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記憶が戻った後の話
36 義母と姉の今後
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私の計画では、姉は心神喪失の状態なので無罪にして欲しいと国王陛下に嘆願書を提出するつもりでいた。
義母が王妃殿下のお茶会で〝娘の側にいて一緒に罪を償いたい〟と同情を誘うためにふざけたことを言っていたから、姉を辺境にある病院に入院させ、義母は姉の身元引受人として同行してもらおうかと計画していたのだ。
この国で身元保証人になると、監視役として病院に毎日面会に行くという決まりがある。王都から遠い辺境までは日帰りで通うのは無理なので、義母は辺境に引っ越さなければならないだろう。
姉は永遠に入院することになりそうだから、義母もずっと辺境に住まなくてはならず、義母は事実上の王都追放、父は一人で王都に残され、孤独な老後でザマァとやりたかったのに……
伯爵はこれ以上公爵家を怒らせたくないから、義母を修道院に入れることにしたのだろう。それは別に構わないが、私の計画が狂うことになってしまう。
どうしようかな? ……と悩んでいると、急に公爵から呼び出しを受ける。確か、今日は仕事で王宮に行っていたはず。もう帰って来たのね。
「アリー、急に呼び出してすまない。君の実家に関することだから、すぐに話したいと思ったんだ」
ベント伯爵家がついに没落するのかしら?
私は元ベント伯爵令嬢だから一応実家になるのかもしれないけど、私の実家は育ての親である使用人のおじさんとおばさんの家だと思っているから、正直、あの伯爵家のことはどうだっていい。
「何かありましたか?」
「ベント伯爵が爵位を弟に譲り、領地で無期限の謹慎生活をすることに決めたらしい。
君の義母や姉のしたことに対して責任をとりたいようだ」
「父の弟……? 私の叔父になる方ですね。
ベント伯爵家は没落するのかと思っていたので意外でした」
父に弟がいたなんて知らなかった。どちらにしてもベント伯爵家の人間にまともな人はいないから関わらないようにしよう。
もしかして、激怒した公爵が伯爵家に圧力をかけたから、義母の修道院行きと父の無期限の謹慎が決まったのかもしれない。これは慎重に離縁の話を持っていかないと、私自身も消されそうだわ。
「君は実家を嫌っているからどうでもいいのかもしれないが、私は伯爵家を没落をさせるつもりはなかった。
どんな家であっても君の実家であることには変わりないんだ。愛する妻の実家がなくならずに済んで良かったよ」
どうしてそんなに優しく微笑むの?
私は貴方が嫌っていた婚約者に瓜二つなのに……
「私の実家のためにそこまで考えて下さってありがとうございます」
「夫なら当然だ。ところで、話はまだある。
君の義姉だが、陛下と王妃殿下が恩情をかけて下さることになった。心神喪失の治療をするために入院させて欲しいという訴えを聞いて下さったんだ」
心神喪失で入院? それは私が望んでいたことだけど、まだ嘆願書を出していなかったのに。
もしかして……
「公爵様が陛下と王妃殿下に頼んで下さったのですか?」
「そうだ。アリーはあの女の処刑を望んでいなかっただろう? あの女の処刑を回避するなら、入院という形が一番自然だ。
アリーの義母が入る予定になっている修道院の隣には、同じ修道会が運営する病院がある。そこに入院してもらうことになった。
王妃殿下が教えて下さったが、君の義母は〝娘の側にいて一緒に罪を償いたい〟とまで話していたそうだな? その病院では修道女がたくさん働いているから、義母があの女の世話係になれるように陛下が頼んで下さるそうだ。
あの女は逃亡の可能性があって危険だから、病院の隔離室に入れられる。幽閉と変わらないから厳しい生活になるだろう。もうアリーと顔を合わせることはないから大丈夫だ」
悔しいけど私の計画よりも完璧だわ……
まさか公爵がここまでしてくれるとは思わなかった。
昔はあんなに冷たかったのに、この男は随分と変わったと思う。だからといって、私にした仕打ちは忘れられないけど。
「姉は処刑を免れて、きっと喜ぶことでしょう。
公爵様、私の実家の者がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
そして……、ありがとうございます」
「君が納得してくれたなら良かった。
アリー……、今後は私にも色々相談してくれないか?
今のアリーは、高位貴族の婦人達とも対等に話せるくらいの社交性があり、苦手だった両親や他の貴族を堂々と言い負かすくらい強くなって、公爵夫人として何の問題もない。
だが、夫としてはもっと頼って欲しいとも思ってしまう。若くて活発な君に、いつか捨てられてしまうのではと不安になってしまうんだ」
鋭いところを突いてくるわ……
私が両親を言い負かしたことや、義母同伴のお茶会で他の夫人達と楽しく過ごしてきたことを公爵には話していない。
護衛の騎士達や王妃殿下から色々と報告を受けて知っているのね。今の公爵はますます保護者のようだ。
弱っちいアリシアの将来を心配していたんだから、ちょっと強くなったくらいで、そんなに寂しそうにしなくてもいいじゃない。
「今の私がいるのは公爵様のおかげですわ。私が公爵様を捨てれるような立場ではないのです」
「すまない……。君は若くて美しいから、つい心配になってしまうんだ」
公爵自身が若い頃に婚約者を裏切った経験があるから、若い妻も自分を裏切るのではという不安があるのね……
バカじゃないの。せいぜい一人で悩むがいいわ。
公爵はその日以降、時間のある時は一緒に過ごしたいとやって来て私を困らせるようになった。
義母が王妃殿下のお茶会で〝娘の側にいて一緒に罪を償いたい〟と同情を誘うためにふざけたことを言っていたから、姉を辺境にある病院に入院させ、義母は姉の身元引受人として同行してもらおうかと計画していたのだ。
この国で身元保証人になると、監視役として病院に毎日面会に行くという決まりがある。王都から遠い辺境までは日帰りで通うのは無理なので、義母は辺境に引っ越さなければならないだろう。
姉は永遠に入院することになりそうだから、義母もずっと辺境に住まなくてはならず、義母は事実上の王都追放、父は一人で王都に残され、孤独な老後でザマァとやりたかったのに……
伯爵はこれ以上公爵家を怒らせたくないから、義母を修道院に入れることにしたのだろう。それは別に構わないが、私の計画が狂うことになってしまう。
どうしようかな? ……と悩んでいると、急に公爵から呼び出しを受ける。確か、今日は仕事で王宮に行っていたはず。もう帰って来たのね。
「アリー、急に呼び出してすまない。君の実家に関することだから、すぐに話したいと思ったんだ」
ベント伯爵家がついに没落するのかしら?
私は元ベント伯爵令嬢だから一応実家になるのかもしれないけど、私の実家は育ての親である使用人のおじさんとおばさんの家だと思っているから、正直、あの伯爵家のことはどうだっていい。
「何かありましたか?」
「ベント伯爵が爵位を弟に譲り、領地で無期限の謹慎生活をすることに決めたらしい。
君の義母や姉のしたことに対して責任をとりたいようだ」
「父の弟……? 私の叔父になる方ですね。
ベント伯爵家は没落するのかと思っていたので意外でした」
父に弟がいたなんて知らなかった。どちらにしてもベント伯爵家の人間にまともな人はいないから関わらないようにしよう。
もしかして、激怒した公爵が伯爵家に圧力をかけたから、義母の修道院行きと父の無期限の謹慎が決まったのかもしれない。これは慎重に離縁の話を持っていかないと、私自身も消されそうだわ。
「君は実家を嫌っているからどうでもいいのかもしれないが、私は伯爵家を没落をさせるつもりはなかった。
どんな家であっても君の実家であることには変わりないんだ。愛する妻の実家がなくならずに済んで良かったよ」
どうしてそんなに優しく微笑むの?
私は貴方が嫌っていた婚約者に瓜二つなのに……
「私の実家のためにそこまで考えて下さってありがとうございます」
「夫なら当然だ。ところで、話はまだある。
君の義姉だが、陛下と王妃殿下が恩情をかけて下さることになった。心神喪失の治療をするために入院させて欲しいという訴えを聞いて下さったんだ」
心神喪失で入院? それは私が望んでいたことだけど、まだ嘆願書を出していなかったのに。
もしかして……
「公爵様が陛下と王妃殿下に頼んで下さったのですか?」
「そうだ。アリーはあの女の処刑を望んでいなかっただろう? あの女の処刑を回避するなら、入院という形が一番自然だ。
アリーの義母が入る予定になっている修道院の隣には、同じ修道会が運営する病院がある。そこに入院してもらうことになった。
王妃殿下が教えて下さったが、君の義母は〝娘の側にいて一緒に罪を償いたい〟とまで話していたそうだな? その病院では修道女がたくさん働いているから、義母があの女の世話係になれるように陛下が頼んで下さるそうだ。
あの女は逃亡の可能性があって危険だから、病院の隔離室に入れられる。幽閉と変わらないから厳しい生活になるだろう。もうアリーと顔を合わせることはないから大丈夫だ」
悔しいけど私の計画よりも完璧だわ……
まさか公爵がここまでしてくれるとは思わなかった。
昔はあんなに冷たかったのに、この男は随分と変わったと思う。だからといって、私にした仕打ちは忘れられないけど。
「姉は処刑を免れて、きっと喜ぶことでしょう。
公爵様、私の実家の者がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
そして……、ありがとうございます」
「君が納得してくれたなら良かった。
アリー……、今後は私にも色々相談してくれないか?
今のアリーは、高位貴族の婦人達とも対等に話せるくらいの社交性があり、苦手だった両親や他の貴族を堂々と言い負かすくらい強くなって、公爵夫人として何の問題もない。
だが、夫としてはもっと頼って欲しいとも思ってしまう。若くて活発な君に、いつか捨てられてしまうのではと不安になってしまうんだ」
鋭いところを突いてくるわ……
私が両親を言い負かしたことや、義母同伴のお茶会で他の夫人達と楽しく過ごしてきたことを公爵には話していない。
護衛の騎士達や王妃殿下から色々と報告を受けて知っているのね。今の公爵はますます保護者のようだ。
弱っちいアリシアの将来を心配していたんだから、ちょっと強くなったくらいで、そんなに寂しそうにしなくてもいいじゃない。
「今の私がいるのは公爵様のおかげですわ。私が公爵様を捨てれるような立場ではないのです」
「すまない……。君は若くて美しいから、つい心配になってしまうんだ」
公爵自身が若い頃に婚約者を裏切った経験があるから、若い妻も自分を裏切るのではという不安があるのね……
バカじゃないの。せいぜい一人で悩むがいいわ。
公爵はその日以降、時間のある時は一緒に過ごしたいとやって来て私を困らせるようになった。
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