元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

辺境伯領での夜会 1

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 フィークス卿にエスコートされて、広間の入り口に向かうと、レジーナとおじ様・おば様がお出迎えしてくれる。美形一家が並ぶと様になるな!
 夜会が始まるまで、何か食べたり、おしゃべりして楽しんでいてねと言われる。

 広間に入ると、すでに沢山の人が来ていた。フィークス卿が言うには、分家や親族、近隣の貴族以外に、辺境伯軍の関係者、魔物討伐で来ている騎士団関係者に、出入りの商人までいるから、それなりの人数らしい。確かに、騎士が多い気がする。何だか、チラチラと見られている気がするわね。モテ男のフィークス卿が誰を連れているのか、気になるのかしら。しかも、誰か殺気を放ってない?なんとなくだけど。
 隣のフィークスを見ると、苦笑いをしている。ここにも、フィークス卿ファンが沢山いるのね。

「フィークス卿が大好きな御令嬢が、ここにも沢山いるようですね。さっきから、殺気を感じるような気がします。」

「マリーベル嬢、楽しんでいますね。しかしこの殺気は、令嬢ではないと思いますよ。」

「そうなのかしら。フィークス卿、もし誰かと話がしたいとか、ダンスがしたいとかあれば、私に気にせずに行ってきてくださいね。私は人の恋路を邪魔しませんから。」

 もしかして、本命の令嬢が来ているかもしれないしね。
 この前のデビュタントでは、ダンスが思った以上に忙しくて、人間観察出来なかったからね。この辺境の地で、令嬢の戦いとか見れたら面白いかも。ふふっ!

「…痛っ!」

 ちょっとー!今、デコピンした?思わず、フィークス卿を睨みつける私。

「何するのー!」

「このお姫様は、何も分かってないと思いまして。」

 何が分かってないだ!やられたらやり返したい私は、片手でフィークス卿の肩を押さえ、もう片方の手を伸ばしてデコピンをしようとするが、なかなか届かない。フィークス卿は、そんな私を見て楽しんでる。そんな時、

「フォーレス侯爵令嬢、先日はクッキーありがとう。」

 この声はあの方ね!このタイミングで話し掛けて来ないでよ!恥ずかしいじゃないの。後ろには険しい顔をした公爵様もいる。相変わらず、怖い表情しているわね。

「まあ。王都騎士団長様。ご機嫌よう。この前は、騎士団長様方の休憩をお邪魔して、申し訳ありませんでした。」

「いや。君の攻撃魔法や、馬術が見れて良かったよ。すぐに騎士団に入れそうだな。」

 褒めてくれて嬉しいけど、騎士団長様の後ろにいる偉い人にも、一応挨拶しようか。顔が怖いけど。

「公爵閣下、ご機嫌よう。」

「…ああ。この前は、クッキーありがとう。とても美味しく頂いたよ。食べたら疲れがスッと取れた気がしたが、あれは治癒魔法がかかっていたのか?」

 治癒魔法に気付いてくれた!やったわ!

「治癒魔法に気付いて下さったのですか?ありがとうございます。子供の頃から、ずっとやってきたのですけど、効果が分かりにくくて。でも、公爵閣下は気付いて下さったのですね。嬉しいですわ。」

 ん?何だか照れている?険しい顔が柔らかくなった?もしかして、ツンデレ系の人?

「いや、公爵だけでなく、私も気付いたぞ。すごいと思う。また作ったら、分けて欲しいよな。公爵?」

「ああ。機会があれば、お願いしたい。」

「そこまで言って頂けて光栄ですわ。また機会があればぜひ。」

 そんな話をしていると、2人は部下の騎士に呼ばれたようだ。

「また、後で!失礼。」

 今日はもういいよ。ふぅー。後ろに控えているフィークス卿は何かを感じたようだ。

「マリーベル嬢は、2人が苦手?」

 顔に出てたかしら?ヤバいわね。乙女ゲームの隠しキャラかもしれないから、実は関わりたくないのとは言えない。

「偉い人には、色々と気を遣ってしまうみたい。」

「確かに、偉い人達ですけどね。でも公爵閣下は、独身の令嬢達に人気だと聞きますけど。」

 独身の公爵なら、人気だろうね。顔だって整っているしね。いつも表情が、険しくて近寄り難いけど。

「人の好みは色々あるでしょうから。」

 話をしていると、夜会が始まるようだ。開始を合図する音楽が流れて、扉が開き、おじ様とおば様が入場した後に、レジーナは、あのいい感じの彼にエスコートされて入ってくる。もう両親公認なのね!
 おじ様が挨拶をした後、レジーナが紹介される。そして、何故か呼ばれる私。目立ちたくないのだけど。フィークス卿が、エスコートして、レジーナ達のところまで連れて行ってくれる。レジーナの親友であり、王弟の娘である私を、皆んなに紹介したかったようだ。一応、王族の端くれだから紹介するのだろうね。視線が痛いが。そして、ファーストダンスが始まるようだ。おじ様とおば様、レジーナが一緒に踊るわよと、私に圧力を掛けてくる。また人前で踊るの?
 そんな時、フィークス卿は私に跪く。

「マリーベル嬢、私と踊って頂けますか?」

「はい。喜んで。」

 みんなの視線が刺さるが、もうデビュタントで一度経験しているから、気にしてられない。今夜は楽しく過ごすって決めているからね。
 フィークス卿は、運動神経がいいのか、ダンスに安定感がある。踊りやすいよね。

「ダンスがお上手ですわ。」

「実は閣下と奥様に、何度もダンスの練習をさせられまして。かなりしごかれました。」

「ふふっ。おじ様もおば様も、熱血指導しそうですね。」

「剣の鍛練より厳しかったですよ。でもそのおかげで、こうやってマリーベル嬢と踊ることが出来ているので、感謝していますが。」

「私もフィークス卿とダンスが出来て嬉しいです。もうすぐ帰りますが、フィークス卿のおかげで、今回も楽しい時間を過ごせました。いつも、ありがとう。」

「…私も楽しかったです。またお待ちしています。」

 何となく寂しそうな表情だ。あれっ?何かドキドキしてる?イケメンのそういう表情は、心に良くないのかもしれないわ。

 曲が終わり、今度はレジーナの彼にダンスに誘われる。レジーナはおじ様と踊るようだ。せっかくなので、ダンスしながらレジーナとの関係について、根掘り葉掘り聞いちゃおうか。
 なるほど、昔から知っていて、気付いたら好きになっていたと…。まだ正式に婚約はしてないが、とりあえず婚約者候補にはなっていると。へぇ。ニヤニヤして話を聞いているうちに、曲が終わる。
 レジーナとの彼の後は、辺境伯のおじ様と踊る。話していて思うのは、おじ様も親友の父というより、親族のおじ様だわね。おば様同様に、すっかり仲良しだわ。
 おじ様とダンスもしたし、この後はもうダンスはしたくないわね。知らない人に誘われるが、少し疲れてしまったのでとやんわり断り、壁側へ移動する私。飲み物でも飲みながら、人間観察でもしようかなぁ!すると、飲み物を持ったフィークス卿が来てくれる。気が利くのよ、この人は。お礼を言って飲み物を飲んでいると…

「フィークス卿、ご機嫌よう。会いたかったわ。」

 おっ!フィークス卿と同じ年代の令嬢かな。大人の雰囲気があるわね。フィークス卿の腕に絡んで、胸を押し付けている?おおー!勉強になりますわ、お姉様。しかも、ドレスはずいぶんと胸元が開いているぞ!谷間くっきりだわ!
 さあ、フィークス卿はどう出る??と思って、彼の顔を見ると。…えっ?嘘でしょ?

「トンプソン男爵令嬢、馴れ馴れしく触れないで頂きたい。誰かに相手にして欲しいなら、あちらに独身の騎士達が沢山いますから、あちらにどうぞ。」

 フィークス卿は、スッと令嬢から離れる。あんな冷たい表情のフィークス卿は、初めて見たわ。怒ると怖いのね。気を付けよう。

「フィークス卿ったら、今日はお子様の御守りだからって、気が立ってるのかしら。」

 令嬢は私を見てクスクス笑う。おおー!私にボールを投げたわね。ふふっ!私も負けないわよ。胸が大きいからって、調子に乗ったことを後悔させてやる!

「フィークス卿。こちらは、娼館の方かしら?今日は色々な方がいらしていて、楽しいパーティーですわね。」

 まだ十代だから許される(?)、上目遣いで首を傾げる私。
 フィークス卿は、目が笑っている。

「こちらは一応、男爵令嬢の方ですよ。」

「フィークス卿ったら、私がまだデビュタントを迎えたばかりの、世間知らずだと思って揶揄ってません?王都でこんなドレスを着ているのは、娼婦だけでしてよ。それに男爵令嬢でしたら、王族に対してのマナーくらい、子供でも分かるはずだわ。」

 ここで令嬢に微笑む私。悔しそうに私を見る令嬢。態度悪いわね。周りからはクスクスと笑う声が。

「ほら、見まして?服装だけでなく、この態度は貴族令嬢とは思えないわ。辺境伯のおじ様も、顔が広いから色々な方を招待なさっているのね。本当に楽しいパーティーだわ。ふふっ。」

 私、悪役令嬢にならないように気をつけよう。
 しかし、この令嬢は私より5歳以上年上よね。もっと大人らしくしようよ。
 その時騒ぎを聞いたのか、父の男爵らしき騎士が、慌ててやって来る。辺境伯家の分家なのかな?私に平謝りしていたわね。令嬢は引きずられて、退場して行った。

 フィークス卿、笑いすぎよ!!

 どれ、バトルの後はお腹が空いたから、何か食べようかと思っていると…。


「ちょっとアンタ!死んだんじゃなかったの?」
 






 




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