主である父が出迎えないなんて、私を馬鹿にしているとしか思えない。今日は私が一人で行くと手紙に書いたから、両親は煩い公爵が来ないことをきっと喜んでいるはず。
「奥様は体調を崩されてずっと安静にしておられます。今日は奥様の寝室での面会になりますがよろしいでしょうか?」
どうせ仮病でしょ? それに私は体調が悪い時にわざわざ会いたいと言われるような仲ではないのに。
ここに来てやった私をとことん舐めているわね。
よーし! ここでひと暴れしてやる。
「あら、体調が悪いなら出直しますわ。伯爵夫人には体調の良い時に招待して下さいとお伝えして。
あなた達、今日は帰りましょう!」
「畏まりました」
護衛騎士が馬車のドアを開けてくれたので、乗り込もうとした瞬間、すまし顔しか見たことのなかった家令の慌てた声がする。
「お待ち下さい! 奥様はお嬢様を部屋でお待ちなのです」
「いくら義娘であっても私は公爵夫人よ。この伯爵家は格上の公爵夫人を家令に出迎えさせた上に、寝室まで足を運べと言うの? そちらが私に邸に来て欲しいと呼び出したはずなのに不愉快だわ! 帰りましょう」
「い、今すぐ旦那様を呼んで参ります!」
あのすまし顔の家令の必死な顔を初めて見たわ。ちょっとスッキリ!!
ところで、公爵家の護衛騎士達はこのやり取りを見て引いて……ないわね。チラッと見た感じ、みんな笑顔で私を見ているわ。
「みんなごめんなさいね。記憶喪失になる前の私は、実家の家族とは仲が悪かったと聞いたから、こんな感じかなぁと、自分なりに強気の演技をしてみたのよ」
「奥様、それは承知しております。このまま公爵夫人らしく振る舞われるのがよろしいかと」
「騎士団長、理解してくれて嬉しいわ」
アンダーソン公爵家で働く使用人達は、公爵家で働くことに誇りを持っている。公爵夫人が伯爵家ごときに馬鹿にされるのは、耐えられないほどの侮辱になるのだろう。
ところが、公爵は義母と私が会うことを反対し、どうしても会いに行きたいなら公爵が付き添うと言って聞かなかった。
公爵が一緒にいたら、あの義母は本性を隠すから面白くはないだろう。久しぶりに会う私にどんな態度を取るのかが気になるので、どうしても私一人で行きたい。
何度も粘り強く頼んだ結果、護衛として公爵家の騎士団長と公爵の筆頭護衛騎士を連れて行くことと、女騎士を私のメイドとして同伴させることで許可を得ることができた。
これは公爵と結婚してから初めての里帰りになる。憎いベント伯爵家でどのように暴れてやろうかと考えるのが楽しくて、ここ数日は私の顔がニヤけっぱなしだ。
「最近の奥様はとても明るく元気でいらっしゃっるので、私達まで嬉しくなってしまいます」
私のお世話をしてくれるメイド達は、みんなとっても優しくて良い人しかいない。ベント伯爵家の使用人とは大違いだ。
「ありがとう。あなた達には沢山心配をかけてしまったわね。
実は、もうすぐ実家に帰れるのが嬉しいの。父や義母に会えるのが楽しみなのよ」
その瞬間、私をニコニコして見つめていたメイド達の表情が凍りつく。
記憶を失った私が、何も知らないことを憐れむような目で見ているのだ。
このメイド達は私と実家の伯爵家の関係が悪いことを知っているのね。
私がその伯爵家に何か仕返しをしようと企んでいることがバレないように、ひたすら無邪気に振る舞っておこうかしら。
「奥様……、確かご実家の伯爵夫人は奥様の義理の母君だったかと。私は義理の家族との関係で悩まれる方を沢山見てきましたので、少々不安ですわ」
それは、私の専属メイドの一人であるエイダだった。
私が後で傷つかないようにと、言いにくいことをあえて話してくれたのね。
「エイダは心配してくれているのね。私は大丈夫よ。
私が両親とどんな関係だったのかを知るために会いたいだけだから。
それに私が辛い現実を知って落ち込んでも、あなた達が側にいてくれるでしょう?」
「奥様、私達はずっと奥様の側におります!」
「私達は奥様の味方ですわ!」
「ずっと奥様について行きます」
私のメイド達は今日も素晴らしいわ。
◇◇
ベント伯爵家に到着した私を出迎えたのは、伯爵家の家令だった。この男の名前を私は知らない。なぜなら、伯爵家の私生児として部屋で引きこもる生活をしていた私は、使用人の名前すら教えてもらえなかったからだ。
いくら実の娘であっても、公爵夫人である私を当主である父が出迎えないなんて、私を馬鹿にしているとしか思えない。今日は私が一人で行くと手紙に書いたから、両親は煩い公爵が来ないことをきっと喜んでいるはず。
「奥様は体調を崩されてずっと安静にしておられます。今日は奥様の寝室での面会になりますがよろしいでしょうか?」
どうせ仮病でしょ? それに私は体調が悪い時にわざわざ会いたいと言われるような仲ではないのに。
ここに来てやった私をとことん舐めているわね。
よーし! ここでひと暴れしてやる。
「あら、体調が悪いなら出直しますわ。伯爵夫人には体調の良い時に招待して下さいとお伝えして。
あなた達、今日は帰りましょう!」
「畏まりました」
護衛騎士が馬車のドアを開けてくれたので、乗り込もうとした瞬間、すまし顔しか見たことのなかった家令の慌てた声がする。
「お待ち下さい! 奥様はお嬢様を部屋でお待ちなのです」
「いくら義娘であっても私は公爵夫人よ。この伯爵家は格上の公爵夫人を家令に出迎えさせた上に、寝室まで足を運べと言うの? そちらが私に邸に来て欲しいと呼び出したはずなのに不愉快だわ! 帰りましょう」
「い、今すぐ旦那様を呼んで参ります!」
あのすまし顔の家令の必死な顔を初めて見たわ。ちょっとスッキリ!!
ところで、公爵家の護衛騎士達はこのやり取りを見て引いて……ないわね。チラッと見た感じ、みんな笑顔で私を見ているわ。
「みんなごめんなさいね。記憶喪失になる前の私は、実家の家族とは仲が悪かったと聞いたから、こんな感じかなぁと、自分なりに強気の演技をしてみたのよ」
「奥様、それは承知しております。このまま公爵夫人らしく振る舞われるのがよろしいかと」
「騎士団長、理解してくれて嬉しいわ」
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